20日目 呼び出し
ログイン20日目
ぴゅーい、という鳥の鳴き声に、私は身を竦ませた。
これは通話申請が届いた合図である。こそこそとホームで生産作業をしていた最中の出来事だった。
まあフレンド登録をしているとログイン状況が一目瞭然なのでこそこそも何もないんだけど。
私のフレは現状竹中氏だけなので――――何だか不本意な字面であるが――――、発信者も彼に違いない。8回くらいコール音を聞き流していたんだけど一向に鳴りやむ気配がないので、私は渋々通話に応じた。
[ビビア]
はーい
すみません今幻獣から逃げてて手え放せませんでしたあ
[竹中]
いや嘘でしょブティックさん今ホームいますやん
[ビビア]
なぜばれたし
[竹中]
ほんとにホームなんかい
8回もコール無視されて俺泣いちゃいそうです
[ビビア]
震
[竹中]
冗談はさておき依頼品届きました
仕事が早くて助かります
で、何ですかあのアイテム性能
[ビビア]
震
[竹中]
震えで誤魔化さないでください
とにかく直接会って話したいんで今からレスティン行きますよ
郵便だとお金の受け渡しできないですし
ホームにいるっていうんなら、前回と同じ広場でいいですね
よろしくお願いします
私が三度目の震スタンプを押す前に、通話は一方的に切れた。あ~~やっぱり竹中氏オコだったかあ。
まあ仕方ないよね。マーケットを介さない個人間の取引なんてやっぱトラブルの元だよね。
せめて『どんなゴミが出来上がっても当方は責任を取りません』って決まりを契約に含めるべきだったなあ。でもたかがゲーム内の取引でそんなお堅い姿勢を持ち込むのも馬鹿馬鹿しいよなあ。
いずれにせよ、めんどくさいことになった。私は重い腰を上げて、渋々外へ出かけるのだった。
指定された広場に辿り着くと、竹中氏は渋い顔をして突っ立っている。
「まさかブティックさんがきまくら。国宝の素質をお持ちだったとは……」
「はあ?」
「俺この前新しい家建ててしまったので丁度金欠だったんですよね。慌ててクランメンバーから金かき集めてきましたよ。後で何言われることやら。まあそういうわけで、このくらいでいいですかね」
《竹中さんがプレゼントを差し出しています》
→・受け取る
・受け取らない
咄嗟に『受け取る』を選択すると――――――。
《竹中さんから200万キマを受け取りました!》
「うえ!? なんで!?」
「足りないと申しますかそうですか。じゃあもう50万キマで勘弁してください。まじでこれ以上は手持ちないんで」
「え? え? 私なんか、ネズミ講みたいな怪しい商売に巻き込まれてるかんじですか?」
「はい?」
私も竹氏も、きょとんとして互いを見つめ合う。どうやら彼は私が思っていたほど怒ってはないようだ。
「あの、高価な素材の割に酷い性能のものが出来上がってしまったので金返せって話では……?」
「まさか! 逆ですよ! スキル付いてるじゃないですかこのアイテム。ワールドマーケットだったら2、300万で取引される代物ですし、人によってはもっと金積みますよ」
「えええ!? え、でも、私レベルまだ20にも届いてなくて……だから本来【スパイダーエステル】につくはずの毒耐性もつかなかったし、そんな素人が作るものにそんな額……」
「あー……」と竹氏は複雑そうな顔で頭を掻く。
「なるほど、ブティックさんその手のプレイヤーか。談話室見ないって言ってましたもんね。攻略サイトとかも、あんま使わないタイプでしょ」
「そう……かな? 分からないことがあったり、行き詰まったりとかしたらさすがに見ますけどね。まずは自分で色々触って、自分なりのやり方で楽しむのが好き、かなあ」
「生粋のエンジョイ勢……眩しい……浄化される……」
竹氏は目を眇めて、額の前で庇を作る。大丈夫かこの人。
「そういうタイプに打ってつけのシステムがきまくら。にはありまして、それがこの服のような効果――――ミラクルクリエイションというやつなんです」
「み、みらくるくりえいしょん……」
竹氏の話によると、アイテム生産において、例えばスキルが付いたりだとか、通常より効果の高いもの、或いは素材に見合わない効果が生みだされることが稀にあるらしく、その現象を総じて『ミラクルクリエイション』と呼ぶのだそうだ。
「発生条件となるキーワードは『手間』、『丁寧さ』、『手抜きをしないこと』」
「手抜き……あっ、ショートカットスキルを多用しないってことですか」
「そういうことです。もっともこのシステムはまだまだ謎が多く、厳密にこうすれば発動するっていう線引きなどは明確になっていません。しかしスキルのみで作ったアイテムではまず発生しないこと、ミラクリ成功となったアイテムは決まってオリデザものであることなど、色々総合的な考察がなされまして、今のところ手作業を多く加えたものやデザインの凝ったものに発生しやすいと、このような結論となっています。実際今回ブティックさんが作ってくださったこの衣装もかなり凝ってますし、やはり相当の手間と労力がかかっているのでは?」
んー、まあ、勿論スキル使って秒でできたものではないね。
ただ現実の服飾作業のことを考えると、私的には大分楽して作ってるつもりだったけど。テンポよく作業が進んでくから、『労力』かけてるって感覚はないしなあ。
「ええ、ええ。そういう異色プレイヤーのことを、我々は敬意を込めて“きまくら。人間国宝”と呼んでいるわけです」
「つまりミラクルクリエイション? 付きのアイテムを作る人があまりいないってことですか? でも話を聞いてると、レベルが低くても特殊な条件をクリアしてなくても、ミラクルは起き得るってふうに聞こえるのですが。それってそんな異色かなあ」
「ではお聞きしますが、ブティックさんはこの衣装にどれくらい時間かけました?」
えーっと製図の調整とかも含めると丸まる二日使ってるわけだから……と、私は指折り数えていく。
「4時間くらい?」
「よふっ……!」
奇声をあげて噎せる竹氏。どうしたどうした。
「……生粋のエンジョイ勢だなんて言って失礼しました。ブティックさんはイカれたエンジョイ勢ですね」
「いやそっちのほうが失礼ですけど」
「それはスキルも付くわけです。っていうか既存のものと同じようなの作ってくださいって依頼してるのになんでこんな細々としたアレンジ加えてくるんですか。一度作ったものなら材料変えてスキルぽちーだけで大体終わるでしょ」
「うっ、すいません……」
竹氏とお揃いなのがあんまり嫌だったもので……。
「いや褒めてますけどね素晴らしい出来ですけどね。しかしこのようにブティックさんが4時間かけて凝った衣装を作り出したのに対し、ショートカットスキルや既存のデザインを使えば、一分もかからないわけですよ。で、きまくら。ではキャラミッションやら遠征クエストやら月一のワールドイベやら、他にもやることが五万とある。ってなると、きまくら。を遊び尽くしたいゲーマーどもはつくかつかないかもあやふやなミラクリ目当てに、そんな時間かけてらんないわけです」
「へ~~。そういえばこの間のワールドイベ、結局何もしないで終わっちゃったなあ。それに『遠征クエスト』? そんなのもあるんですか」
「………………」
竹中氏の眼差しが、なんだか可哀想な人を見る目になっているのは気のせいか。さっきまで『眩しい』とか言ってたあれは何だったの。
「……実際にはこのゲームの世界の広さに気付いて国宝卒業しちゃう人も多いんですけどね。まあそれはそれ。人のプレースタイルなんて自由ですから、ケチの付けようもありません。とにかくそういうわけでお渡ししたのはブティックさんの仕事にきちんと見合った報酬です。街中で着る用にお願いしたものなので、毒耐性とかもどうでもいいですしね。ですのでそのお金は、どうぞ遠慮なく受け取ってください。今週末……絶対に彼女と一緒に、この衣装着てみせますよ」
竹中氏のお話はよく分からないところも多かったけど、とりあえず最後の一言とドヤ顔がうざいなあと思いましたまる。
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【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・コミュニケートミッションについて語る部屋】
[否定しないなお]
>>ピアノ渋滞
わかる
眠たげというか鬱っぽい顔が魅力なんだよね
あのどんよりとろ目じゃなかったらマティエル推しにはならなかったかも
[ピアノ渋滞]
そう仲間いた
あの退廃的しっとり感たまらない
レスティンでなくダナマス在住ってのもまたよく分かってる
[ポイフリュ]
ミコトきゅんの頭なでなでしたい
森で迷子になりかけてるミコトきゅんに腕広げて「おいで!」って言ってあげたい
駆けてくる途中で転んで半ベソかいてるミコトきゅんの膝頭にお薬塗ってあげたい
それで「もう大丈夫だよ」って言ってぎゅってしてあげたい
[まことちゃん]
お巡りさんこっちです
[深瀬沙耶]
ミコネキぶれないね
[鶯*]
美少年枠で言ったらフィリベルもなかなか
[マ ユ]
きまくら。はマッチョ枠がいないのが唯一の不満です
[まことちゃん]
辛うじてアーベンツ?
[マ ユ]
あれは細マッチョ
もっとむきむきなゴリラ様がいい
[バレッタ]
もはや美少年美青年美少女美娘で世界観固まってるからなあ
今更マッチョとかボンキュッボンだされてもなんか違うってなる
[深瀬沙耶]
>>美少年美青年美少女美娘
エリン「(おろおろ)」
[否定しないなお]
エリンは性格イケメンやから
[ポワレ]
ロリコンやん
[ミラン]
キャラ談話室あるある:
リル廃いないとすぐネキ達の女子会始まる
[サミュエル]
リル廃はバランサー?
[とりたまご]
リル廃も役に立つことあるんだな
[鶯*]
なんでリル廃いないのん?(すっとぼけ
[マ ユ]
なんでだろーねー(*´·ω·)(·ω·`*)ネー
[まことちゃん]
血と砂…これは、戦のにおい…( ̄^ ̄)








