262日目 ハッピーメガネ(裏編)
【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(個人用)】
[たに]
おまえほんっといい加減にしろよな
[モシャ]
いやもうほんっとすんません!
まさかグレ太が地離滅裂打った先にササさんがいるとは夢にも思わず!
[たに]
それだけじゃねえ
昨日の虫の暴走といい一昨日の犬の「お手」といい、てめえラッシュ入ってから何回ササさんに誤爆したと思ってんだ
[モシャ]
すみませんすみません!
いや~久々なラッシュ参加なもんで、ついFF入ること忘れちゃうんですよね~
……やっぱササさん、怒ってました?
[たに]
ったりめえに決まってんだろ!
昨日までは我慢なさってたみてえだが、今日こそはついに堪忍袋の緒が切れたとよ
おまえみたいな無能はいても迷惑、さっさと破門しろとのお達しだ
[モシャ]
でででですよねえ~~!
俺みたいな無能は無職にいさせてもらう価値だなんて1ミリほどもないっすよねえ~~!
いやあ、ほんと残念ですわ~
折角憧れのたにさんに誘ってもらったってのに、いやほんっと残念っすわあ~~
へへ、へへへ
[たに]
……おまえまさかとは思うが、ここ最近やらかしてきたことすべて、わざと、ってこたあねえだろうな?
[モシャ]
え、え?
何のことです?
[たに]
自らが招いたピンチを切り抜けるため俺に適当こいて取り入り、
しかしその流れでうっかり入団するはめになってしまったこのクランからは何としてでも脱したい
よってササさんから嫌われまくれば……
[たに]
なーんてこと、考えてねえだろうなあ?
[モシャ]
まっ、まっさかあ~!
ささ、さすがに俺もそんな薄汚い真似はせんですよお~!
っていうかその、無色協定のことはほんとに俺、リスペクトしてますし?
入れてもらえてすげー光栄だなー、毎日居心地良くて反吐が、じゃない、えー、なんつーかこう、向上心が湧き上がってきますし?
それが早々に退団なんてことになって、もう悲しくて悲しくてしょうがないですよ
[たに]
ほーん?
[たに]
まあいい
勿論、こうなった以上てめえは二度と攻略前線のフィールドには立てないってこと、弁えてんだろうからな
特にラッシュ時の深層なんかにはな
[モシャ]
はい?
[たに]
何とぼけた声出してんだ、当たりめえだろ
てめえはササさんの不興を買ったんだ
今後ササさんの視界に入るや否や貴様の体はホームに飛ばされると思え
クランの他のメンバーだって同じ対応をするだろうよ
当然俺もだ
おまえはササさんの前で俺の顔面に泥を塗りたくってくれたわけだからな
[モシャ]
じ、冗談よしてくださいよ!
そんなんされたら俺、今後まともにきまくら。プレーできませんって!
[たに]
嫌ならブロックでも何でも使えばよかろうよ
[モシャ]
あんたらeeと通じてるから、見えない相手にも徹底して集中攻撃仕掛けてくるでしょうが!
[たに]
なんだ、おまえそこまで馬鹿というわけでもないんだな
がはは、まったく勿体ないもんだよ
こうして今日もまた一人、有望な阿呆がきまくら。廃人から足を洗うというのか
[モシャ]
勘弁してくださいよ~たにさん!
悪気があったわけじゃないんですって
ただちいと周りのこと考える余裕がなかっただけなんです
[たに]
ふん、これ以上俺に何を言っても無駄さ
文句があるならササさんに直接談判するがいい
[モシャ]
そんなこと言わないで
俺たにさんのことだけが頼りなんですよ
何とか! 何とかササさんに取り成ししてくれません?
クラン追放はまあ甘んじて受け入れますから、今後も友好な関係を、ってね? ね?
[たに]
とことん調子のいい奴だな
怒りを通り越して呆れちまう
まあそのゴキブリのような素早い立ち回りと生命力を評価したところも、確かにあったんだが
[モシャ]
でしょでしょ?
俺の可愛さに免じて、どうにかササさんのこと宥めてくださいって
[たに]
そんなこと言ったって、ああなったクラマスはどうにもならん
いいか、ササさんはきまくら。界の森羅万象ありとあらゆる有象無象の99%を二種類に分けている
「興味のないもの」と、興味がない且つ鬱陶しいもの――――即ち「蚊」だ
そしておまえは今日をもって「蚊」の一員となったわけだ
宥めるったって、「蚊の気持ちを考えてください」なんて言ってどうにかなる問題じゃねーんだよ
[モシャ]
頼みますよたにさーん!
俺にできることなら何でもしますから!
[たに]
だーから俺に言ったってどうにもなんねーんだよ
今後は俺等のことはブロックしてできる限り隅っこで大人しく……いや、待てよ
………………ブロック、か
[モシャ]
?
……たにさん、なんか口が笑ってますけど変なこと企んでません?
[たに]
がははっ、なわけねーだろ
可愛い後輩を助けようと一生懸命考えたところ、一つ可能性を閃いただけだ
[モシャ]
ほんとですか!?
じゃあたにさん、俺のためにササさんに取り成して……!?
[たに]
甘っちょろいこと言うな、阿呆
さっきおめえがおめえの口で「自分にできることなら何でもする」っつったばっかだろ
ここからはおまえの努力次第、ってところだな
[モシャ]
ええー……
[たに]
鳥頭のおまえはこれも忘れたかもしらんが、俺はこうも言った
ササさんはきまくら。界の万物の内99%のものを二つに分けている、と
[モシャ]
へえ
[たに]
つまり、要は簡単なことだ
おまえは残りの1%――――「興味をそそられるもの」、「有用なもの」たり得ればいい
[モシャ]
どうやって?
[たに]
おまえ、ササさんに対するブティックのブロックを解除してこい
[モシャ]
………………は?
[たに]
ゲームはそんな強かねえ、頭も回らねえ、情報に敏いわけでもねえ
そんなおめえが唯一ササさんの評価を獲得し得るとしたら、
いわゆるそのコミュ力、適当ほざいて相手の懐に忍び込む話術と柔軟性、フットワークの軽さだろうよ
[モシャ]
褒めてます? それ
いやそんなことより、それとブティックさんがどう関係してくるんですか
[たに]
おめえのその能力がササさんに刺さるとしたら、この案件しかないだろうってわけだよ
[たに]
ササさんはなあ、
あんなクールぶってスカした態度取っておきながら、こんなきゃあいらしいゲームやってる時点で立派にキモオタなんだよ
[モシャ]
まあまあ
でしょうね
[たに]
どうやらストライクゾーンは狭いようだが、その分好みドンピシャな推しへの入れ込みようは半端でないもんがある
本人は周りに気取られていないと信じてるようだが、俺くらい近くにいるとそんなのは丸分かりなのさ
[たに]
例えばあの人は木本澄香の配信スケジュールはすべて把握しており、スミカの遠征先を的確に予測している
自分の行動範囲とスミカの行動範囲が被らないよう常に意識しているのだ
ササさんはああ見えて、推しの世界と自分の世界を分けて考える、健気な影武者系フォロワーなのさ
自己主張の激しいゾエベルとは次元の違う高尚なオタクということだ
[モシャ]
わあ
どっちもきもいですー
[たに]
そして何の因果か、あの人の数少ないフォロー先にはブティック嬢も含まれるというわけだ
ここまで言えばもう分かろう?
[モシャ]
あー……まあ……
ササさんがブティック推しなんじゃないかって噂は前から出てましたからね
ほんとだったんですね……
[たに]
俺も最初は信じられなかったが、どうやら本当らしい
何せ遠征先で雷系スキルを見かけると、あの人は頻りにそっちを意識している
且つ何だかんだB協定に忠実らしく、ブティックの気配を感じるとそれとなく狩場を移動しようとする
[モシャ]
マジすか
[たに]
極めつけに、クランメンバーがブティック服を着ていると、あからさまにそいつへの当たりが強くなる
自分が全ブロックされててブティックショップへの出入り禁止なもので、妬んでいるものと思われる
ササさんは推しへの配慮が高じ、自分がブロックされていることを寧ろ積極的に受け入れているふしがあるが、
唯一そこだけは不満に思っているようだ
[モシャ]
聞けば聞くほど厄介オタクだなあ
[たに]
勿論このことは他言無用だぞ、ササさん本人に対してもな
ササさんの沽券に関わるし、部下がこんな気の回し方をしてるって知ったらきゃあいらしいあの人のことだ、
俺みたいな優秀な部下だって破門せずにはいられなくなる
[たに]
そういうわけでモシャよ、貴様に使命を与えよう
ササさんに対するブティックブロックを解除してくるのだ
見事説得に成功し、功労者が他でもないおまえであることが明らかになれば、これにはササさんもにっこりってわけよ
[モシャ]
……たにさん、やっぱ絶対、面白がってますよね?








