249日目 エルネギー(4)
エルネギー氏に悪足掻きの一打を放った直後、襲撃イベントの十五分間は終わりを告げた。
結局チェスピの破壊はできなかったので、区画の所有権はそのままネギさんに留まることとなる。ゆえに入場権を失った私は島の外の海域へ放り出されたのだった。
気付けば私とゾエ君は舟の上で合流していた。
「どうでした?」
「楽しかったよー」
「そりゃよかった」
にかっと笑うゾエ君。
本当に重要なのはこの後、ネギ氏が話を聞いてくれる気になったかどうかである。
でも最後ぎゃふんと言わせられてすかっとしたし、ゾエ君のこの笑顔を見てると益々「まあいっか」って思えてくるから不思議だ。
同じ作業を繰り返す気にはなれないけど、マト氏にはまた一から新しい衣装を仕立て直せばいいもんね。今はそんなふうに前向きになれている。
とその時、島の奥から人影が現れた。加えて視界にメッセージが表示される。
【絶海諸島A-012-2】番地への入場が許可されました。
「お?」
「ゾエ君も来た? 入場許可」
「はい。あいつようやっと正気に返ったっぽいすねー」
一応宣戦布告する前に、入場申請は出しておいたのだ。勿論その時は無視されてたけど、ネギ氏は今になってお返事をくれたらしい。
そして私達が舟を漕いでネギ氏のもとへ近付いていくと、さらにもう一つ通知が。
[エルネギー]さんがプレゼントを差し出しています。
→・受け取る
・受け取らない
【異邦人の衣装セット】を手に入れた!
私ははっとしてネギ氏を見つめる。
「エルネギーさん、これ……って、わわ、」
通知はそれだけにとどまらず、次から次へと“プレゼント”が差し出された。
【ソーダ】×10を手に入れた!
【ネビュラキャンディ】×2を手に入れた!
【月見酒】×3を手に入れた!
「一旦慰謝料な。今金がねーんだわ」
ネギ氏は真っ直ぐに私を見据えて告げる。まるで悪びれた様子もないのが何だか彼らしかった。
「悪かったよ。どうやらあんた、本当に服が目的でここへ来たようだな。そっちは未使用だから安心しろ」
「……はい。返していただいてありがとうございます」
だから最初からそう言ってるじゃないか。
そんな本音は飲み込んでおく。これ以上拗らせたくないからね。
それからネギさんはようやく少し困った顔になって、自分が着ている服を軽く引っ張ってみせた。
「だがこっちは使用済みだから、集荷付きとしての価値はもう失われてる。それでも返せと言うんなら返してもいいが……」
「いえ、そちらは本当にエルネギーさんのために作った服なので、大丈夫です」
「……それ、マジの話なのか? 納品の知らせ、届いてないんだが」
「ええ? じゃあバグなのかなあ……。確か納品したのが三週間前かそこらで、優先購入権が切れたのがその一週間後なんですけど……」
「二、三週間前……」
ネギ氏は記憶を辿るように目を泳がせたのち、頭をくしゃりと手で押さえる。
「あー……なるほど。多分その時期地獄の連勤でインできてねーわ」
え! なんと間の悪い……!
でもそうか、優先購入権が失われた時点でリクエスト品への導線も失われる仕様っていうんなら、長期間インしてない人はそもそも気付かないことも有り得るのか。
まあ最終的に彼のもとへ行き着いたのだから、これはこれでよしとしよう。私は流離い傭兵の衣装セットを纏うネギさんに向けて、にっこり微笑んだ。
「よくお似合いですよ」
それを受けて、彼もにやっと口角を上げる。
「限られた手札で最後まで足掻く人間は嫌いじゃない。あんた、良い根性してたぜ」
こうして私達は無事和解エンドに至ったのだった。
さあ、もういいだろう。いつまでもゾエ君を待たせるのも悪いしね。
帰ろうか、ゾエ君。今日は付き合ってくれてありがとう。
そう言うと、しかし彼は首を横に振る。
「ビビアさん、先帰ってていいっすよ。俺はもうちょっとこいつと遊んでくんで」
「そうなの? 分かった」
「はあ? っておい、待て、何てめえまた宣戦布告してんだよ意味分かんねえ」
「ビビアさんが楽しそうに遊んでんの指咥えて眺めるだけだったんだ、付き合えよ。それにおまえ、俺のことフレ解除してくれたなあ。寂しいじゃんかよネギい」
「おい行くなブティック! こいつをちゃんと持ち帰れ! おまえんとこの犬だろ、最後まで面倒見てけ!」
「ねーぎーくん。あーそびーましょ」
ふふ、ゾエ君たら玩具を前にした子どものように目をキラキラさせちゃって。よっぽどネギさんと遊びたかったんだね。
ここから先はきっとガチ勢どうしのハイレベルなゲームになるんだろうから、邪魔しちゃ悪い。
それじゃ私はお先に失礼するよ。ゾエ君、めいっぱい楽しんできてね~。








