251日目 楽団・劇薬(2)
ログイン251日目
本日私はレスティーナにあるギルド本部を訪れていた。此度の目的は生産サポートキャラクターをレンタルすることだ。
昨日きーちゃんと話す機会があったもので、そのとき建築のコツについてアドバイスを求めてみたの。そしたら彼女は「建築は特にサポート頼むと便利だよ」って言うんだ。
そういえば私、遠征ヘルプはよく利用すれど、生産ヘルプは雇ったことがなかった。よってこれは思いがけない助言であった。
何でも生産ヘルプに手伝ってもらうと、自分で所持していないジョブスキルを借りられたり、作業量を増やせたりするんだって。
その代わりミラクリは発生せず、基本的にプレイヤー側のレベルを超えた仕事はできなかったりと、色々不利点や限界もあるみたいだけどね。でも建築のような、他職の分野、また単純作業を多く含む仕事では打ってつけのようだ。
それでどんなかんじなのか試しに雇って、コンテンツに触れてみようと思った次第である。
まだ新たな秘境拠点を選定したわけでもないので、これは本当にお試し回だ。一先ずレスティンの本拠点を弄るのに使ってみるつもり。
というわけでギルドの受付目指して歩いていると、ふいににゅっと、目の前に人影が立ちはだかった。
「……せん! あの、すいません! ちょっといいですか!?」
「えっ、あ、はい」
どうやら、少し前から声をかけられていたみたい。喧噪に紛れてどこからか「すみません」とは聞こえてきてたんだけど、まさかそれが自分に向けられたものだとは思っていなかった。
しばらく無視しちゃっていたようで申し訳ない。
因みに最近の私は、割とこうしてラフにアクティブモードにしていることが少なくない。
近頃イベントに参加したり、こないだのネギさんの件みたく珍事に巻き込まれたりと、人と接する機会も増えたものでね。
ほとんど意図して決めてるわけじゃないんだけど、一旦アクティブにしてたら忘れてそのままアクティブモードってことも多くなって、段々気にしなくなってきている。
ふふふ、この調子で成長していったら私、よーきゃでぱーりーなぴーぽーにだって仲間入りしちゃうかもね? まあ時には静かな世界でゲームしたいこともあるから、やっぱりセミアクに切り替えたりもするんだけど。
なんてことを考えながら、改めて話しかけてきた人影に向き直る。
彼は水色髪の、大きな丸眼鏡をかけた少年だった。鷹のような、茶色と白の入り混じった翼を生やしている。
私と目が合うと、元より緊張していたふうなその顔は益々強張った。そしてお仲間と思しき後ろに引き連れた二人の女の子も、やはり表情が硬い。
そんなだから彼等の緊張はやがて私にも伝染してきて――――――。
「あの、ゔぉっ、ぼくらとっ、パーティ組みませんか!?」
「えっ、あ、はい」
――――――気付いたら私は、状況が呑み込めないまま適当な返事をしてしまっていた。
顔を見合わせた三人組が、ぱっと表情を明るくさせる。
「あ、ありがとうございます!」
「よろしくお願いします!」
「私達、これから病める森に行く予定で……!」
あ、あれ?
この流れはもしかして、知らない人に同行して冒険行く流れ? 遠征雑魚で人見知りなこの私が?
ひ、ひええええ~~~~。
よーきゃでぱーりーなぴーぽーへの道のりは遠いのだった。
幸い、彼等は全員きまくら。始めたての初心者のようだった。ならばハイレベルなプレーを要求されることもないだろうということで、今ほっと胸を撫で下ろしているところだ。
加えて話してるかんじ、全員私より年下っぽい。
声とか口調とかかなりの若さを感じるから、高校生中学生その辺りなんじゃないかな。部活がどうのとかいう話が混ざることもあるし。
そういったわけで病める森へ向かう途上、私の緊張も大分解けてきたのだった。
今は子ども達を見守る保護者のような気持ちにまでなれている。私の扱いにぎこちなさはあるけど、みんな慣れないゲームをきゃっきゃとはしゃいで楽しんでて、微笑ましいなあ。
っていうかこの「初めてパーティ組んだ知らない人とどう接したらいいか分からない」感がね、正直逆に安心するまである。
この子達多分私と同類なんだなってことをひしひしと感じるから。もうね、陰キャのオーラが溢れてきてるの。
声をかけてきた[Ψヴェンデル・シェードΨ]君は名前からして中二思考なのが諸に出てる上、最初の会話以降私とは目も合わせようとしない。
軽く話を振っただけでも滅茶苦茶畏まって「そ、そうですね!」とか「は、はい!」とかどもりまくりの焦りまくり。
[あを。]さんはピンク髪をツインお団子に纏めたユメカワ系な見た目とは裏腹に、真面目で神経質な雰囲気が言動の節々から見え隠れしている。
きっとこの子リアルじゃこんな格好しないか、若しくは最近になってこういう格好するようになったんだろうなあなんて勝手な推測をしてみたり。
そんな二人と比較して見ると、[もちつき]さんはかなり毛色が違う。大きな白い猫耳を生やした彼女は元気で明るいタイプで、陰か陽か真っ当に判断するとしたら間違いなく陽の人間である。
ただなんかね、そこはかとなく“ずれてる”感があるんだよね。忌憚なく言ってしまえば自我が強くて空気読めないタイプというか、身近なところで言うとゾエ君とか竹氏寄りみたいな。
陽は陽でもカーストトップのギャル集団に混ざれる女子ではなさそう。この手の女の子はねー、ギャル達には馴染めず、最終的に陰キャグループのほうに流れてくるんよねー。
極めつけに一人称が「ぼく」っていうね。
断言しますけど、それがバーチャル世界だけでの自己表現だろうと、ぼくっ娘が女子の有力派閥に属すことは不可能です。これは偏見に塗れた真理なのです。
結果三人からは、教室の隅っこでじめじめした日常を過ごしていそうな、親しみ深い空気感が醸されているのだった。居心地が良いとまでは言えないけど理解しやすい人種ではあるから、ある程度の余裕は持てるよねってところだ。
なんて性格の悪い観察をしつつも、でも基本的には三人とも素直で良い子達だなあと思う。
「えーっ、ビビアさん仕立屋さんなんですか? 道理で可愛いお洒落なカッコしてると思った!」
「その服全部自作!? しかもデザインもご自分で? 凄い……!」
「レベルそんなにいってるんですか~!? よくぼく等に付き合ってくれる気になりましたね!」
「助かります。ビビアさん優しい……」
と、こういった具合で、特に女子二人は何かにつけて大袈裟にキラキラした反応を返してくれるんだよね。お世辞込みだとは分かっていつつも、やっぱ悪い気はしないものだ。
そして嬉しいことに、なんとこの私が遠征面でも活躍することとなった。








