175日目 手がかり(1)
【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・遠征クエストについて語る部屋】
[茶碗]
ランクを上げるコツだ?
簡単さ、全部の試合で勝ちゃいいだけよ
[ハロー]
>>チャーリー
あるよねー、一気に転がり落ちちゃうの
まあ対人戦である以上どっちかは負けるの当然なわけだから、運要素も大きく絡んでくるよ
野良パは尚更
[まことちゃん]
負けてガチ凹みしちゃうのは危険信号
気分変えて他のことやったほうがいい
[ロッタ]
>>チャーリー
分かるー
ゲームと分かってはいても成績が目に見える形で存在しちゃうとね、どうしても向上心持っちゃうよね
[バーボン]
自分はそれが嫌でマッチクエ触らなくなった
今はランクほったらかして通常遠征一択
ガチ勢に揉まれるのは相変わらずだけど、「負け」って概念がない分精神衛生は保たれてる
[マリン]
マッチで負け続けるのもラッシュのMUT狩りでプレイヤースキルの巻き込み食らうのもどっちもイラつくがな
[ki sa]
今丁度山ラッシュ中に地雷踏んで送還食らったところ
次回の都は入場制限かかるしもうちょっと平和だといい…な…_(¦3」∠)_パタッ…
[陰キャ中です]
次回都ってもう分かってるん?
[めめこ]
月初めのお知らせ
今後のスケジュール概要がざっくりと
[陰キャ中です]
お、ほんとだ
[マトゥーシュ]
運営の成長を感じるのである…
[海鼠]
えー、都かよ
泡持ち探すのだる
[とんぼ]
水属性フィールドなのに雷使えない仕様ほんと誰得
折角カミトケ持ってるのに
[Kuzma Savinkov]
>>ki sa
とはいえ前回よりは人増えてるだろうなー
難易度高いこと知ってガチ勢はやる気満々で挑んできそう
[茶碗]
シャボンドレスの存在意義が高まるので余は満足
>>海鼠
↑こういう奴には当たりたくないけど
[けんと]
ワイは大人しく水辺で釣りするかな
[まことちゃん]
どうぞ( ・∀・)つ┏タコヤキ┓
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ログイン175日目
「一応」と思って、ビニール素材について調べてみることにする。
結果は振るわず、収穫なし。念を入れて[情報屋]にも行ってみたんだけど、やはりビス子さんの言う通り、きまくら。でビニール素材やそれに似たものは発見されていないとのことだった。
でもね、私にはもう一個、希望の伝手があるんだ。
それは発明家[滅べクレクレ]君という存在である。
確かきーちゃんは、彼と共同開発で【エレメリタン】という化学繊維を生み出したという話をしていた。ビニールも、作る方法があるとしたら発明家の分野なんじゃないかな。
ワンチャン何か手がかりが得られるかもしれない。そう思い、私はフレンドリストを開く。
とりまきーちゃんは……あ、今はインしてないか。クー君は……いるなあ。
脈絡なく突然彼に連絡を入れるのは、少し抵抗がある。でもクー君も脈絡なくメッセージ飛ばしてきたりするし、まあ悪くは思われない、かな。
というわけで、ちょっと勇気をだして、私はトークアプリに文字を打ち込んだ。「ビニール系の素材とか、作れませんか? 若しくは、ビニール素材に関する情報とか知ってたら教えていただけないでしょうか」っと。
返事を待ちつつ、私はリクエストの確認や納品作業などのルーチンワークをこなしていく。
そんな最中、ベルの効果音と共に「お届け物です」という通知メッセージが視界に表示された。
玄関に出て郵便受けを確認すると、こんなアイテムが放り込まれている。
【[滅べクレクレ]さんからの招待状】
え……。と、一瞬固まる私。
【招待状】って、あれだよね。使用するとその人のホームに一瞬で移動できるアイテム。
つまりクー君は、「直接話すから来いや」って言ってるわけか。
ひえー、直では一回しか会ったことないし、その時も会話らしい会話はしてないし、そもそもトークでだって会話らしい会話なんかしたことないしで、なんか緊張するなあ。会ったところでこの子、まともなコミュニケーション取れるのかなあ。
でもわざわざ招待状を寄越すってことは、「情報を持っている」って言ってるのと同義だよね。それも多分、トークでやり取りするんじゃあ面倒なくらいには小さくない情報なんじゃないかな。
これは是非話を伺いたいところ。
私は息を吸って気を引き締め、招待状を[使用]した。
現れたスキップドアを潜ると、そこはレスティーナ王国の田舎町、レンドルシュカの外れのようだった。
私の目の前には鉄製の門扉がそびえていて、その向こうに大きな池が広がっている。
そして池の真ん中に、こじんまりとした一軒家が建っていた。煙突から白い煙が立ち上っている。
ここがクー君のホームらしい。
なんだかファンシーな世界観で、お家も砂糖菓子みたく可愛らしくて、ちょっと意外。彼のことだから、拠点ももっと「スチームパーァァァァンク!」な見た目に改造してるかと思ったよ。
勿論これはこれで素敵だけどね。
門柱に取り付けられた呼び鈴を押してしばらく待つと、門扉はきいー、と独りでに開いた。
私はほっそい木橋を恐る恐る歩いて、小島に辿り着く。するとまた、お家の扉は静かに開く。
なんか怖いよ。
何が怖いって、こうもタイミングよく扉が開いていくってことはどっかで監視されてそうなのが怖いよ。
こんな凝ったことする前に自分で出てきなよ。
さて、小さな白いお家に足を踏み入れたはいいものの、それでもなおクー君は姿を現さない。
ホームの中は物がなくて、生活感が全く感じられなかった。ほんとにただの小屋、白い空間ってかんじ。
唯一真ん中に地下へと続く階段があるようだ。
きょろきょろと辺りを観察する私の背後で、扉は静かに閉まった。いやだから怖いって。
え? 罠?
もしかしてイタズラやらドッキリやら仕掛けられてるとか、そーゆーんじゃないよね。閉じ込められたりしてないよね。
足元からは、微かに振動が感じ取れる。「ゴゥンゴゥン……」と、遠くで何か大きな機械が動くような音も。
ぼんやり待っててもクー君がやって来る気配はないもので、私は仕方なく階段を下りた。
突き当たりには、冷たい鉄製の扉。あ、これは手動なんだね。
よいしょ、とノブを握って押すと――――――迫力抜群の地下工場が広がっていた。
威圧するように並ぶ巨大な謎のタンク。
ガタゴトと音を立てながら回り続ける謎の巨大歯車機構。
それらを繋ぐ無数の導線や配管。
施設内を行き巡るように設置された頼りない鉄製の足場や梯子。
そういった赤銅色で金属製の世界が、地中深く、見えないところまで続いており、橙色のライトにぼんやりと照らされている。
スチームパーァァァァンク!
……はい。解釈一致なのでした。








