122日目 舞踏会(2)
お城に到着して馬車を降りると、舞踏会の映像が自動で流れ始めた。
ワインや軽食を片手に語らい合う紳士達に、サロンで寛ぐマダム達、王様王妃様に丁重に挨拶する家族、そして優雅に踊る男女。うん、これぞ貴族のパーティーってかんじ。
で、そんなムービーののち、私とシエルちゃんも実際に賑やかな宮殿の一角に降り立った。これでシエルちゃんを連れて自由行動ができるようになったみたいだけど――――――ちょっと歩いたところで、すぐに呼び止められる。
王宮の使用人と思われる男の人が、シエルちゃんに何事かを耳打ちした。シエルちゃんは肩を竦めて首を傾げると、私を手招く。
「フェルケ姫が呼んでるらしいわ」
フェルケ姫というのはレスティーナ王家の末姫様で、今デートツアー主要キャラの一人でもある。いよいよ本格的にイベントが始まりそうだぞ、と私は気を引き締めた。
連れて来られたのは、宮殿の片隅にある比較的小さめのサロン。
といっても王宮の規模感から見ての話なので全然広いんだけど、舞踏会会場の傍に用意された部屋よりは大分控えめ。そして静かだ。
会場から少し離れているので、遠くで音楽や喧騒が聞こえるかんじ。
この部屋には見覚えがある。確か先のムービーで、シエルちゃんが数人の乙女達と談笑していた一室だ。
……いやまあ、実際にはシエルちゃんは独りでつまらなそうな顔をして、ソファに腰かけてただけなんだけども。
で、その数人の乙女達と、彼女等のパートナーであろうプレイヤー達が、今この部屋に一堂に会していた。
まず、お馴染みシャンタちゃんとゾエベル氏。
シャンタちゃんはこっちを見ないようにしてるみたい。やっぱぎすぎすしてるんだなあ。
対照的にゾエ君はにっこにこ。私に向かって手を振っている。
次にリルステンと[ミルクキングダム]氏。
竹さんではなかったね。これが吉とでるか凶とでるかは謎だけど。
それからアントワーナとまさかのヨシヲ。
ヨシヲ、私の作った【魔性貴公子の衣装セット】で来てくれてるー!
リンリンから「気に入ったみたいよ」とは伝え聞いてたけど、舞踏会にまで着てきてくれるとは。これは嬉しいね。
まあ、和解しているとはいえ、あまり得意でないタイプなのは事実なので、接触は最低限にしたいところ。向こうも先の件を気にしているのか、なんかちらちらもじもじこっちを窺ってるかんじ。
このままこれくらいの距離感でいたいかな。
アントワーナはつんつんしたかんじのお嬢様だ。
この娘についてはシエルちゃんから話を聞いてたんだけど、典型的なプライドましましご令嬢ってかんじみたい。上流階級としての意識が強くて、成金貴族たるシエシャンとはバチバチだった模様。
でもとある一件によりお家の格が下がったそうで、最近大人しめだとも言っていた。
で、そのアントワーナの取り巻きキャラが、テレジアっていうほわほわした女の子。
隣にいるプレイヤーはダミーアバターを使用していて、ネームプレートには……あれ、なんか、[ササ]って書いてある……。確か私の全ブロックプレイヤーリストに、いたよね、そんな名前の奴。
有り得ないって思いたいところだけど、残念ながら有るんだよねー、このイベントに関しては。
『システムの都合上、今イベントにおいてはブロック機能を無効とさせていただきます。ご了承のもとご参加ください』って書いてあったんだ。
まさかそんな数奇なクジを引くこともそうそうないだろうと思って、えいって申し込んじゃったけど、これは当選してしまった可能性アリ?
名前被りは許されてないものの、ササが改名してから別の人がこの名前を使う、なんてことは起き得るので、別人というのもなくはない。後でユーザーコード確認しておくか。
最後の一組は私達をここに呼び寄せた張本人でもあるフェルケ姫と、パートナーの女の子[yuka]さん。
……って、あれ、このプレイヤーも見覚えあるなあ。確か銀河坑道で、こう、わちゃわちゃっと、そう、なんかわちゃわちゃっとしてた人だよね。
髪も肌もドレスもケモ耳も真っ白な彼女は、雰囲気のある可愛いアバターなんだけど、前回同様なぜか私には友好的でないみたい。目が合うと、じろっと睨まれてしまった。
なんだか一癖も二癖もありそうな面子が揃っているようだ。なかなか難易度の高い卓に放り込まれてしまった予感がする。
ここからのゲーム進行、大丈夫かしら。
そんなふうに一通りメンバーを観察し終えたところで、小柄ながらも威厳ある装いをしたフェルケ姫が、口を開いた。
「交流を楽しんでいるところ突然お呼び出ししてしまい、恐縮です。そして集まってくださり感謝します。時間が押しているので率直に申し上げます」
皆の顔を見回しながら語る彼女からは、緊迫した様子が感じられる。
「先ほどこちらのサロンにて、このようなカードが見つかりました」
一人のメイドさんがすっと出て来て、テーブルの上に瀟洒な柄の入ったカードが置かれる。
同時に視界に文字が浮かび上がった。カードに書かれた文面のようだ。
矜持と伝統に魂を売り、金と慢心に溺れる愚かな貴族どもよ
この城に仕掛けられた起爆装置が、今宵貴様らに鉄槌を下すことになる
心して自らの終焉を待つがよい
これは……――――――。
「――――――犯行予告状……!?」
頭に浮かんだワードを、ユカ嬢がそのまま口にだして叫んだ。
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【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(非公式)・ミステリーデートツアーの配信について語る部屋・話題無制限】
[千鶴]
他鯖・他視点からのネタバレ嫌う人は各鯖専用の部屋建ってるからそっち行ってね
こっちはどっちかっていうと二窓三窓抵抗ない人用
[ねね]
スミカ視点始まったね
楽しみ~
[マリン]
スミカはテレジアサイドか
配信者はリル派多いから特殊サイド助かる
[つららE]
肉食系女子テレジアちゃん、イイね!
[椿ひな]
キマクラ卓は各々好きなキャラ選んでったかんじかな?
[れん太]
ぽいね
いいな~ワイもゲスト枠でシエルのパートナーとしてキマクラ卓に参加したい
[否定しないなお]
色々無茶
[くるな]
待ってダムさん卓のメンツが濃過ぎて草なんだがwww
[賢者ビスマルクの息子]
ほう、見てこよう
[ツグミ]
wwwwww
[うさまりこ]
こんなん草生やしますわ
[れん太]
この卓にだけはゲスト枠だとしても混ざりたくないw
[もも太郎]
ダミーのササってあのササ?
[SUSHILOVE]
オールスター戦争かな








