122日目 舞踏会(11)
この人めっちゃ端的、そして多分せっかちさんだなあ。私が最後まで言葉を言いきる前に、自分の声を被せてくるんだけど。
まあそれだけ頭の回転が速い人ってことでもあるんだろうな。
加えて変にオーラがあるものだから、うっかりすると向こうのペースに呑まれてしまいそうだ。
いけないいけない、落ち着かないと。
優位に立っているのはこちら。そのことを忘れてはいけない。
「どうしてですか?」
「……そのカードが、こちらの任務遂行の上で必要だからだ」
敢えて間を置いて、ゆっくりはっきりを意識して尋ねると、ササのほうもペースを落として話してくれるようになった。
成る程、もしかして焦ってたのは彼のほうだったのかな?
そう思うと、少し心に余裕ができた。
なんだ、このひとも人間じゃん、って。もっと言えば、想像していた以上に話が通じる人間なのかもしれない。
だとしても油断はできないけどね。デコピンなんてかましてくる冷血漢に隙を見せちゃいけないのです。
それはさておき、彼はやっぱりこのカードを欲しがっているようだ。しかもつい焦りを見せてしまうほど、喉から手がでるほどに。
さて、どうする? 私とシエルちゃんにとっては多分このカード要らないけど、勿論タダで渡してしまうのは惜しい。
んー、でも私、こういう駆け引き苦手なんだよなあ。
ここは思いきって、ストレートに言ってしまおうか。相手もストレートな性格っぽいし、うん、それもいいかもしれない。
「条件があります」
「何だ」
「最後の投票フェーズで、シエルちゃんに票を入れないでほしいんです。あ、あとシャンタちゃんにも」
黙り込むササ。
意外にも、彼はあれこれ理由を尋ねてきたり、こちらの意図を探るようなことを口にしたりはしなかった。こんなん滅茶苦茶怪しいのにね。
若しくは聞くまでもないくらい、ばればれってことなのかなあ。
いずれにせよササは思案するように数秒、あるいは数十秒、視線を宙に彷徨わせ――――――やがて、静かに口を開いた。
「分かった」
「いいんですか?」
「カードは渡してもらうぞ」
「あ、はい。それは勿論」
あっさりと了承の返答が発されて、私は拍子抜けする。
急展開過ぎてまだ頭が追い付いてないんだけど……これ、喜んでいいんだよね? シエルちゃんのミッション達成に、一歩近付いたってことだもんね?
わ、わーい、やったぞー!
しかもササは情報カードの譲渡を行ったのち、こんなことまで尋ねてきた。
「それで俺は誰に投票すればいい」
「! こちらで決めさせてもらえるんですか?」
「シエルとシャンタに投票できなくなった以上、他の誰に投票しようとこちらのミッションに影響はないと判断している。希望があるなら聞いてもいい」
えーっ、それめっちゃ助かる。だって上手くすれば他の令嬢に投票を集中させられるってことだからね。
「シエシャンに投票しない」って条件だけだと票が分散しちゃって、「アントワーナ1票テレジア1票リルステン1票シエル3票、シエルが犯人に指名されました!」なんて結果も有り得る。
でも投票先まで指定できるっていうんなら、その危険を幾らか薄めることができるかもしれない。
……なんだけど、じゃあ誰を指定すればいいのか。私はすぐに答えをだすことができなかった。
シエシャンはダメ、テレジアも多分ダメ、リルとフェルケは心証的に擦り付けがし辛い……って考えると、自然、結論はアントワーナになると思う。
でも調査を進めればもっといい擦り先が見つかるかもしれないし、他のプレイヤーがどういう考えで動いているかによっても変わってくる気がする。
実際目の前のササ&テレジアサイドなんて、犯人の追及よりも優先される目的があるっぽいし、もしかしたらそういうキャラクターが他にもいるかもしれない。
何より、できればゾエ君の意見を聞いておきたい。彼は誰に投票するのか、そのことを聞いた上で結論をだしたい。
「あの~、ちょっとまだ決めかねているので、先に他の調査を進めてから、もう一度お話させてもらってもいいですか?」
「……構わないが待ち合わせなどはご免被る。俺はこの時間を俺の好きなように使うつもりだ。調査フェーズの後半でまた会える保証はない。それでいいんだな」
うう、そっかあ。確かにこの短い調査フェーズの間で待ち合わせの約束なんてしたら、大分行動が制限されるもんね。
これは今決めるにしても後で投票先を伝えるにしても、どちらを選んでもギャンブルになる。でも、妥協なしにシエルちゃんの完全勝利を目指すんであれば――――――。
「分かりました。その時はこちらのほうでササさんを探しますので、ササさんは自由に動いてもらって構いません。もし会えなかったら、シエルシャンタ以外で好きなキャラクターに投票してもらう、ってことで」
――――――こっちに賭けよう。
何としてでもどうにかゾエ氏と接触して、何としてでもササ氏と再会してやるんだから!
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[リンリン]
え?起爆装置二個あるの?
[イーフィ]
そう
マユが見つけてたのが東の塔で、ダムが見つけてたのが西の塔
[スペード]
鯖によって隠し場所違うとかじゃね
[陽子@SK]
イベントは一斉開始で鳩防止対策もしっかりされてるから、隠し場所変える必要がないと思うんだよね
[ねじコ+]
二個だわ
マユと同卓のコハクさんが西塔でもう一個見つけてる
[弐]
シエシャン二黒確定かw
[檸檬無花果]
コハクさんてシエルサイドじゃんw
犯人側が見つけちゃったのってヤバいんじゃない?w
[椿ひな]
起爆装置は一回見つけても持ち出せたり消えたりするわけじゃないんだよね
別の人が再度同じ装置を見つけても同じ文章が表示される
ただ情報カードは最初に見つけた人だけ貰える模様
[名無しさん]
見つけたらフェルケに情報カード公開すればいいんだっけ
[universe202]
>>名無しさん
多分それで起爆装置停止のミッションは達成になるはず
けど二つ両方のカードが必要~ってなると…マユ卓、終わったな
[千鶴]
え待って
コハクさん起爆装置のカード、フェルケに見せちゃったよ
[もも太郎]
これはプレミ
[にゅー]
いや、良心を優先させたんじゃないかなあ…
[双葉]
あーね?
自分のミッション達成よりもストーリーのハッピーエンドを取ったかんじか
[くるな]
気持ちは分かる
実際起爆装置作動させて双子が幸せになれるとも思えんし
[エルネギー]
自首ルートとかあるのかね
[花風邪]
うーん悪役には悪役を全うしてほしかったけどなあ
[くまたん]
どう立ち回るかはプレイヤーの自由よ
そもそもこれがいい結果に繋がるかも分からない








