122日目 舞踏会(1)
ログイン122日目
『19:00』に近づきつつある時計をちらりと確認しつつ、私は鏡の前に立つ。
へへ、この日のために仕立ててみたんだ。自分用のロイヤルブルーのドレス。
だってシエルちゃん、『私の侍女として恥ずかしくないよう、着飾っておきなさいよ』なんて言うんだもの。そりゃあ気合入るよね。
こうなってくると、ダミーアバターなんて使ってらんないよ。
だってあれ、めっちゃモブっぽくて地味なんだもん。招待状に添付されてたアバター画像は一応舞踏会仕様になってたものの、やっぱ無個性さは拭えない。
勿論ダミーを設定したとて、自分視点からはちゃんと独自のアバターや衣装で表示される。
これが私単体の問題なら別にそれで構わないのだけれど――――――でも、今回私はシエルちゃんの侍女として、シエルちゃんの隣に立つわけだ。
故にこのアバター問題はシエルちゃんの沽券に関わる問題でもある。シエルちゃんの侍女が地味モブだなんて、誰の目にもあってはならないことなのである。
だから私は勇気をだして、ダミーを取っ払った素の“ビビア”として、イベントに参加することに決めた。ちょっと緊張するけど、頑張るぞー。
衣装のほうは、スカート部分がたっぷり広がる膝丈ドレスに仕立てた。
青で纏めた色調は落ち着いた雰囲気があり、主役であるシエルちゃんの華やかさを損なわないよう意識している。なのでフリルとかレースとかの使用は控えめにしてるんだけど、代わりにちょっとチャイナ風味を混ぜることによって個性を演出してみた。
立て衿にして首元をぴちっと閉めつつ鎖骨辺りは八の字に開襟して肌見せしたり、うっすら孔雀の羽模様が入ったオーガンジーを重ねたり、金の花ボタンを使ったりと、そんなかんじ。
頭飾りには、鹿角の片っぽに【ブルーローズ】の花と蔓を巻き付かせている。
で、タイツはね、何と今回きーちゃんにリクエスト依頼させていただきました。日程が押してたんでどうかなーとも思ったんだけど、きーちゃんは快く引き受けてくれて、素敵な品物を寄越してくれたよ。
色合いはドレスと同じで、左右の足が違う柄になってるの。片方が孔雀羽柄で、もう片方がストライプ柄なんだ。
へへ、厳かな意匠とポップな意匠の対比がめっちゃ可愛い~。
足元は、踝にストラップの付いた藍色のハイヒールパンプス。
鏡の前に立つと、ちょっとエキゾチックな雰囲気のあるバンビガールが映っている。
地味過ぎでもなく派手過ぎでもなく。キュートに、でも少し大人っぽく。
ふっふっふ、我ながらよい仕事をしたものだ。
今回のデートツアーでは、シエルちゃん側の着せ替えモードは使えないみたい。だから当日彼女がどんな格好で来るのかは分からない。
でも、複数の人の目に触れる特別なイベントってことなのでね。ここは少し個性をだして、攻めの姿勢でいくことにしたよ。
最悪舞踏会全体のイメージに馴染まなかったとしても、お祭的な意味で許してもらえると思うんだ。保守に走ったがゆえの“浮き”よりはまだましかなって。
そんなふうに自分で自分に見惚れていたら、コンコンッ、と裏口からノックの音が響いた。来た!
急いで出て行くと、扉の前に立っていたのはシエルちゃんちの本物のメイド、ルフィナさんだった。
彼女は普段通りのお仕着せ姿で、でもほんのちょっとメイクに気合が入ってたり、髪の結い方が複雑だったりと、おめかししてるみたい。やっぱこういうイベントのときはメイドさんも、身なりに特段気を遣うのかもねー。
「こんばんは、ビビアさん。今日はよろしくお願いしますね。さ、あちらの馬車でお嬢様がお待ちです」
示された煌びやかな馬車の窓からは、シエルちゃんがこちらに向けて手を振っている。ルフィナさんが開けてくれた扉から中に入ると、凛とした淑女スタイルの彼女がそこにいた。
全体的にダークパープルで纏められた衣装で、フリルたっぷりのブラウスの上にベストとジャケット、総レースのふんわりスカートってかんじ。
とっても似合ってる――――――んだけど……、あれ、貴族の舞踏会、しかもデビュタントの割には、かなり落ち着いた優等生コーデってかんじ。ぶっちゃけそれこそ、付き添いの侍女が着てるほうがしっくりくるっていうか。
いや、普通にシエルちゃんこういう格好するし、普段着としては全然華やかなんだよ。けどパーティの、それも主役級のお嬢様の身なりとしては、大分控えめだなー、と。
私のほうの衣装、この色にしといてほんと正解だったよ。
正直これだと私のほうがシエルちゃんより肌見せしてるし、並ぶと私のほうが浮ついてるかんじするもん。辛うじて色合いがシエルちゃんと被ってるから、侍女としては微妙でも、友達、パートナーとしてはセーフかなって。
と、ちょっと焦りつつ自分に言い訳する私をシエルちゃんは観察し、目を細める。
「素敵よ、ビビア。似合ってるじゃない」
「あ、ありがと。シエルちゃんも可愛い」
そう言うと、彼女は自嘲気味に口端を歪め、窓の向こうに目をやった。
……なんか、元気ないかんじ? もしかしてそれのせいで、衣装にも気合入ってないとか?
「ママ、来れなくなったみたい」
「え……」
私は絶句する。
そっ……かあ……。それは……、テンション下がってもしょうがないよね。
だって、ママに晴れ姿を見せたいって思いで、苦手な貴族の集いも頑張ろうって、自分を鼓舞してきたんだもんね。見せる相手がいないんじゃあ、そりゃあ、どうでもよくもなるよね……。
「出発寸前ってところで、具合悪くなっちゃったんですって。発作みたいなものよ、ストレス性のね。ママは体調が落ち着き次第、途中からでも行くって言ったみたいだけど……多分無理。……ママに無理させちゃった」
シエルちゃんのせいじゃないよ。
そう言うと、彼女はふっと苦笑を漏らした。「そうね」と呟く灰色の瞳に、昏い炎が宿る。
「一番悪いのは、誰かしらねえ……?」
うう、どうにしかしてシエルちゃんに元気だしてもらいたいんだけど、私じゃ力不足みたい。
折角の舞踏会なのにな。このままじゃシエルちゃんも私も、本調子を取り戻せないよ。
なんでだろ、って思って、当たり前の事実に気付いた。
そうだ、今日もシャンタちゃんがいないんだ。まだ喧嘩中なのかなあ。
すると丁度会話の選択肢にシャンタちゃんについて尋ねる台詞がでてきた。ちょっと気後れしなくもないけど、えいやっとぽちってみる。
「シャンタ? ああ、いたわねそんな娘。まだ喧嘩中よ。だから今日も別行動。顔も見たくないわ」
シエルちゃんはにやりと口端を持ち上げた。
……えー、ワタクシサイドのミステリーデートツアーは、なかなか前途多難な予感がしております。
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【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・ワールドイベントについて語る部屋】
[カタリナ]
リル派VSシエシャン派VSフェルケ派VSトワ派VSテレジア派
ファイッ
[賢者ビスマルクの息子]
「派」がゲシュタルト崩壊してくるブヒ
[もも太郎]
トワ派テレジア派とかいう勢力に全然やる気を感じないんだが
[アリス]
推してる人もいるにはいるんだろうけど、キャラとの絡みに全く興味なくて適当にこなしてたらいつの間にか好感度上がってた、みたいな人いそう(;´・ω・)
[CHESHA]
トワちゃんも可愛いところはあるんやで
[陽子@SK]
せめて早めにデート対象キャラ教えてくれたらなー
好きでなくとも絶対穴場ってことで、嬉々として好感度上げにいったんだけど
[ポワレ]
キャラの好みに関係なく普通にデートツアー参加できるの羨ましいよね
本気でトワテレジア推してた人はサプライズ感あってめっちゃ嬉しいだろうな
[社畜武者]
ダムさんの事前イベントアーカイブ視てきた~
お城で舞踏会とかそれ女の子超好きなやつですやん
いいなー
[とりたまご]
エンディングをユーザー投票で正史化するって不安しか感じないのだが
[msky]
きまくらゆーとぴあ。は滅亡しました。
めでたしめでたし~。








