285日目 たからばこ(3)
【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(非公式)(鍵付)・クラン[Clione]の部屋】
[エストマンの犬]
さっきはフォロー、ありがとうございました!
すみません、まだ属性関係把握できてなくて……
[さあか]
大丈夫よ
その内慣れてくるから、落ち着いて、ね
[エストマンの犬]
はい、ありがとうございます
[エストマンの犬]
……それであのー、自分、こんなかんじでいいんですかね?
なんか助けてもらってばっかりで、全然先輩方のお役に立てなくて……
[mu-ma]
気にしなくていいですよ
っていうか、私だってまだまだ新米で大差ないですから
一緒に成長していきましょう
[chichika3335]
そうそう、お互い様だよ~
[chichika3335]
あ、そだ、一つだけ
アドバイスっていうほどのものでもないんだけど、私が相手してる幻獣とは別の個体を狙ってくれると助かるかな~
そのほうが効率が、
[さあか]
チカ、そういうのいいから
[chichika3335]
え? でも……
[さあか]
人には人のペースがあるんだから
エスト君はまだ慣れてないの
いきなり色々詰め込んだって、逆にこんがらがっちゃうでしょう
[chichika3335]
……あー、うん、分かった
ごめんね、犬君?
[エストマンの犬]
ぼ、僕は全然!
寧ろダメなところはダメってはっきり言ってもらえたほうが、……
[エストマンの犬]
で、でも、そうですね
確かに僕レベルなんかじゃ、今教えてもらっても実践できないかもしれませんね……
は、はは……、すみません、えーっと、……あ
[mu-ma]
どうかしました?
[エストマンの犬]
さっきギルドにいた方が見えました
あの人達も古城遠征に来てたんですね!
うさぎのドール、可愛いな~
[さあか]
どこ?
[エストマンの犬]
シャンデリアの広間のほうです
[さあか]
ふーん……
当て付けかしら
[mu-ma]
え?
[さあか]
でも、上手くいってないみたいね
あれじゃあ何の嫌味にもならないわ
[chichika3335]
………………
******
護身具アビリティ――――つまり私で言うところの傘による技は、スキルのクールタイムの間に使うべし。
強力なダメージスキルは、バフデバフがかかっているときを狙って打つべし。
ねじコちゃんの教えは、単純明快にして簡単なものだった。っていうか、今まで私も普通にやってたことだと思うんだけどな。
だってシステム的な問題で、そも【傘技】とスキルを同時に発動することはできない。
範囲ダメスキのレオニドも、以前の都遠征で教えてもらったことを忠実に守ってるから、【氷柱雲母】と【マグネティック・フィールド】を重ねて使うようにしている。
んー、他に何が足りなかったかな。
「そうですね。雷技の重ね掛けはやはりブティックさんの十八番。素晴らしいです。でも――――――」
――――――……優先順位と、意識。
呟いたねじコちゃんの琥珀色の瞳が、一瞬、仄かな光を灯した気がした。
「前提としてまず、ブティックさんには私達をサポートするっていう姿勢で臨んでもらいたいんです。私達、ブティックさんに助けてほしいんです」
「助ける? 私が? で、できるかなあ。逆に私が助けてもらってばっかな気が」
「その感覚、一旦捨てましょう。言い換えれば、本来頑張らなきゃいけないのは遠征慣れしていないブティックさんじゃなく、比較的上級者な私達の側なんです。だからメインで敵モブやギミックを処理してかなきゃいけないのは、私達です。ブティックさんは別に、私達と同じ働きをしなくていいんです。ただ、ブティックさんにできる仕方で私達をサポートしてくれると、とってもありがたいです」
私はねじコちゃんの言わんとしていることを悟り、姿勢を正した。彼女は親切で、且つとても合理的な人だ。
私にできることって何かな。気を引き締めて尋ねると、ねじコちゃんは小さく頷く。
「ブティックさんはとても強力なダメージスキルをお持ちです。だからそれを活かして、敵対幻獣への反撃に意識を集中していただければと。遠征って、やることいっぱいあって手足が何本あっても足りないですよね。攻撃だけじゃなく回復もしなきゃいけないし、敵味方の動きを把握しなきゃいけないし、しかもここアポレノの古城は他にも処理してかなきゃいけないギミックが盛り沢山。でもブティックさんは、一旦そういうの全部忘れましょう。全部私達に任せてくれてオーケーです。今までのかんじブティックさん、自分であれやこれや色んなところに気を回そうとして、それで混乱して自滅しちゃうってパターンが結構見受けられますので」
う。全くもってねじコちゃんの言う通りだ。
少しでもみんなの役に立たなきゃ、自分のことは自分で何とかしなきゃ、状況を理解して柔軟に立ち回らなきゃって、気持ちばっかり先行しちゃって、それに体が付いて行かないんだよね。
そうするともう訳分かんなくなっちゃって、普段できてることもできなくなっちゃうってことが確かにある。
「だからまずは、シンプルに考えましょう。ブティックさんの役目は、攻撃。仲間を巻き込むんじゃないかとか、そういうの考えなくていいです。私達が察して動きます。あ、勿論氷柱雲母は欲しいですけどね。それと自分の回復とかも気にしなくていいです。私がやります。だからブティックさんの立ち位置はここ――――――」
言ってねじコちゃんは、自分の足元を指さした。
「――――――私の傍にいてください。私に動きを合わせてください。そしたら私が、ブティックさんを守りますから」
お、おお……! なんと頼もしい!
ねじコちゃん、漢前過ぎてうっかり惚れちゃいそうだよ……!
と、私は感激するも、なぜかねじコちゃんははっとして焦りだす。
「あ、あの、これはあくまで提案ですからね! ブティックさんの自発性とか自分なりの考えとか、そーゆーの無視したいわけじゃないですから! 強制じゃなくて、決めるのはブティックさんですからね!?」
「え、うん。別に強制されたとか全然思ってないから平気だよ。寧ろすっごくありがたいよ。アドバイスしてくれるのも、アシストしてくれるのも」
「~~~~っ……はい!」
真剣な顔で頷いて、ねじコちゃんは続ける。
「それで、攻撃専門家のブティックさんには、いかに多くの敵を捌けるか、いかに大きな火力を出せるかっていうことだけを考えて、行動してほしいんです」
「う……なんかいきなり難しい話に……」
「む、難しいですか!? あの、難しければ全然無理しなくていいんですけど、でも要はさっき言ってた二つのことをやってほしいって話でして……」
「そこに繋がるんだ? えっと、アビはスキルのクールタイム中にっていうのと、ダメスキはバフデバフがかかってる間に、だっけ」
「はい、そうですそうです。それを高火力広範囲っていう目的のもと実践すると、かなり違ってくるんです。つまりブティックさんの場合で言うと、バフデバフ中のダメスキをできるだけ沢山打つっていうのがミソかと」
あ~~、なるほどね。それで『意識』と『優先順位』なわけか。何となく分かってきたぞ。
つまり、ダメージスキルは護身アビリティより優先度が高いんだ。
だからまず打つべきはダメージスキル。傘技はオマケみたいなもので、スキルのクールタイムが上がるまでの暇なときに使ってねってことか。
それを「意識してね」って言われてるってことは、私は意識が足りてないよってことであり。
……うん、確かに私、そういう感覚は持ってなかった。そこまでスキルのクールタイムを気にしてはいなかった。
「因みにですがブティックさん、ハッドにクールタイム情報入れてます?」
「『ハッド』? ……とは?」
「HUD――――んーと、視界情報にスキルとかのクールタイムバーを表示させることができるんですけど」
「そんなことできるんだ。知らなかった」
「是非設定しておきましょう。全部表示するのは逆にややこしくなるのでお勧めしないんですけど、個別に選んで表示できます。【必中】、レオニド、アジサイ、この辺を特に」
「はいっ、了解であります!」
ねじコちゃんの指導のもと、私はHUDとやらの設定をいじっていく。へーっ、視界に表示できる情報ってこんなに細かく色々あったんだ。
ねじコちゃん曰く、遠征ガチ勢はこれのレイアウトをかなり拘るらしい。でも私の場合は混乱を避けるため、今のところ変更するのはクールタイムバーのみにとどめるようにとのお達しだ。
ええ、全く異論はありません。








