134日目 ビップルーム
ログイン134日目
拠点のショップエリアに立った私は、自分以外誰もいない店内を見渡して一息つく。
ちょっとアジアンチックな意匠の入った格子窓。
敢えてのヒビや色褪せのダメージ効果が、年季を演出するコンクリートタイル。
壁や家具には、ダークな色合いのつやつやした木材を多めに使用している。
天井から複数ぶら下がる、それぞれ形がちょっとずつ違う角灯が、室内を優しい光で照らす。
むふふふふ。眺めれば眺めるほどに、顔がにやにやしちゃうね。
そう、ついに完成したのです。私の理想のお城、理想の内装と外装を兼ね備えた私のお店が、ここにきてようやく整ったのです。
因みに現在こちらの店舗は改装中ということで一時閉鎖している。私は心置きなく、お城完成の余韻に浸れるというわけだ。
ホームを拡張してから一体どれだけ経ったかね? 下手したら二か月くらい経過してるかも。
ハウジングはねー、ずっとやりたいと思ってて、飾りたい家具とか建築用アイテムとか、色々ちょっとずつ買い込んでたんだ。けど性格上、どうせ模様替えするんだったらちまちま整えるより、一気にやりたくってさ。
で、しばらくは好みのインテリアアイテムを探して溜め込む期間にしてて、ようやく欲しいものが揃ったので、ここで纏めて改装したってわけ。
それでも完成したのはここショップエリアと隣のビップルームだけで、一階のアトリエなんかはまだ全然手を付けられてないんだけどね。
とはいえこういう大きな空間を自分好みにカスタマイズできるというのは、服作りとはまた一味違った達成感がある。
こだわったところ、色々あるんだよ。
一般向けのショップエリアは、装飾用の植物や小物は控えめにして、どちらかというと無機質でシンプルなイメージを重視してみた。
ごちゃっとしたお店屋さんの雰囲気も好きなんだけど、ここはやっぱり商品のほうを目立たせたいなと思って。
で、私の作る服って洋風和風現代風何でもござれなかんじだから、敢えてインテリアに統一感は持たせないようにしたんだ。テーマを挙げるとすれば、さびれた明治時代の洋館、みたいな?
外国かぶれした日本人が異国情緒を意識してデザインしたんだけどでもやっぱり独特の日本感が抑えられてない的な、そんなかんじで作ってみました。
外装は景観保護法に引っかかる可能性あるから、大きくは変えていない。
田舎は何でも自由に建築してオーケーなんだけど、都市はもともとの雰囲気に合ったハウジングをしなきゃダメっていうルールがあるんだよね。運営AIにアウトってみなされると、全部初期の外観に戻されちゃうんだって。
これに関しては賛否両論あるみたいだけど、私としてはレスティンもビャクヤも世界観の一致した街並みが素敵だなって思ってるので、全然賛成派。
そもそも初期設定の見た目が気に入ってるから、そんなに変える必要性も感じないしね。ベージュ色の煉瓦造りで、入り口は格子窓のついたアンティークっぽい木の扉で、とっても可愛いんだ。
だから改築したところといえば窓と、それともう一つ。
ショーウィンドウ、取り付けてみました。まあまあこれくらいは許されるでしょ。
アーチ型の大きな窓の向こうに二体、マネキンを飾って、カーテンやレースでけばくならない程度に色を添えちゃったりして。
これがまたキュートなんだわ。私ったらいい仕事しますね~。
ビップルームのほうは、飽くまで空間を広く見せることにこだわりつつも、ちょっとだけ高級感を意識してみたよ。絵を飾ってみたり、大きなシャンデリアをぶら下げたり、床を青とベージュのチェス柄大理石にしてみたり。
因みに“ビップルーム”とは、ビップ会員のみ入店できるという機能を備えた一般用とは別のショップエリアである。
入口が一般エリアとは別なので、会員になった人は順番待ちをする必要なく楽にお店に出入りができる。これが第一の特典かな。
ほら、ありがたいことに最近私のショップ、繁盛してるもので、列ができたりもするからさ。改築後入店可能人数は二人から四人に増やしているとはいえ、夕方から夜にかけてのプライムタイムはまだ大分混んでるんだよね。
それで常連さんとかお世話になってる人がもっとスムーズにお買い物できるようになればいいなーと思って、増設してみた次第です。
会員カードは、店主の裁量で自由にプレイヤーに渡すことができる。まあ人数制限はないとはいえ、あんまりばら撒き過ぎるとビップシステムが意味を成さなくなるだろうけど。
あとは工夫次第でビップ限定商品を置いたりだとか、新商品を優先的に買えるようにしたりだとか、色々好待遇を付与することも可能みたいね。
私としては今のところ、待ち時間を短くする以外の点では、あんまり一般枠と差を付けるつもりはない。寧ろ一般エリアより物理的に狭いので、置いておけるアイテムにも限りがある分買い物の自由度は劣るかも。
基本的には新商品を中心に陳列しておく予定だ。
会員カードを送り付けたのは、リンちゃんにゾエ君にきーちゃん、そしてめめこさんのみ。ほんとに親しい人と、古参常連のめめこさんに絞っている。
これは“ブティックびびあ”のビップ枠をそれくらい特別なものと見積もっている、とかではなく、寧ろそれくらい特別な人達でないとこのビップ枠意味を成さないだろうなー、と考えてのことである。
というのもワールドマーケットがあるにもかかわらず実店舗に来てわざわざ並んでる人の多くの目的は、実店舗にしか並ぶことのないミラクリ付きか、或いは試着システムだと思うのね。
そうなると今のところミラクリ付きを置く予定もなく、アイテムの種類も一般エリアに劣るこのビップルーム、そこそこのうちのファンだったとしても、あんま楽しいものではないだろうなーと。
この会員カードを貰って嬉しいのは、もはや新商品にしか興味がないくらいうちの服を買い漁ってくれてるめめこさんレベルの人じゃなきゃあね。と、そういった事情なのである。
あとはリンちゃんゾエ君きーちゃんといった、頻繁にわたしと交流のある人ね。
まあこっちの友達フォルダに分類される人達は、そもそもそんなファッションフリークではない。ゾエ君はたまに実店舗に来てるっぽいけど、基本的には皆、うちで欲しいものがあればWMでぱぱっと済ませてしまうタイプの人達である。
なので彼等にはほんとにささやかなおまけ、お友達のしるし程度の気持ちで渡している。
気軽に連絡が取れる人であれば、「ビップルームにこれこれのアイテム置いてほしい」とか、そういう要望にも応えられるだろうしね。
それと今のところ予定は未定とはいえ、今後ビップ限定で何かお得な催しをすることもあるかもしれない。
そういうときのためのビップルームなの。
だからその場のノリで作ったはいいけど、あんま使い道ないやんとか、必要なくねとか、全然思ってないから。
予想していた以上に、いきなり会員カード押し付けて問題なさそうな人が少なかったとか、友達が少なかったとか、そういうことじゃないの。そういうことじゃないから!!
……ぜーはーぜーはー。
と、ひとり虚無に呼吸を荒げている私のもとに、トークアプリの通知が入る。
[滅べクレクレ]
ビップ会員カード
[滅べクレクレ]
欲しい
[滅べクレクレ]
いくら?
ほらああああ~~~~! 無意味じゃなかった~~!
ここにも! ここにもうちのビップルームを必要としてる人がいたってわけよ!
確かにクー君なんかには打ってつけのシステムかもね。彼の目的はドール用衣装だろうけど、ドールを連れてけば目立つだろうし、行列に並ぶなんてタイプじゃ絶対ないだろうし。
こーゆーこと。こーゆーことを見越しての、ビップルームなワケよ。
そんなふうにして私の尊厳は守られ、クー君への好感度は勝手に爆上がりした夜なのだった。
あ、勿論会員カードはただであげたよ。








