100日目 ミラクル・クリエイション(1)
ログイン100日目
インすると、ゆうへいさんからメッセージが届いていた。
直に会って話したいので、できれば情報屋に来てほしいとのことだ。今日は0時までいるらしく、その間ならいつでもいいってさ。
多分、というか間違いなく、先日送った録画ファイルに関することだろう。
余計な謎要素は付与されてしまったものの、あの動画内で私はちゃんと大ミラクリを達成できたし、自分の仕事はきちんと果たしたと言える。
あとは情報屋さんのほうでそれを見て、ミラクリ確定の条件について識別、判断してくれているはず。動画を送信してから今日までに二日以上経ってるし、もしかしたらその期間で追加検証とかもしてくれたのかも。
いずれにせよ、これでやっと次のステップに進めるわけだ。情報屋にはミラクリ、そしてウラクリについて広めてもらって、そしたらきーちゃんのクロスの真の価値も皆に認めてもらえるようになる。
きーちゃんは胸を張って値上げができて、私も満足、みんなも満足のハッピーエンドだ。
気になることがあるとすれば、これがきっかけで習可アイテムの供給は増えるだろうから、そうなると私の商売にも影響がでるのは必至だろう、ってこと。
けどまあ、こういう簡単な知識の有無で生まれた差なんてものは遅かれ早かれ簡単に無くなってしまうものだ。それに習可供給が増えるっていうのは、私にとって悪いことばかりでもない。
いくら需要があったって個人で生産できる量には限界があるからね。
連日送られてくる沢山の習可リクは、正直ノイズと言えなくもなかった。作り手側としてはやっぱり純粋に私の製作物を好んでくれてる人とか、大事に使ってくれる人の意見を優先したいからさ。
これで性能にしか関心のないお客を幾らかフィルターにかけられるって言うんなら、それはそれでいいかなって。
デザインを気に入って買いに来てくれる人は今でも一定数いるわけだし、過疎るってことはないと思うんだよね。
というわけで私は意気揚々、上機嫌で情報屋に向かった。今日はあの異様で異常な歓迎もなかったもので、幾分私はリラックスした気持ちで、ゆうへい氏と向かい合わせに座る。
しかしそんな私とは違い、彼はなんだか浮かないような、複雑な顔をしていた。それに気付いてしまったからには、私の心中にもうっすらと雲がかかる。
あれ? もしかして作業動画見ても、ミラクリ確定の条件は分からなかったかんじ……?
そう問うと、ゆうへい氏は目頭を押さえて悩ましげな声を発した。
「いや、分からなかったとは言わない。分からなかったとは言いませんが……」
「じゃあ分かったんですね!」
「えー、はい、まあ。分かりました。あなたと一般ユーザーの認識の根本的な違い、これは確かに分かりました」
なんだ、分かったんならいいじゃん。それなのにどうしてこの人はこんな、話を切り出すのを躊躇しているような、微妙な態度なんだろう。
あ、もしかして。
ミラクリについての解明は進んだものの、それは私の期待してた結果じゃなかった、ってこと? つまり、きーちゃん素材の真価、ウラクリの存在を証明するものではなかった……?
「んー……いや? ……はい?」
「どっち」
「えーっと、そうですね。正直に言いましょう。ウラクリの存在は証明できませんでした」
がーんやっぱり!!
「いえ、ですが、あなたのウラクリ論は恐らく正しいとは思っていますよ。まあ何ていうか、他でもないブティックさんが言うんだから、且つあんなビデオを見せられた後じゃあ、もう反論のしようもないというか」
「え? どういうこと? その、だから、そう思ってくれるんであれば、裏付けを取ってほしいっていう、元からそういう依頼だったはずなんですけど」
するとゆうへい氏はむつかしい顔から一転、にっこり笑った。
「嫌です」
――――――………………ぇええええ~~~~~!? 可とか不可とかそういう問題ですらなく、好悪の話いいいい!?
“情報屋”なんでしょ!?
情報のプロなんでしょ!?
有名で有能なクランなんでしょ!?
「プロだからこそ、お断りさせていただきます。こんなことに時間を割いてる暇はねえ」
そんな……そんな……最初来たときはあんなに歓迎ムードだったのに……。ミラクリ検証の話にも乗り気だったのに……。
っていうかなんか彼、怒ってる?
口元は弧を描いてるけど、目が笑ってないよ。こめかみあたりが引きつってるよ。
私が戦慄いていると、ゆうへい氏は咳払いをして真面目な顔になった。
「そうですね。とりあえずじゃあ、実際に見てもらいましょうか。あなたの認識と、我々の認識の違いを」
そう言うと彼はシステムパネルを操作して、私に画面共有の申請を送ってきた。許可すると、何やら動画が再生される。
一人称と三人称のカメラがそれぞれ並んで配置され同時に流れる様は、見覚えのある構図だ。プレイヤーが作業台を前にしていることとか、その脇に置かれたミシンなんかの景色も。
「もしかしてこれから、私以外の人がミラクリを作ろうとした場合どうなるのかってことを、見せてくれるんですか?」
「ええ。これはあなたから教わった“大ミラクリの方程式”を忠実に再現すべく奮闘している、検証員の作業風景――――その一例です」
なるほど。ゆうへいさんが何を考えているのかは分からないけど、実際に見せてくれるっていうのは話が早い。
私は気を引き締めて画面を注視した。
******
【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(非公式)・Bさんにキャリーしてもらいたい人達の部屋】
[バーボン]
夢幻の右手を持ちし者…
どこまで行くんだブティックさん…
[賢者ビスマルクの息子]
絶対ミラクリ成功数とかそんなんだろうなー(遠い目)
[椿ひな]
スキル内容分かんないけど、これもうB専用ユニークスキルでしょ
覆せる人がいるとは思えん
[カンタカンタ]
あっ、ビビアってブティックさんのことだったのか
いつの間に改名したんだ
[陽子@SK]
ブティックのままでよかったのにねえ
分かりやすいし親しみやすい
[ジャガイモ]
どっちにせよBさんだからいんじゃね
[モシャ]
そういやキムチがついにBさんとフレになれたって
[hyuy@フレ申投げるな]
よかったじゃん
[まことちゃん]
おめ
[ねじコ+]
めで
[コハク]
今度紹介してよ
[明太マヨネーズ]
どっちもコミュ障感強いのによく意思疎通取れたな
[モシャ]
そこはこの俺が一肌脱いでやったってわけよ
聞くところによるとあの世紀の大悪女Bに「きーちゃん」呼びされるほどの好意を得ているとか
[송사리]
(ʘ言ʘ#)
[송사리]
<( ̄^ ̄)>
[椿ひな]
…どんな感情よ?
[hyuy@フレ申投げるな]
(ʘ言ʘ#)<クタバレモシャ
<( ̄^ ̄)><Bサンノチョウアイハワタシノモノヨ
[ジャガイモ]
なるほどキムチだからきーちゃんね
ってことはBさんはブティックだから、
[バーボン]
ぶ…
[カンタカンタ]
お…?
[송사리]
Σ( ºωº )
[明太マヨネーズ]
ぶーちゃん!!!www
[とりたまご]
ぶーちゃんか!
[モシャ]
世紀の大悪女ぶーちゃん!w
[賢者ビスマルクの息子]
きーちゃん&ぶーちゃん、最強の生産コンビここに爆誕!www
[송사리]
(・□・;)
[カンタカンタ]
わっしょい!
[まことちゃん]
おめ~
[ねじコ+]
めで~
[송사리]
(ʘ言ʘ#)








