279日目 夢幻の右手を持ちし者(前編)
【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(個人用)】
[ねじコ+]
新人育成?
[さあか]
そう、だから悪いけど、しばらくクラン遠征からは抜けといて
[ねじコ+]
そうなんだ……
じゃあ、今後も幾らかメンバー増やす方向性でいるのかな
[さあか]
いや別に
そういう予定はないけど
[ねじコ+]
え?
ずっと五人でやってくつもり?
パーティは最大四人編成だから、それだと毎回誰かあぶれることになるけど
[さあか]
まあね
でも仕方ないかなと思って
ねじコさん主体は生産職なわけだし、別に問題ないんじゃない
[ねじコ+]
私遠征で固定パ組めるんならっていうんで、このクランに入ったつもりだったんだけど……
[ねじコ+]
もしかして、遠回しにクラン抜けろって言われてる?
[さあか]
……察してんなら黙って抜ければいいじゃん
[ねじコ+]
えっ
[さあか]
つまりそういうこと
ごめんね
うちのクランにあなたは合わなかったみたい
[ねじコ+]
そ、……うなんだ
……そっか、分かった
その、良ければ理由とか教えてもらえないかな
私、みんなに何か悪いことしちゃったかな
[さあか]
分かってないの?
[さあか]
めんどくさ
[さあか]
あのね、ねじコさん
私達はあなたの操り人形じゃないの
[ねじコ+]
?
そんなの、知ってるけど
[さあか]
知ってないから、いちいち口煩くみんなのプレーにケチ付けてくるんでしょ
あなた指示厨なのよ
[ねじコ+]
えええ?
……あっと、もしかして今日ムーマさんに範囲技積極的に使ったほうがいいよって言った、あれ?
ごめんケチとか指示じゃなくて、軽いアドバイスのつもりだったんだけど……
[さあか]
それだけじゃなくて、他にも沢山
スキルの順番だとか、アビとの組み合わせだとか、発動時間が何秒でクールタイムが何秒だからタイミングがどうのだとか、
いちいちこまっかいのよ!
[ねじコ+]
そ、そんなふうに思ってたんだ
[さあか]
確かにねじコさんの言ってること自体は正しいんだと思う
でもね、私達とあなたとじゃ、レベルも経験も全然違うの
上級者のあなたにいきなり全部合わせられるとは思わないで
私達は私達で自分なりに色々試してみて、これから成長していくところなんだから
[ねじコ+]
……そう、だね、ごめん
私、悪気があったわけじゃなくて、ただちょっと意識するだけで全然遠征楽になるところもあったから、
そういうの教えてあげたほうがいいのかなって
プレッシャーかけたいわけじゃなかったの
[ねじコ+]
チカちゃんとかにも、立ち回り教えてって頼まれることよくあったから
[ねじコ+]
でも、そっか
ほんとはみんな私のこと、お節介に感じてたってことなのかな
[さあか]
そうね
みんな裏ではあなたのこと「めんどくさい」って言ってたわ
[ねじコ+]
………………
[さあか]
まあ、別に誰が悪いって話じゃないよね
普通に私達とねじコさんの考え方とか性格とかが合わなかったってだけ
だから、ごめんなさいね?
[ねじコ+]
……うん
分かった
******
ログイン279日目
新衣装を身に纏った私は、鏡の前に立ち、色々な角度から仕事の出来栄えを確認する。
メインアイテムは何と言っても、鹿耳&鹿角付きのもふもふ頭巾である。
色は優しいピンクベージュで、ボンネットみたく首元でリボンを結ぶ仕様にしてみた。この黒のベルベットリボンがまた、上品キュートで良い味出してるんだよね~。
裏地や鹿耳の内側には水玉柄の生地を貼って、ポップなテイストを足している。
耳の上の角は、【クロハナジカの角】という本物の鹿角を使用しているよ。
この頭巾だと元々生えてる角や耳は見えなくなるんだよね。帽子とかだと見えるタイプのものもあるんだけど、型によって仕様が違うみたい。
なので人工で部位を取り付けてみました。
クロハナジカの角は私の濃茶色の角とは違い、樹皮のような模様の入った淡い灰色だ。これはこれで気分が変わって良いね。
とまあお分かりの通り、この前の着ぐるみ作りの楽しさが未だに後を引いてます。
っていうかあの時は、第一にモシャという男に着せることが決まってたから、ついネタ的な見方のほうが勝っていた。でも冷静に考えたら私の作った着ぐるみコーデ、普通に滅茶苦茶可愛いじゃんねってことに気付いたのだ。
カッコイイ系のメンズアバターが着るから「くすっ」てなるんであって、可愛い系の女の子が着たら笑うどころじゃありませんよ。メロメロですよ。
でも確かに全身モコフワは主張強いよなーってんで、頭だけにしてみた次第です。
んで体のほうの衣装なんだけど、今回は珍しくスカートでなくパンツスタイルにしてみました。
使ったのはこちら、【ツナギ】のレシピ。元の型紙は作業着感の強いオールインワンだったんだけど、これをちょこちょこ改造して、メルヘンなフードに似合うよう仕立ててみたよ。
袖と首回りをノースリーブのオーバーオールタイプにして、ボトムス部分は膝辺りをふんわり、足首を軽く絞ったエッグパンツに変更した。
素材はバンビフードの裏地に使ったのと同じ、ピンクベージュに白の水玉柄の【ジュエルコットン( ˙꒳˙ )】。厚みのあるガーゼ生地で、さらっとした素朴な風合いがグッドなのだ。
中には白いブラウス、上にはライトグレーの半袖カーディガンを羽織って、足元は黒のローファーでちょぴっと辛みを足す。これでコーディネート一式が完成。
いや~、ビビアちゃんかわゆいですな~。と、鏡の前でくるくる回る上機嫌なワタクシなのでした。
ところで何で急に衣装を一新したかと言うと。勿論気分を変えたいとか、着ぐるみが可愛かったので自分も取り入れたかったとか、そこら辺のファッション的理由も勿論あったんだけど、それ以上に逼迫した事情がありましてですね。
実は数日前、私の弟子を名乗るヴェンデル君から、こんな連絡が入ったんだよね……。
[Ψヴェンデル・シェードΨ]
そんなわけで無事順調に三国の初期フィールド踏破できました!
それもこれも師匠の教えと師匠がくれた装備のお陰です!
[Ψヴェンデル・シェードΨ]
いや~師匠にも見てほしいですよ、我々楽団・劇薬の成長っぷりを
もう師匠におんぶに抱っこだったあの頃の我々とは全然違いますからね
[Ψヴェンデル・シェードΨ]
そうだ、師匠、明日久しぶりに一緒に遠征行きません?
アポレノの古城に挑戦する予定なんですけど、例によってまたたてふじの奴が家の手伝いだとかで来れなくって
PTの枠一個余ってるんで、もし都合があいましたら是非是非!
ひええええ~~~~! 恐れていたことが現実にいいいい~~~~!








