270日目 ハッピーセット
ログイン270日目
主役は白の【アクアメリタン( º言º)】を使った、柔らかな革っぽい風合いのだぼっと【パーカー】。アクアメリタンは【エレメリタン】に水属性加工を施した生地である。
こちらは各所に和テイストな蛸や桜、麻の葉模様――――六角形の幾何学的な和柄――――といった図案をカラフルに刺繍して、スカジャンっぽくしてみた。
インナーの【ティーシャツ】とボトムスのパンツは黒のシンプルなものにして、上着と小物が映えるようにバランスを取る。
足元は【ビーチサンダル】でアウトロー感を演出。【オクトビニール】でオレンジの鼻緒を作ってみたよ。
これに【ハッピーメガネ】を合わせるとなると、視点は大分上部に集中することになるだろう。となるともっと大袈裟なくらい、上をごちゃごちゃ下をすっきりな比率にしてもよさそう。
よって、賑やかし要員のアクセサリーを充実させてみた。
緩めに付けるメタリックシルバーのチョーカーに、銀のネックレス、それから公式アイテムの【ヘッドホン(黒)】も足しちゃう。最後に粘土を焼いて作った、大振りな和柄ピアスを用意して、コーディネート一式が完成。
【ハッピーパーカー】
品質:★★★★
火傷耐性と水の力を秘めた服。
主な使用法:装着
効果:[火傷]無効 水属性付与 手際+500
消耗:550/550
習得可能スキル:コントロールゼット
(コントロールゼット:任意発動スキル 消費70~ [衰弱]を除いたすべての状態異常、スキルによるすべてのバフ・デバフを解除する(範囲・大))
うん、いいね~。クラブとかライブハウスとか出入りしてそうな、個性派やんちゃボーイの誕生だ。
でも何と言ってもこのファッションの肝は、浮かれたハッピーメガネ、そして付随するアクセサリーである。こういった顔周りを飾る小物達は特に、味気ないマネキンやトルソーではなく、実際に着用者がいてこそ真価を発揮するというもの。
ああ、モシャさんがこれらを身に着けてるところ、早く見てみたいな~~。あの軟派そうなアッシュの癖毛とモヤシなスタイルに、絶対似合うと思うんだよね~~。
でもね、そうやってすぐにでもこの“ハッピーセット”を送りつけたい気持ちを今日まで我慢してきたのには、訳がある。
実はこれらの衣装を作っている最中、ふと思い出したのだ。
そういえば先月もも金さんから購入したはいいものの、まだ活躍してなかったレシピがあったなって。鶯さんが「こんな変わり種もあるんですけど、どうですかブティックさん」ってお勧めしてくれて、一目惚れの即買いしたやつ。
ずばりその名を、【ウサギの着ぐるみのレシピブック】という。
うむうむ、思い出すでしょう。最近耳にしたばかりの、某名台詞。
『あなたが「一生クマの着ぐるみ着てろ」とでも言うのなら、俺は一生クマの着ぐるみでいます』
いやあ、何度脳内再生を繰り返しても、こう、胸にグッとくるものがありますね。モシャ氏ったら色男~。
なんて冗談はさておき、私はこう思ったのです。これはチャンスだと。
軽薄そうなあの人のことだ、きっと時間が経てば自分がこんな殺し文句をほざいていたことも忘れてしまうだろう。けど今この時だけは、私から恩を買った記憶もまだ新しいこの期間中だけは、私からの我が侭は大体通ることであろう。
つまりこれは、モシャ氏を着せ替え人形にして遊ぶまたとないチャンスなのである。
私の脳内に【ウサギの着ぐるみ】がちらつく。全身もこもこの毛皮に包まれた、デッカくてキュートな獣頭のオールインワン。
あれを“ファッション”と定義できるのであれば、個性的以外の何物でもない。そして日本人――――まあこれに関して言えば日本も外国もなさそうなものだけど――――は基本的に目立つことを嫌う。
ふふ、目に浮かぶようなのだよ。張りきって作ってみたはいいものの、ハッピーメガネと同じく注目を集めるだけ集めて売れ残る着ぐるみ達という末路がさ。
まあ私はゲームにおけるクラフトで、売れるもの、人気なものを沢山作ることが正義とは思っていない。でもやっぱ世に出すからには、作品達には“運命の人”に出会ってほしいと思ってる。
であればこれから私が作らんとする着ぐるみちゃんにとって、『俺は一生クマの着ぐるみでいます』、こんなことをのたまう男以上に相応しい人間なんているだろうか? いやいない。
チャンスは今だ。今押し付けずにいつ押し付ける!
かくして私はモシャ氏に贈る二つ目の衣装に着手するのであった。
公式レシピをそのまま【裁縫】スキルで仕立てると、かなりダボついたデブっちょ着ぐるみが出来上がった。頭部分はフード仕様で、ウサギの口から顔を出す形になっている。
まあ普通にこのままでも可愛いけど、やはり自分なりにアレンジしてみたいとうずうずしてしまうもの。
それとモシャ氏はウサギではなく『クマの着ぐるみ』をご所望のようなのでね。
逃げ道を塞ぐ意味でもここはクマ型に作り直して、それからもうちょっとスタイリッシュに見えるよう改良していこうかな。着ぐるみなのにスタイリッシュとは、ってかんじではあるけども。
まずは【製図】スキルでレシピから型紙を書きだし、調整するところから始める。
短い手足はもふっと感を残しつつも、もうちょっと長くして、人間ぽさを強くしておきたい。
それからフード部分をウサギ型からクマ型に書き換えていく。
公式レシピでは目とか鼻とかのパーツがキャラクターチックに配置されてるんだけど、これは全部取り除けちゃってもいいかも。
その代わり顔を出す空間をもっと広めにとっておこう。外ガワのキャラクターよりは、中の人のキャラクター重視ってことで。
一旦製図をこねこねするのはこの辺にして、後は実物を製作がてら形をいじっていこうかな。今回メインで使うのはこちら、キャラメルブラウンに染まった【ウルスミンクの毛皮(~ ˙꒳˙ )~】である。
毛足の長い滑らかな手触りのファーでね、もうほあっほあよ、ほあっほあ。お色もザ・テディベアってかんじで、可愛いのだ。
とりあえずこちらをパーツごとに分けた状態で縫製する。
んで、顔部分はただフードをぱさっと被る薄いガワではなく、もっとしっかりとクマフェイスの形を固定したいんだよね。よって私はフードの中に綿を入れ、さらに芯材となる【硬質エレメリタン(>ω< )】を仕込み、綺麗な丸顔のクマガワを作っていく。
硬質エレメリタンはその名の通り【エレメリタン】のしっかりバージョンという合成繊維らしく、低反発マットレスのようなしっとりした弾力が特徴である。
こちら、エレメリタンと同じくきーちゃんクー君の共同開発による新作となっております。あの姉弟、表舞台に立つことは少ないけれど、相変わらず裏でしっかりやってるようです。
「バッグの芯材とかに使うといいかもだから、サンプル品送っておくね~」といただいたこの素材、ばっちり活躍してくれて嬉しい限りだ。
あとはクマガワフードの縁からベージュ色の【クラウドウール】を巡らせて、イヌイットの民族衣装みたいなもこふわ感を演出しようっと。クラウドウールはクマ耳の内側にも張って、手足の先っちょからチラ見せする手袋と靴下にも使用する。
あ~~~~、縫いぐるみだ~~~~。可愛い~~~~。
最後に胴体正面真ん中に大きめの木製ボタンを三つ配置。
首元にリボン……は、さすがに自重しようか。男にこれはプリティ過ぎるものね。
わーい、できたー! いや着ぐるみ製作たっのしい~~~~!
リアルでも挑戦したことない分野だったから、なんだかすっごいわくわくな気持ちで作業できたよ。これは新境地を切り拓いた気分。
そうして私は、トルソーに飾った完成品を改めて眺める。自分の仕事の出来を確認して満足感に浸る、物作りの醍醐味とも言える大事な時間だ。
……なんだけど。
………………うず。うずうず。
満足……できない……。まだ、作り足りない……。
――――――気付いたらば、クマさんの隣にはウサギさんパンダさんというお友達が二人もできていて、VRセットを外せば夜は明けていたのだった。








