283日目 トイサイズ
ログイン283日目
ねじコちゃんの希望は、私のバンビフードを白ウサギ版にしたものと、それに合う色のオーバーオールを~とのことだった。
それでねじコちゃんの水色の髪や白い陶器製の肌のことも考慮して、オーバーオールはライトグレーにしてみた。冬のウサギさんてかんじで、ひんやりふわっとしたカラーコーデだ。
こちらは既に登録してあるレシピをちゃちゃっと弄るだけだったので、問題なく完成。予想はしていたけど、苦戦したのはドール用の衣装のほうだ。
もも金さんから入手できた【トイ】サイズの型紙は五、六点あったものの、ピンポイントに着ぐるみという種類はなかった。
よって手元にある型紙を参考にしながら新たな製図を引いたり、ドールにフィットするよう、またバランスが自然に見えるよう調整するのに、多くの時間を費やした。
きまくら。の装着アイテムは、システム補正で大体のサイズ感が合えばとりあえず着られるようにはなっている。
でもドールは頭の大きさとか手足の長さとか、人間アバターの服とは大分比率が違うからさ。ただ縮小すればいいってもんじゃないんだよね。
んで当たり前だけど、小さい分作業にも細やかさが求められる。それで普段よりもかなり神経を使う仕事となった。
特に大変なのが縫製ね。
ミシンだと針目の幅調節には限界があるわけで、服のサイズに比べて縫い目は通常服より大きくなる。するといつもなら見なかったふりをするちょっとした縫製の歪みなんかも、無視できなくってさ~。
しかも今回の作品は着ぐるみ、使っているのは毛足の長い素材というわけで、めっちゃ縫いにくい。ミシンを動かすのが難しくて、最終的にほとんど手縫いになっちゃった。
ミシンのような均一さはないけれど、毛足が長いということは縫い目が表に出にくいということもあり、こっちで正解だったな。ふう。
今回挑戦してみて改めて分かったけど、人形作家さんて凄いや。
私なんかはシステム補正によって、ぎりぎりVRで楽しく作れてるくらいの感覚だもの。リアルでこれやらされたら、ちょっと正気を保っていられなくなるかも。
刺繍とかアクセサリー作りの細かさとはまた違うんだよね。普段大きいサイズで作ってるからこそ、それを小さくしたときの思い通りにいかないもどかしさというか何というか。
でもね、苦労したかいあってか、すっごく良いものが出来上がったよ。
【ウサギトイスーツ】
品質:★★★★
火傷耐性の力を秘めたトイサイズの服。
主な使用法:装着
効果:[火傷]無効
消耗:570/570
習得可能スキル:月虹 大掃除
チャレンジスキル:大胆不敵
(月虹:条件発動スキル 消費50~ 夜時間限定で発動可能 自身と仲間の特殊装着アイテムの[消耗]を回復する(小))
(大掃除:任意発動スキル 消費90~ 野外で発動:フィールドギミック[茨][毒虫]を一定時間無効化する(範囲・大) 拠点で発動:室内の散らかった物を綺麗にする)
(大胆不敵:任意発動スキル 消費30~ 一定時間敵対幻獣の注意を引き受ける+自身の[力]、[集中]を30%増加(範囲・中))
じゃーん、集荷×2! ちょっと面倒なチャレンジスキルも入れれば、スキル×3!
ミラクリシステムさん、私の甲斐甲斐しき努力を読み取って応えてくれたのかしら。
内容もなかなかいいでしょ。
特に装備の[消耗]を回復してくれる【月虹】は、ドール遣いに打ってつけのスキルなんじゃないかな。ドールは消耗値が低いらしくメンテナンスが大変って聞くもんね。
【大掃除】は、野外で使う場合と拠点で使う場合で効果が違うっていうのが面白いね。
でも拠点発動の効果がイマイチ分かり辛いな。後でねじコちゃんに使い勝手のほう、聞いてみよう。
……って、あれ?
そういえばこれ、ドールが着る衣装なんだよね。となるとスキルもドールが習得することになるのかな。
以前クー君のドールに衣装を作ったときもその疑問は過ぎったものの、あの時仕立てたものは人間サイズと変わらなかった。だからクー君が習得してからドールに着させることも可能なわけで、まあいっかってなってた。
でも今回のはトイサイズ、ねじコちゃんは着られない。
もっともドールが身に着けた特装アイテムも、使役者の特装スロットに登録される。その仕組みからするとスキルもプレイヤーが取得できる……のか?
や、でも確か記憶を辿るに、クー君てドールに【メリー・ゴー・ラウンド】発動させてたよねえ。
その辺ちょっと引っかかってしまったので、私はクー君に直接尋ねてみることにした。答えは即返ってきて、「自分で覚えることもできればドールに覚えさせることもできる」とのこと。
何でも特装アイテムに付いた未使用のスキルは、その時点でプレイヤー自身のスキル一覧から選んで発動することもできるし、ドールの操作コマンドからスキルを発動することもできるんだって。
で、最初どっちを選んだかによって、自分が覚えるかドールが覚えるかが決定するらしい。
チャレンジスキルのほうは、クー君も「そういった事例に遭遇したことがないから分からない」って言ってた。チャレンジスキルは、取得条件が該当スキルの“使用”に拘わらない場合が多いから、確かに予測が付かないな。
でも少なくとも通常習可の二つのスキルはプレイヤー本人も取得可能とのことで、安心である。
ドールって結局装備品の一部だから、他の装着アイテムと同じで、いつまでも同じ物を使うってことは少ないと思うんだよね。レベルアップやフィールドの違いに合わせて、きっと都度替えていかなければならない。
だから普通に考えれば、プレイヤー側がスキルを取得したほうが絶対お得に違いないのだ。
その真反対のことを素でやってのけてるクー君は……うん、普通の人じゃないんじゃない? まあ、彼はドールの遣い手であると同時に作り手でもあるから、その辺の違いもあるだろうけど。
因みに、私からの久々の連絡に即返事をくれたクー君。優しい子かと思いきや、一連のやり取りののちこんなメッセージが来てまして。
[滅べクレクレ]
楽しみに待ってる
………………いやいやいや。
違うから。いつ私が君のドール用衣装を作ってるって言ったよ。私は質問しただけなんだから。
ドール遣いが自分だけと思うな!
まあね、実際こうして情報提供してくれたことはありがたいし、クー君には前ビニール素材の件でお世話になったこともある。頼まれれば全然依頼受ける気はあるけど、でもそれはそれ、これはこれ。
彼の言動やら性格やら鑑みるに、この反応は純粋な勘違いとかじゃなく、流れでゴリ押せば何とかなるやろって思惑をひしひしと感じるんだよね。
そういうの、おねーさんはどうかと思うなー。人に物を頼むときはちゃんと自分の口でお願いするべきだと思うなー。
甘やかし、いくない。
というわけで、「ありがとねー」とだけ送って、一旦スルーすることにしたワタクシなのでした。








