26日目 取引(後編)
「げえ」
竹中氏に言われるがままショップルームを確認した私は、つい乙女にあるまじき呻きを発してしまった。
商品がどこにも、ない。そして恐る恐るシステムパネルを開けば、例のごとく、大量の新着メッセージが。
とってもデジャヴ。
え、でも、なんで? なんで?
まるで原因が思いつかない。革命イベントのような新たな騒ぎを起こした覚えはないし、ゴミを売りにだして以降、変なメッセージも段々減ってきて、最近はすっかり落ち着いてきていたというのに。
因みに今回のメッセージ数は16。売れたアイテムの数の、大体二分の一ってところ。
比率にしても数そのものにしても前回の事件よりかは少なめだけど、それにしてもこれ、目を通すのやだなあ。こんな条件をだしてきたあたり、竹中氏は事情を知っているっぽいし、私が知らないところで叩かれたりしてるんだろうか。
なんて鬱々しながらメッセージを開いてみると――――――。
『竹中さんとリルのコスが凄い素敵でした! 私もオーダーメイドで頼みたいんですけど、よろしければ連絡ください<(_ _)>』
『竹のペアルック可愛かった。男女で微妙に違いがあるのがグッド。自分もオーダーメイド希望』
『オーダーメイド枠かリクエストボックス設置してほしいです』
――――――なんとびっくり。大体がこんな要望であった。
どうやら竹氏に作った衣装の評判がよかったみたい。てかこれは多分、リル様のCM力ゆえの反響だろうな。
何てったって彼女はこのゲームナンバーワンの人気者、しかもデートイベで好きな衣装を着せられるのはあれが初めてとのことだし、かなり注目を集めていたっぽい。冷静に考えると凄いことだったんだなあ。
まあ前回同様、メッセージ送信フォームとして私の製作アイテムが買われているのに若干フクザツな思いはあるものの、基本的には嬉しい反響だった。
この前の大量メッセ事件の際もオーダーメイドの希望は混ざっていたし、ここら辺追々、本格的に考えていこうかな。
もっとも今の私はそれどころではないため、返信は割愛させていただく。すっからかんのショップに商品補充をする暇も勿論ない。
代わりにワールドマーケットで表示されるお店のプロフィール欄に、『諸事情のため一時休業中。オーダーメイド等については現在検討中。』と書き込んでおいた。
で、最後にブラックリストの中からバレッタさんのチェックを外してっと。
これで竹中氏の条件はすべてクリア。心おきなくデート服を製作できるというわけだ。
アトリエに戻った私は、早速製図用紙に構想を描きだしていく。
テーマは……女王様と侍女! これで決まり。
双子コーデと迷ったんだけど、そもそもシエルちゃんって元から双子だからちょっと目新しさがないよなーって思って。あ、勿論シエルちゃんが女王様で私が侍女だよ。
それからワールドマーケットを開いて、ばんばんと資材を買い込んでいく。
ほんとはね、主婦の知恵袋を持つ玄人は、ワールドマーケットよりも実店舗のほうをこまめにチェックするんだって。
なぜかというとWM上の取引は手数料がかかるから。
それと、ワールドマーケットはNPCも利用するという設定があるため、出品したアイテムはお金と引き換えにコンピュータの闇に呑まれる可能性も往々にしてある。
貴重な、あるいは手をかけたアイテムはプレイヤーのもとに届いてほしい、そう思う店主は、WMには出品せず、実店舗限定で取引をすることも多いそう。
それで、ベテランきまくら。ユーザーはよいお店を直にチェックしてからWMの利用を考えるんだとか。
勿論そのためには実店舗で自分に合った品を扱っているショップを把握しておく必要があるし、そこに自ら足を運ぶ必要もある。
諸々の時間を取ることのできない私は、ちょっと後ろ髪を引かれつつも、ばしばしとカートに材料を突っ込むのみだ。
何せ竹氏とヒーリングミントで稼いだ四百万キマが未だまるっと残ってるからね。ここで使わずしていつ使うっていう。
もう、性能とか値段とかはガン無視。ひたすらに描いている構想に合致するもの、シエルちゃんに似合いそうなもの、可愛いものを購入していく。
なんかこれ凄い楽しいわあ。ゲームとはいえ、お金に糸目を付けないで買い物できるのってテンション上がるね。
ダマスク織りが見事な赤紫の生地に、光沢のある真っ白な絹のような生地、ストライプのピンクのリボン、それから自分では作れないタイツや杖といったオプションアイテム。
一番高かったのは、【リリイクラウン】という百合の花を模した冠。お値段なんと、110万キマでした。
後悔は……ちょっぴりしてるけど、でもこれがイメージにぴったりだったもので、買わないという選択肢はなかった。
なんかあれこれ物色してる内に、今回の製作では必要のないものまで色々購入しちゃった。これも一つのワールドマーケットの罠だなあ。
お陰で所持金は半分ほどになってしまったけど、何はともあれ準備は整った。明日はいよいよ仕立て作業だ。
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【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・織り師について語る部屋】
[モシャ]
ミラクリキタアアアアーーーー!!
とか言ってみたい人生だった
[エルトン]
編み物頑張れ
[モシャ]
編み物できないっつってんだろ
[バタートリック]
中継ぎ産業のアイテムも性能がある程度数値化されればいいのに
ミラクリも付かないし達成感がイマイチ…
[hyuy@フレ募集中]
おまえらなんで織り師になった?
[しゃんはい]
ここの住人の大半は織り師じゃないよ
織りスキル持った別職業の人間だよ
[カオス]
>>バタートリック
性能数値化云々はともかくとして、ミラクリは付いたとしてもそれを成し得るプレイヤーが果たして何人いるかっていう
織物のリアルスキル持つ人間なんて少ないし且つきまくら。やってる中でってなると俺はキムチしか知らん
[バタートリック]
言うてミラクリだすのにどうしてもリアルスキルが必要ってわけでもないじゃん
知識<<<<手間だよ
[名無しさん]
寧ろキムチはなんでゲームでまで織り師を選んだ
[ニカモ<RIT]
誰キムチ
[hyuy@フレ募集中]
メダカのことやで
[송사리]
(´;ω;`)
[しゃんはい]
ハングルを何でもかんでもキムチって読むのやめーや
[名無しさん]
トッポギ!
[モシャ]
チーズタッカルビぃ!
[バタートリック]
ビビンバ美味しいよね
[송사리]
>>名無しさん
家におっきい織機置く余裕ないから…(´;ω;`)
それに何だかんだショートカットは多用してるし現実とゲームじゃやっぱ違うよ
[송사리]
あ
[송사리]
ちょっといいことあった(*´ω`*)
[heta]
なんなん?
[송사리]
内緒
[カオス]
きもちわりいなあ
[송사리]
(´;ω;`)








