137日目 マッチクエスト(3)
【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(非公式)(鍵付・招待制17:03-19:03)・[ちょん]の部屋】
[ちょん]
待ち時間別の作業してるんで人数揃ったら呼んでくれ
[狂々]
うい
[名無しさん]
どうせすぐ集まるぞファッション効率野郎w
つかわざわざこのために金払ってトークルーム建てるとかそれもはやツンデレやんw
俺のこと好きやんw
[ちょん]
集まんねーよクソが
てめえとはぜってえ一分一秒一瞬たりともフレにはならんという意思表示だよボケ
あと効率というよりおまえとは一分一秒一瞬でも同じ空気吸いたくねーんだよアホ
[狂々]
ここは仮想空間だぞ
空気は違う
[ちょん]
比喩だっつの
[ちょん]
てかマジでなんでくるるこんなん入れた?
承認するほうがおかしいだろ
[狂々]
能力的に申し分ないだろ、ランクSだし
俺はクリアできればそれでいい
[ちょん]
このままだと人数集まらんくてクリアできなくなるぞ
[狂々]
それもそうだな
参加資格不問にしとくか
三人でもいけるだろ
[名無しさん]
強気だなくるるw
[ちょん]
はー、これで敗けたら目も当てらんねー
時間返せし、訴えようかな
[名無しさん]
無能新規ちゃん入れる気満々だってんならなんかよさげな絵文字多用しとけ?
あと「初心者さん歓迎!」とか書いとけ?
[狂々]
うい
[ちょん]
大体低ランク入れたらチームの平均値下がるから報酬も下がるじゃねーか
マジやってらんね
[狂々]
S+2人とS1人が集まってるんだからこの上誰が入ってこようが普段とそんな変わらん
[名無しさん]
てかそこまで言うならちょんが抜けろって話なんだけどw
[ちょん]
俺が先に入ったのに名無しが入ったせいで俺が抜けるはめになるとかムカつき過ぎるからぜってー抜けない
[狂々]
ツンデレ?
[名無しさん]
な
[ちょん]
きしょいこと言うな
[狂々]
お、募集要項変更したら早速埋まったわ
名無しのアドバイスが効いたのかもしらん
[名無しさん]
だるぉ?
[ちょん]
あーあー哀れな初心者ちゃんだこと
で、誰?
まあ低ランク帯なら名前聞いても分からんか
[狂々]
ブティックさん
[ちょん]
あ?
[狂々]
ビビア……って、ブティックさんのことだよな?
******
パーティ加入の申請は、僅か数秒で承認となった。
よかった。こんな光の速さでオッケーだしてくれるんだから、ほんとに誰でも大丈夫な猫の手でも借りたいような状況だったんだ。
そう安堵すると共に、焦りも生じる。
すぐさま視界の端に、二分のタイマーと【ready?】ボタンが表示されたからだ。このタイマーが切れる前に装備や持ち物など、クエストの準備を整えねばならない。
しまった。勢いで申請しちゃったものだから、そこら辺まで頭が回っていなかった。
けどここから直でマッチクエストに放り込まれるのではなかったはず。多分この後一旦パーティに合流して、そこでまた調整する時間が設けられる、といった流れだ。
なのでとりあえず今は、クエストに使えそうなアイテムを一通り多めに用意していけばいいと思う。
MQでは試合に参加している間、装備を変更できない仕様になっている。また、使えるアイテムの数や種類にも制限がある。
よっていずれにせよ、作戦や他メンバーのプレースタイルを確認した上で擦り合わせを行う必要があるだろう。今はざっくり準備でよし、と。
私は一度呼吸を整え、【ready?】ボタンをタップした。そのアイコンが【go!】に変化すると共に、スキップドアが現れ、開かれる。
次の瞬間、私はビャクヤギルドのロビーに転移していた。
目の前には、ヤギの頭蓋骨を模した半仮面の青年が佇んでいる。
そして彼の傍らのソファにも、二人の男性プレイヤー。
一人は刀を二本携えたパーカー姿の少年で、訝しげな視線をこちらに向けている。
もう一人は顔と腕に幾何学的な紋様の浮かぶ男。
獣使いなのか、足元に白いふさふさの犬を侍らせている。いいなあ、犬。
そしてなぜだか彼はぼんやりとした表情をして、微動だにしない。けれどふいに瞬きしたかと思えば、私を見て顔を引きつらせた。
どういうことだ。
あ、もしかして私が使い物にならない雑魚だってこと、もうばれちゃった?
うう、仕方がない。ここは禍根を残さないためにも、早めにカミングアウトしておこう。
「キョウキョウさんのパーティ、ですよね?」
「うっす」
「ビビアです。入れてくださってありがとうございます。すみません、先に言っておきますけど、私マッチクエスト初プレーなんです。確実に足引っ張っちゃうと思うので、無理そうだったら断ってください。帰りますので」
「ああいや、大丈夫。募集要項に書いた通り、誰でも問題ないから。……えっと、ビビアさんて、あのブティックさんだよね? 服とか作ってる」
「はいそのブティックです。ご存知なんですね、ありがとうございます」
お世話になることは確実なので、いつもより二割増しで殊勝な態度の私である。だからブティックさんでも別にいいです、はい。
私の言葉に、ソファの二人は驚愕の表情を浮かべている。
まあ今回に関して言えば、知られていたのはよいことかもしれない。知名度があるというのは、自然親しみやすさに結び付いたりするからね。
というわけで、『ブティック』というネームバリューを掲げ、堂々愛想笑いを浮かべるワタクシ。……あとはここから始まるマッチクエストの顛末が、逆にブティックの名に泥を塗ることがないよう祈るばかりだ。
と、動揺しているふうな二人とは対照的に、リーダーのキョウキョウさんは落ち着いていた。顎に手をやり考える素振りは見せたものの、すぐに姿勢を戻し、皆を見回す。
仮面で隠れてるから表情は見えないのだけれど、なんか大人っぽい雰囲気あるな。気配りが上手そう。
「じゃ、行くか」
え!? もう!? 作戦は!? 役割や装備の確認は!? ステータスとか見とかなくて平気!? 自己紹介は!?
と、数々の疑問と不安が浮かんだのだけれど、無言で立ち上がる訳知り顔なソファの二人を見るにつけ、そんな訴えは飲み込まざるを得ない。
前言撤回。多分このパーティ、全員気配りとか上手くない。








