137日目 マッチクエスト(4)
その後狂々さんがクエスト参加申請をだして相手チームとマッチングするまでの間、一、二分余裕があった。そこで私は辛うじて必要最低限な情報を入手することができた。
まず、[狂々]は「くるる」と読むこと。刀の子が[名無しさん]で、犬を連れてる人が[ちょん]さんだということ。
そしてこれから始まるゲームにおいて、私の役割は『特にない』ということ……。
「……え、ないんですか?」
「ああ、ない。本当に数合わせだからあんたには何も期待していない。安心しろ」
「えっと……」
「お、おい。そんな言い方ないだろ。ごめんな、ブティックちゃん。まあなんだ、俺等腕にはそこそこ自信あるもんで、基本任せてくれてオッケーってわけだから。つまり、自由に動いてくれていいよ」
「はー、なるほど……」
募集欄に書かれていた『誰でもいい』というのはそういう意味だったか。それなら、じっくり勉強させてもらいますかね。
因みに以上のやり取りで、この中ではちょんさんが一番近付きやすそうなタイプだということも分かった。歯に衣着せぬ物言いをする狂々さんと私の間を取り成そうと、ちょいちょい面倒見てくれるのが彼である。
名無しさんは大人しくて人見知りな印象。話しかけると答えてはくれるんだけど、何となくやり辛そうな雰囲気が感じられる。
で、最早言うまでもなく、狂々さんは我が道を行くタイプだね、あれ。典型的なマイペースってやつ。
落ち着いた物腰は大人の余裕というよりかは、本当に周りのことを気にしていないゆえなんだろうなって思う。悪気が欠片もないのは分かるので、私としてはそういう人、嫌いじゃないけどね。
と、凡そここから始まるゲームには関係のないことを確認できたところで、マッチングが決定した。またもスキップドアが現れ、私達の体は巨木を舞台にしたフィールド【ヒメカゲタイジュ】に転移する。
マッチクエストで使われるフィールドは平時開放されているものより行動範囲が制限されており、サーバーも別とのことだ。よってここにいるプレイヤーは、私達四人と相手パーティ四人の、計八人のみ。
普通の遠征クエストとは完全に別物のゲームってかんじみたい。
何でもこのMQ、最初はおまけのミニゲーム的立ち位置だったらしいね。それがユーザーにウケたものだから徐々にフィールドやルールの種類が増え、システムもしっかりしたものに育ってったそうな。
基本的にはどのフィールドでも採集ポイントの防衛が目的という体で戦うんだけど、その防衛の仕方や採点の仕方がフィールドで色々異なるっていう仕組みのようだ。
ここヒメカゲタイジュマッチでは、採集ポイントが全部で四つあって、それぞれ旗を立てる場所がある。この旗は設置すると幻性バリアが展開し、旗を立てている間バリアは持続するそうだ。
クエストを依頼してきたクランは、バリアの中で安全に採集活動を行うことができるので、私達は積極的に旗を立てにいかねばならない。
と、そんな設定のもと、旗が立っている場所と時間の合計数を競うのが、ここのルールらしい。
試合時間は一戦につき最長五分で、それを同じパーティの組み合わせで二、三回繰り返す。そして先に二勝したほうが勝ちとなる。
狂々さんは相手に勝てればそれでよくて私の働きなんかは眼中にないようだけれど、このMQ、点数結果によって報酬にボーナスが入ったりもするんだよね。だから私としては、頑張れるところがあるんなら頑張りたいところ。
だって私の本来の目的はといえば、ギルドポイントなのである。お試しマッチであるにせよ何にせよ、早く溜まるっていうんならそれに越したことはない。
というわけで、私は気を引き締めてタイジュマッチのスタート地点に降り立つ。そこは切り株を模した広場になっていて、太い枝によって形作られた道筋が幾つも伸びていた。
ざっとここから見渡した限りでも、二か所、光る台座のようなものが存在している。あそこが多分旗立てなんだと思う。
間を置かず少し離れた位置の対面の枝に、相手パーティのプレイヤー四人が現れた。彼等はなぜかこちらを見てぎょっとしている。
私を知ってる人でも、私を脅威に感じるということはないだろう。ってことはもしかして私以外のこの三人、本当に、顔が知れているくらいに強い人達だったり……?
それだとちょっと、普通のMQの雰囲気を知るという趣旨からは逸れてきちゃうんだけどなあ。
けどま、初めてのマッチはそれくらいイージーモードなのもありかもしれない。ここまできたらもう堂々、お世話してもらっちゃおうかな。
そんなふうに開き直る余裕も少しはでてきたところで、試合開始の笛が鳴る。
かくして、私の周囲からは一瞬で人がいなくなった。
******
【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(非公式)(鍵付・招待制17:03-19:03)・[ちょん]の部屋】
[ちょん]
おい、こうなると話が変わってくるぞ
[狂々]
ん?
[ちょん]
ブティックさん
確かにマッチクエは初心者なんだろうが、この人を無下に扱うわけにもいかんだろ
[狂々]
別に俺は誰が入ってこようが無下にするつもりなどないが
[ちょん]
嘘こけ!
どーせおまえ、数さえ揃って且つ勝てればそれでいいからって、入ってきた奴ほったらかしにする気満々だったろ
[狂々]
それのどこが悪い
加入してきた奴も適当に動いてて勝てるんだったら、何も問題ないだろ
[ちょん]
初心者の多くは、特に女の子は、んな図太いメンタルで参加してねんだよ
…ほら、Bさんだってぽかんとしてんじゃねーか
百歩譲っておまえのプレースタイルはそれでいいとするよ
だがそれならそうと説明しとけ
[狂々]
分かった
[ちょん]
おいいいいい!
何も分かってねえじゃねえかよおおおお!
「数合わせ」とか「期待してない」とか絶対言っちゃダメなワードって小学生でも分かるぞ!?
[狂々]
説明しとけと言ったのはおまえだ
[ちょん]
説明になってないんだよ!
おまえ人の情緒とか理解できないの!?
いいかよく聞け、これが今のBさんの心境だ
[ちょん]
「初めてのMQ、それも野良、どきどきするな
パーティの皆さんに迷惑かけないよう頑張らなきゃ
このパーティの中だと私はどうやって立ち回るのがいいのかな
え?え?「数合わせ」?「期待してない」?
それって私が無能だから要らない子ってこと?
ヤダこの人達怖いどうしよう
後で結社のみんなに排除してもらわなきゃ
あ、そうこうしてる内に始まっちゃった!
私、どうすればいいんだろ、心細いよう、えーんえーん」
[ちょん]
とまあこういうわけだ
だから俺等は勝てりゃそれでいいってんじゃない
本当にただの初心者だったなら放置でも許されるかもしれないが、相手は羊の皮を被った武器商人だぞ
後々に禍根を残さないためにもそれなりの配慮を持って自分もゲームに参加しているという充実感を
[ちょん]
…っておい、聞いてるか?
[ちょん]
おーい!
[名無しさん]
あいつトーク切っただろ
[ちょん]
クソがあ!
[名無しさん]
言ってるおまえも結局Bさん放置で旗取りまっしぐらだしな
[ちょん]
時間がないんだからしょうがない!
いくらご機嫌取ったって勝てなきゃそっちのほうが問題なんだよ
旗は先制で立てに行くのがまず大事!
[名無しさん]
しかし珍しくあんたと見解が一致しているようだ
俺もBさんとの間に禍根は残したくない
[ちょん]
なに?
krrにない情緒がおまえにあったというのか?
[名無しさん]
彼女はきまくら。経済におけるキープレイヤー、丁重に扱うようにと俺はももに指示されている
B嬢と俺は面識ないが、何かの切っ掛けで知られている可能性もなくはない
下手に動いて金融の名に泥を塗るわけにはいかんのよ
[ちょん]
なるほど、もも本位なおまえらしいわい
であるなら、今日限りは俺とおまえで手を組もう
krrはダメだ、使い物にならん
[名無しさん]
ああ、あいつはダメだ
[名無しさん]
おっとそうこう言ってる内に、やっこさん集中砲火の的になってんなw
[ちょん]
まずい!
連中弱いところを先に叩いて突破口作るとか分かってんじゃねーか!
[名無しさん]
あーあーこりゃもうただの虐めよw
リスポーンしてはダウンさせられリスポーンしてはダウンさせられの繰り返しw
行ってやれちょん、おまえんとこの旗は俺が見とく
[ちょん]
頼むわ、犬だけ置いてく
そうかおまえ超吸収持ちだから鷹の目使えんのな
今後も戦況報告逐一よろ
[名無しさん]
りょ








