25日目 ふたり(前編)
ログイン25日目
手慰みに生産作業をしながら、私は悩んでいた。
私には一日限りの道楽にぽんと100万だせる財力はないわけで、リルステンとのデートは、残念ながらもう諦めるしかない。
そこはもう無理って割り切れるからいいのだけれど、残る問題は、今後リルステンとの交流を視野に入れつつゲームを進めていくのか否か、ということ。それはつまり、シエルシャンタを切り捨てるかどうか、という問題でもある。
キャラクターとしての好みでいうと、正直リル様のほうが上なんだよね。
でもシエルちゃんには長らく付き合ってきた愛着がある。何しろ一番最初に知り合ったキャラクターだし、ほとんど毎日のように会っているし、この間やっとプレゼントも貰えてようやく好感度に手応えを感じてきたところだし。
あ~~、でもシエルちゃんとの交友を続けていると、リル様とは永遠に引き離されたまま……。悩ましい……。
と、悶々としながら手を動かしていると、カランコロン、とベルが鳴った。うう、来てしまったか、このときが。
こんな状態で積極的に来客イベントをこなせるわけもなく、昨日もショップフロアにはいかずこっちで黙々と作業してたんだよね。そしたら同じようにベルが鳴って、でてったらシエルちゃんがいて。
ここではこんなふうにシエルちゃんとリル様を秤にかけて迷ったりしてるけど、いざ彼女を前にしちゃうとね、やっぱり可愛いんだよ……。
無視するなんて絶対できないし、昨日無闇に攻略サイトなんか覗いちゃったお陰で、『分からない』系の返答が好感度を下げることも知ってしまった。……できない、できないよ~。
だってシエルちゃん、反応はどれを選んでも全部同じなんだよ? あっそう、じゃまた来るわねって、クールに去ってくの。
でも実はその裏で、しょぼーんってなってるってことでしょ? もしくは、分からないって何よ私のこと興味ないってわけ!? ぷんすこ! とかなってるんだよ?
あの人を喰ったような強気な表情の下、実は私の返答で一喜一憂してるわけ。
やばない? 可愛くない? 可愛くなくなくない?
そんな私がベルを無視することなどできるはずもなく、私は重い足取りながら、吸い寄せられるようにショップフロアへ向かった。すると、案の定シエルちゃんが。
こんな精神状態で対面したためか、彼女の灰色の目は私を捉えて明るく輝いたように見えた。
ビビア私のこと、好きだよね? リルステンを選んで私を捨てるだなんてそんな真似、まさかしないよね? ね?
まるでそんな心の声を聞いているかのようだ。
とはいえ実際のシエルちゃんの台詞には今日も変化は見られず、お決まりのファッションチェックの時間がやってくる。
もっとも、毎回同じ質問同じ反応といえど着ている衣装は毎回違うもので、このやり取りも私としては嫌いじゃないんだよね。今日はどんな服着てくるのかなって、結構楽しみにしている。
さて、本日のシエルちゃんは真っ赤な総レースのワンピース一枚という、華やかながらもシンプルな出で立ちだった。
エーラインで丈は短め、袖はフレンチスリーブ――――肩が少し隠れる程度の袖――――。シックにも着れるしカジュアルにも着れるひと品、ここが味噌。
そんな万能アイテムに彼女が合わせているものは、華奢な金のネックレスに紫紺色のピンヒールパンプス、そしてくるぶしが隠れるくらいの丈の白いショートソックス。
古典的で正統派なモチーフを、絶妙にレトロな方向に崩してきたってかんじかな。
うん、今日も間違いなく可愛い。間違いなく可愛いのは間違いないんだけど、シエルちゃんが毎度比較しろと仰るのは、前回現れた自分自身なわけで。
だから私が基準にしているものは、相も変わらず彼女の髪型だ。
長い金髪を編み込んでアップで纏めたこのヘアアレンジには、今日の衣装が正解だろうか? それとも前回の衣装のほうが似合っていただろうか。
答えは――――――。
「昨日のほうが好きかな」
――――――その選択肢を選んだ瞬間、シエルちゃんの眉間にはっきりと皺が寄った。そして私が彼女の反応に戸惑う間もなく、もう一度、来店のベルが響く。
「ふふっ、いい子ねビビア。まるでご主人様をしっかり見分けて、ご主人様の声にだけ従う忠犬のようだわ」
その声は間違いなくシエルちゃんのものだった。
なのに、シエルちゃんの口が動いたわけではなかった。正確に言うと、私の目の前にいるシエルちゃんの口は動かなかった。
「こうも見破られちゃあ、つまらないわ。このお遊びもいい加減終わりにしましょう、シャンタ」
それは、扉から新たに現れたシエルちゃんの言葉だった。
シエルちゃんが、もう一人。
シエルちゃんが………………ふた、り。
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[弐]
(画像)
マグダラとの会話に新たな選択肢加わったな
各地でギルトアの遭遇報告も上がってるし、それをもとに行き先提案すれば二人が再会するってかんじか?
[バレッタ]
か、もしくは自分自身が先にどちらかに会っとかないといけない可能性も微レ存
[レティマ]
それは本当に微レ存レベルだと思うな
閉ざされた森といいマグダラの消息といい革命イベントが深く関わってるから
この流れもプレイヤー全体で動かすものだと思われ
[ポイフリュ]
確かに
実際実況者でマグダラ遭遇後ギルトア遭遇ってなって、ついさっき自分がマグダラに会った場所を教えた人いたけど
特に何も起こらなかったみたいよ
[ピアノ渋滞]
プレイヤーの回答数を裏で集計してて、正解が一定数とか一定の確率超えたら再会イベント成功、みたいなかんじかもね
[ナルティーク]
テファーナの頼み通りに行動するとしたら寧ろ引き離すほうが正解ってことになるんだがな
果たして忠実にその助言を守るやつがどれだけいるかっていう
[Itachi]
物語的には進展があったほうが面白い
プレイヤーどもは積極的にスタンピードを引き起こしに行くだろうw
[ミラン]
いやそうとも言えん
なぜならギルトアの目的が達成されたとすれば、再び奴が枢密院に帰ってくる可能性も高いから
[夢]
あ~~これって実は学院出VS未就学児、もしくはギルトア派VSクリフェウス派の頭脳戦の一種ってこと?
[バレッタ]
なるほど
だとしても未就学児&クリフェウス派は不利だな
ライト勢なんかはそんなことに気付かないだろうし、どっちでもいいから面白そうなほうに一票ってやつ多そう
[ポイフリュ]
ギルトアにはマグダラと再会してほしい
でもそれが引き金になってマグダラの記憶が戻ったら病める森の封印が解けてスタンピード待ったなしってことだよね
純粋にハピエンが好きな勢はどうするのが最善なんだろ…><
[ナルティーク]
これ閉ざされた森よりも先にマグダラの消息が発動した場合どうなってたのかが気になる
そっちのが穏便に話が進みそう








