154日目 決裂のダナマ
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公式サイトきまくらひすとりあ。にアップされた、革命動画のページ。そこに連なるコメントをスクロールしていった私は、ほっと胸を撫で下ろした。
よかった。みんなの反応、そんなに悪くはなさそう。
まあ今回のイベント、私が最初に起こした革命とは大分毛並みが違うっていうのもあるけどね。
ツェツィーリアとの会話が終わった後、ワールドアナウンスでは革命イベント【蘇りしツェツィーリア】が実行されたことと、緊急ワールドイベント【決裂のダナマ】がこれから開催されるっていう、主にこの二点が知らされることとなった。
だからこのたびの革命はワールドイベントのトリガーだったっていうのが要旨で、影響が出るのはそのワールドイベントが終わってからになる。
ギルトアイベの時は、あの革命単体で利益不利益被るプレイヤーがいきなりでてくる仕組みだった。でも今回はまだ先行きが見えないので、不満がでる理由もあまりないってわけ。
とはいえ此度の主人公とも言えるラーユさんのポジションを思うと、非難の声が上がったりもするんじゃないかなって、ちょっと心配してたんだ。
彼女の悪役的プレースタイルを揶揄する声はゼロじゃない。けど意外や意外、多くの人はこういった事柄を落ち着いて受け止めているようだった。
そう思えるのは、きまくら。のゲーム環境が変わってきたからか、或いは私が変わってきたからか――――――多分、両方なんだろうな。
そんな自分ときまくら。の変遷を思うにつけて、私も楽しそうなことに前向きな気持ちを抱くのは自然なことで。
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ビビア 様
日頃より“きまくらゆーとぴあ。”をご愛顧いただき、ありがとうございます。
この度、ビビア様が『緊急ワールドイベント【決裂のダナマ】・老師戦』の参加資格を満たしていることを確認いたしました。
つきましては、27日(土)、28日(日)に開催される当イベントに是非とも参加していただきたく、招待状をお送りしております。
参加ご希望の際は、注意事項を参照の上、下記のURLよりお申し込みください。
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昨日革命イベントを終え、緊急ワールドイベントのアナウンスが再生された後ね、運営からこんな手紙が届いてたんだ。何でもイベント期間中の――――つまり今週の土日、老師のみが参加する特別なマッチクエストが開催されるんだって。
ワールドイベント全体のあらすじはこちら。
他国との交流を広げようとするシルヴェストの動きに我慢ならなかったツェツィーリアは、ついに表世界に顕現し女王に反旗を翻す。
ツェツィーリアはダナマの民に呼びかける。
「ダナマを愛せし同胞よ。我等の楽園が余所者に踏みにじられることがあってよいだろうか。女王は我々と我々の土地を売ろうとしている。今こそ立ち上がるべき時。私に続け。シルヴェストを女王位から引きずり下ろすのだ――――――!」
斯くして様々な思惑を胸に、女王派と反女王派、二つの勢力に衆人は集う。
彼女は気付いている。
集いし者達に、同胞と余所者の垣根などない。あるのは混沌。
それでも、それが故郷を取り戻す道筋だというのなら。
手段は選ばない。
七百年越しの姉妹喧嘩、今ここに開幕――――――!
とまあこんなかんじで、今回のワールドイベは女王派と反女王派、どちらか好きなほうにプレイヤー各々が属すっていう仕組みになってるんだ。で、ミッションをこなしてって、イベント貢献度――――スペシャルギルドポイントの合計を競うってわけ。
人数比が偏るだろうから、それに応じてハンデはつく模様。そして各派閥が稼いだSGPに応じて、エンディングや報酬が変わってくるってな塩梅だ。
私は勿論、フッツーに女王派を選ぶことにしたよ。イベント期間中マルモアに与そうともそれによるマイナスな影響はないみたいなんだけど、別に敢えて反社会的勢力を選ぶ理由もないかなーって。
そしてそんな流れのもと開催される老師戦のあらすじがこちら。
烏合の衆の支持を得て勢いづくツェツィーリアは、信頼を置く部下達に次なる任務を発令する。
「女王派に属する老師達を捕らえよ。核たる者どもを失ったとあらば、最早シルヴェストに力はない」
そうして、猟犬は放たれた――――――。
以上の設定で、女王派の老師バーサス反女王派の老師でマッチクエストが行われるんだ。
競技種目は【逃ゲキレ/捕ラエヨ】ってやつで、簡単に言えば鬼ごっこみたいなかんじらしい。普段から【アポレノの古城】で開催されてるマッチクエストを、スペシャル版としてルールを少し変えたものだそうだ。
鬼側が反女王派から一人、逃げる側が女王派から四人選出され、15分間追いかけっこするんだって。
で、一応老師の末端たるこの私にも、参加資格が与えられた。
マッチクエストそのものには苦手意識あるけど、私も人間だもんで、「限定」だとか「特別」だとかいう言葉には弱いのよね……。
報酬SGPも美味しいんだ。
試合そのものには勝たずとも参加賞だけで結構なプラスが入る、っていうのも嬉しいところ。出ても足引っ張るだけっていうんなら自重するところだけど、こうなると話が変わってくる。
ただ引っかかる点もあって、このスペシャルマッチ、観戦モードがあるんだよね。観戦モードを映しながらの実況も許可されていて、「うちの枠で視聴しましょう~」なんて動きがきまくら。配信者の中でちょいちょい見られている。
そこそこ目立つことは間違いなしなのだ。
けどな~、いい加減私も、こういう陰キャ的思考を脱したいっていうのはあるんだよな~。
この前のラーユさんの姿勢に影響受けてる感は多分にある。私も「大丈夫!」って根拠ないポジティブさで突き進めるだけのメンタルがあればな~。
なんてうだうだ悩んでいるところに、トークアプリの通知が。きーちゃんからだ。
[송사리]
びーちゃん、老師戦の招待来てる、よね?
びーちゃんは出る予定ある?
おお、ジャストタイミングな話題だ。そっか、きーちゃんも老師だから参加対象者なんだ。
確か【白雨の織姫】とか言ったっけ。最も織り師を極めし者ってことで、老師就任に至ったらしい。
まあきーちゃんなら当然よね、どやぁ。
しかし、彼女の問いかけにはどう答えたものかな。丁度今私も悩んでたところなんだけど~って、相談してみる?
と、文字を打とうとしたところで、再び新しいメッセージが届く。
[송사리]
もしびーちゃんが出るんなら、私も出よう、かなあ…(; ・`ω・´)
これは……、……これはもう出るしかないでしょう! 出る流れでしょう! よし、出よう!
あ、でも、二人とも参加したからといってチームの割り振りはランダムだから、同じ試合に出られるとは限らないんだよね。
一応先のデートツアーと同じく、申し込みフォームには『可能ならフレンドと一緒に参加する』っていうチェック項目はある。とはいえこれがどこまで機能するかも分からないし……。
その辺きーちゃん、分かってるのかな。
[송사리]
うん、分かってる
もし全員全然知らない人とかだったら…その時は覚悟決めるよ(;^ω^)
[송사리]
っていうかもともと出るつもりではあったの
けど色々考えちゃうとやっぱやめとこっかなーなんて日和った思いもでてきちゃって
[송사리]
こりゃいかん、びーちゃんから勇気もらおうって、聞いてみたんだ~(´・ω・`)
さすがきーちゃん、私とおんなじようなこと考えてら。そしてたとえ近くにいるわけでなくとも、同じような立場の友達が同じことに挑戦してるだけで勇気がでるっていうのも、また然り。
きーちゃんも生産主体プレイヤーで、老師になったのだってその功績あってのことだものね。きっとマッチクエストのレベル、私と似たようなもんなんじゃないかな。
そんなきーちゃんが出場するっていうんだもん。私が出ないわけにはいかない。
というわけで、励みを得た私はさくっと参加表明を提出したのだった。








