表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
職業、仕立屋。淡々と、VRMMO実況。  作者: わだくちろ
Another

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

199/473

130日目 yuka(後編)

 ユカさんはぱっと顔を輝かせて、真っ直ぐに歩み寄ってくる。やっぱり、あのユカさんはこのユカさんだったか。


 ほんと、あのつんけんした女の子が、どうしてこうなっちゃったのかねえ。このきらっきらした笑顔だけ見れば凄くかんじのよい娘に違いないんだけど、気まぐれにころころ態度変えてくる人は正直苦手だよ……。


 と、酷く億劫がってる私の内心など露知らず、ユカさんはずずいっと距離を詰めてきた。


「ブティックさんこんばんは! 私、ユカです。覚えてますか? この間のデートツアーで一緒の部屋になった」

「あ、はい。その節はありがとうございました。あとなんかすみません。ゲームとはいえ、みんなで手を組んでユカさん側を追い込むような形になっちゃって」

「全然! 気にしないでください! やられた時は悔しかったですけど、後になってみればあのエンディングでよかったなってほんとに思ってます。ブティックさんはシエシャン母子(おやこ)の再会を見越して、ずっと裏で暗躍なさってたんでしょう?」

「え? いや、そういうわけでは……」

「凄過ぎます! 尊敬です!」

「あの、確かにハッピーエンドがいいなとは思ってたけど、私も最後どうなるかはわから、」

「私とっても感動して、あの日から、自分もブティックさんのような陰のヒーローになろうって決意したんです! ブティックさん、こんなまだまだ未熟な私ですけど、よければ何か激励のメッセージください! あ、あとあと、ショップに送ったメッセージ見てくれました? 改革委員会への加入、考えてくれました? それからそれから……」


 ひええ~~~~。だあ~~めだあ~~。

 こりゃだめだ~~。だめなひとだ~~~~。


 この、人の話を聞かないかんじ。こっちの言葉が何一つ響かないかんじ。

 どっかで覚えがあるなあ。誰かさんと似てるなあ。

 って思ったけど、よくよく記憶を掘り返してみれば、きまくら。ってそんな人ばっかりだったわ。ヨシヲ氏然り興奮状態のゾエ氏然り昔のササ氏然り。

 これはやはりアクティブモードにして娑婆なんかに出るべきではないという教訓ですね。退散しま~す。


 しかしそうして私が設定をいじり出したところでふと、ユカさんのマシンガントークが唐突に止まった。見るといつの間にか彼女の隣に長身の女の子がいて、ユカさんの肩をとんとんと指でつついている。


「委員長、あっちで副委員長達が呼んでます」

「もうっ、私今それどころじゃないんです。ブティックさんと積もる話が、」

「委員長、見てください、副委員長達のあの切羽詰まった顔。緊急事態のようです。きっとどこかの平和が脅かされていると、救援要請が入ったに違いありません」

「何ですって?」

「行ってください! 委員長の力が必要です。ブティックさんには私がお話を引き継ぎますから」


 ユカさんはしばらくの間逡巡していたが、やがて「頼みましたよ」と告げて踵を返す。


「ブティックさんすみません、急用ができました! 同じ正義の味方どうしゆえ、多忙さにはご理解いただけるとありがたいです! また会いましょう!」


 そうして彼女は、広場の隅で顔を青くしている仲間達のもとへ駆けて行った。後には私と、長身の女の子が残される。


 女の子の存在にはもともと気付いてはいたけれど、ユカさんのインパクトが強くてあまり気に留めていなかった。

 けど改めて見ると黒ずくめの西洋風衣装はユカさんの白い衣装と形が全く同じで、ユカさんの相方のような立ち位置だったことが分かる。


 女の子は眉尻を下げて微笑み、ぺこりと私にお辞儀してきた。


「うちの委員長がお騒がせしちゃって、ごめんなさい。委員長ってあの通り、エンジンかかると暴走が止まらなくなっちゃうタイプで。後で言って聞かせておきますので、すみませんが今回のことは大目に見てくださいませんか?」


 おお、と私は内心唸る。あっちの白い娘には全くもって似つかわしくないまともそう且つ誠実そうな娘で、ちょっと感動してしまった。

 きまくら。にもまだこういう人が生き残っていたんだねえ。お姉さんは嬉しいよ。


 勿論こんな可愛くて利口そうな娘に場を取り成されてしまったとあらば、私も海のような慈愛の心をもって対応せざるを得ない。危難を遠ざけてくれたわけだし、寧ろ助かった。


「大丈夫です、気にしないでください」

「ありがとうございます。私、[環奈]って言います。実は私もブティックさんの服のファンなんです。ブティックさんの動画視てきまくら。始めたんですよ」


 え~~!? そうなの~~!?

 そんな子いるの~~!?

 でへへ~、嬉しいなあ。お世辞だとしても、そんなこと言われちゃあにやにやが止まらなくなっちゃうよ。


 その後環奈さんは丁寧に挨拶して、去って行った。


 いやあ、今時のきまくら。に珍しい凄くかんじのよい普通の娘だったなあ。なんかこう、「ファンです」って言って持ち上げてくれる反面、しつこくは接してこず、別れ際もあっさりしてて、でも礼儀正しくてさりげない気遣いが伝わってきて。

 あんな娘が私の動画きっかけで新規で入ってきてくれたとか、きまくら。界も捨てたもんじゃないなあ。


 そう思うと同時に、小さな心配と疑問も過ぎる。


 あんな純粋そうな娘がきまくら。にニュービーとして参入してきて、これからも図太く逞しくきまくら。を楽しんでいけるだろうか?

 ユカさんとは同じクランのメンバーで、親しい間柄のようだったけど、あんなアレな人と付き合ってて大丈夫だろうか? 毒されたり、被害を受けたりしないだろうか?


 大きなお世話であることは百も承知しているが、私は人混みの中に消えていく彼女の背中を、願いを込めて見送ったのだった。

 どーか環奈さんのこれからのきまくら。ライフが、楽しいものでありますよーに。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・遠征クエストについて語る部屋】



[名無しさん]

さてそろそろ初心者狩りすっかな

大手の勧誘ブームもひと段落ついたっしょ

後ろ盾得る貴重なチャンスをものにできなかった情弱ちゃんなんぞ、蹴散らしても誰も文句なんて言わないべ


[竹中]

おまえが蹴散らされてしまえ


[深瀬沙耶]

釣り針デカすぎて食欲失せる


[賢者ビスマルクの息子]

何だかんだ先のデートツアーのコラボ動画でそこそこ話題になって、手堅く新規も増やしてるっぽいなあ

あんなどこに需要あるのか分からんコラボでも上手くいくときあるのね


[もも太郎]

今まで影の薄さと悪評で埋もれてたきまくら。の底力が知れただけ

普通に良ゲーだから、認知度さえ上がればこのくらいは流行って当然


[ウーナ]

とはいえスミカさんがこのゲーム気に入って続けてくれてるのは嬉しい

多分そこも大分宣伝になってる


[na To]

そんなことより野良組むと全員散ってって、サポート担当のおらのライフがあっという間に散るのが辛い

パーティ組んだときの行動範囲もっと狭めてほしい

何のためのパーティだよってなる


[リンリン]

より多くの報酬を得るためのパーティです

俺は俺のために、みんなは俺のために

全員そう思ってるんで、自分の面倒を全部自分で見れるようにならなきゃ野良行く価値はないです


[モシャ]

>>na To

行動範囲狭めたところでおまえの命が散るのは同じだぞ


[スペード]

逆にサポート担当こそ機動力が求められる件


[竹中]

アイテム収集終えて戻ってきた採集師、ハイエナ狙いの別パと一緒にFF食らいがち

↑ここテストにでるからな

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仕立屋コミックス&書籍発売中(^ω^)
9wjng0gw7g1fbkp61ytqbgewajkh_zl9_71_a1_1byr.jpg9wjng0gw7g1fbkp61ytqbgewajkh_zl9_71_a1_1byr.jpg9wjng0gw7g1fbkp61ytqbgewajkh_zl9_71_a1_1byr.jpghtml>
― 新着の感想 ―
スミカさんがきまくら。続けてる…!? ササとB嬢と本物スミカがばったんこしてササの脳がパーンする展開全裸待機
[良い点] なんか始まってた! 好きな作品だったのでまた読めるのが楽しみです〜!
[一言] 外伝と聞いて飛んできました厄介オタクです。またキムチさんひいてはブティックさん達の活躍が見られるとは感激の極みで卒倒しそうです。気づくのが遅れたことが本当に悔やまれる。yuka様とも無事仲直…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ