243日目 絶海諸島A-165-1(表編)
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一昨日が【遥かなる大砂海】遠征、昨日が【彼方の空中庭園】遠征と来まして、本日私は三つ目の秘境エリア【絶海諸島】を訪れている。
空中庭園もめっちゃよかったよ~。空に浮かぶ島と遺跡のフィールドで、爽やかながらもノスタルジックな雰囲気なの。草花に埋もれつつある廃都市が凄い素敵だった。
でもね、景色のタイプでいくと私の本拠地があるレスティンと大分似通ってるんだよね。西洋ファンタジー風なとことか空が近いとことか。
折角二つ目の拠点を持つなら、もうちょっと新鮮味を感じられる場所がいいなあ。
とそんなわけで、今日来たこの絶海諸島は、拠点用土地探しにおいての大本命だったりする。
ここはその名の通り、広大な海と点在する小島で成り立つフィールドだ。
白い砂浜に澄んだ水面、色とりどりの珊瑚や小魚達の遊泳が本当に綺麗。
この鮮やかで変化に富んだ色彩美、リゾート感あっていいねえ。今ざっと眺めたかんじでも、別荘を持つには打ってつけってかんじだよ。
このエリアは、スキップドアのあるスタート地点が既に、海に囲まれた小さな島となっている。水中または水上の移動が必須ということで、今日は【二人乗りボート】を二艘持ってきたよ。
それと遠征サポートには水中特化のヴィティちゃんを連れて来ている。
ボートにはメンバー全員の席があるんだけど、海にはしゃいだ彼女はざぷんと躊躇なく潜って行ってしまった。きっとその内、お魚やらワカメやら抱えて戻ってくるでしょう。
因みに最近のアプデで上方修正されたヴィティはスキル【泡の鱗】を持っているので、彼女がパーティにいる間は私含め他のメンバーも水中での活動が可能だ。
けど今日のメインは拠点用の景色の素敵な場所を見つけることなのでね。水中よりも水上での見え方を重視したいということで、基本はボート移動で行こうと思うよ。
そうして私は、時折採集や敵モブ処理を挟みつつ、海の上をあちこち見て回っていく。
ここ絶海諸島は基本が海フィールドなので、所有できる区画の中には大抵海も含まれる。領海にできるというわけだ。
空中庭園だと領空もあるみたいね。
中には陸地が全くない、ただただ海が存在するだけの区画もあって、実際そういう場所を占有している人もいる。もしかしたら海の中に何か魅力的な要素があるのかもしれない。
けど私としてはやっぱり陸地が含まれてる場所のほうがいいなあ。
それと、今回追加された秘境エリアはどこも朽ちた文明を一つのテーマとしているらしく、絶海諸島でも崩れかけの廃屋をちょいちょい見かける。
大砂海は南アジア風、空中庭園は西洋風で、絶海諸島はタヒチの水上コテージに和テイストを混ぜたみたいな建築となっている。
あれかな、プレイヤーがフィールドでハウジングをする可能性もあるってことで、世界観が大きく逸脱しないよう基盤となるデザイン例を置いてるのかな。
そういった建造物をリフォームして使ってる人も結構いて、さらに味わい深い景色が出来上がってるんだよね。ああいうのも憧れる。
でもお家を一から造るのもやってみたいんだよね~。本拠地を都市部、それもレスティンに選んでる私は、秘境エリアに建てるんでもない限り一軒家を持つ機会はそうそうないだろうしな~。
などと楽しい悩みを抱えながらボートを漕ぐ私の目に、ふと巨大な樹の影が映り込んだ。
それはとある島の岸辺に植わっていて、青く輝く実を付けている。今はゲーム時間で陽が暮れたところなので、光る果実は余計に目立つ。
とっても既視感。あれってもしかして、【病める森】の“追憶の樹”……?
病める森のやつより大分サイズが小さいけど、似てるなあ。そして水面に影と光を同時に落とす姿がとってもロマンチック。
私は吸い寄せられるかのように、ミニ追憶の樹に向かってボートを漕いだ。しかし、すぐにそれ以上進めなくなってしまう。
【[追い付く人]の占有拠点】
この区画は[追い付く人]さんにより占有されているため、中に入ることができないようです。
→・入場許可を申請する
・何もしない
わっ、出た。そっか、既に占有されてる海域なのか。
でも距離からして、ここはまだ全然、あの追憶の樹の区画というわけではなさそう。迂回すれば近付けるかな。
そう思った私は、誰かさんの領海の見えない壁沿いにボートを進め、樹のある島に向かおうとしたのだが――――――。
【クラン[無色協定]の占有拠点】
この区画はクラン[無色協定]により占有されているため、中に入ることができないようです。
【クラン[巨人の鐘同盟]の占有拠点】
この区画はクラン[巨人の鐘同盟]により占有されているため、中に入ることができないようです。
【[ちょん]の占有拠点】
この区画は[ちょん]さんにより占有されているため、中に入ることができないようです。
――――――どええええっ! 大人気!
しかもちょいちょい聞き覚えのあるクランネームやらユーザーネームやらが出てきてびっくりする。
そっか、みんな青い実を付ける樹が綺麗だもんで、景色を楽しめるこの辺に拠点が集中してるんだ。ってなると益々、樹本体が植わってるあの場所は先住民さんがいる可能性大かあ。
ま、いいや。ダメ元でも行ってみよう。
もうちょっと近くに寄って、うちの子達と記念撮影もしてみたいしね。
というわけで樹の島目指して、占有拠点のひしめく海原をボートを漕いで進んでいく。
拠点だらけといっても区画と区画の間は通行できるようになっている。でも基本目に見える柵とか壁とかがあるわけじゃないから、この辺りはちょっとした迷路だ。
右往左往しながら何とか岸辺に辿り着いた私は、「あれ?」と思わず声を漏らした。
なんと、上陸できてしまったのだ。樹のある島に。
いや、迷路エリアを抜けて島に近付いてる時点で不思議なかんじはしてたんだよね。多分この辺りから樹の区画の領海に入るだろうに、例のメッセージがなかなか現れなくてさ。
そうして遂に私は何の問題もなく岸辺にボートを乗りつけ、ミニ追憶の樹には近付くどころか触れちゃったりなんかしている。つまりこの区画、まだ誰のものにもなってない……ってこと?
こんなに人気な一等住宅地のような場所なのに、ここだけ空いているとはどういうことだろう。
偶然、ここを所有していた人が手放した直後だった、とかなのかな。
或いは人気の理由はミニ追憶の樹じゃなく、寧ろ海域のほうにあったとか? 漁がしやすいとか。
……あー、それ、きまくら。民なら有り得るかも。
さっき目にした占有者の名前を思い出してみても、遠征ガチ勢なクランやユーザーが揃ってたもんなあ。花より団子、景色より実利って考え方の人が多そう。
そうなると、この場所が敢えてぽっかり空いているのも納得である。
勿論本当のところは分からないけど、でもとにかくこれだけは事実だった。この区画を占有するなら、誰も手を付けていない今がチャンス。
こんなに周りにご近所さんが沢山いて窮屈じゃないかな? 区画内の他の場所はどんなふうになってるんだろ?
と、不安要素やら確かめたいことやらは諸々あったものの、早い者勝ちであることを思うとのんびり考える余裕はなかった。
それにもし気に入らなければ、また別の場所を探せばいいだけのことだもんね。【チェスピース】や【チェスボード】は消耗品というわけではなく、再利用も可とのことだし。
思い立ったが吉日、私は追憶の樹の影にチェスボードとチェスピースを設置する。直後、区画の境界線をなぞるように、ピンク色の光の粒子が立ち上った。
【絶海諸島A-165-1】番地を占有しました!








