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放浪者と彼方の文通  作者: トモナ
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もうどうにもならない道筋と不穏な影

 誰も彼もが挫折している。

 冒険者ギルドの待合スペースの酒場で誰も彼もがため息を吐き出しながら安酒をあおっている。

 輸送関係の組合では使える状態の馬車が接収され大急ぎで物資輸送の準備が推し進められている。

 商人達は少しでも手持ちの商品で利益を出そうと躍起になっている。


 全ては先日の豪雨で王都へ続く山道が土砂崩れによって通行止めになった為だ。


 それも西から南にかけての山道のことごとくがやられてしまったのというのだ。


 放浪者のように馬車に乗れず徒歩で何日も何日も掛けて、やっとの思いで王都への直通開発道路へと辿り着いたと思った所にこの知らせなのだ。

 馬車でここまで来た人達にとっても王都に向けて行くつもりであったのに土砂崩れで通れず、更に迂回を考えた場合の馬車の使用料金や食料などの購入を考えると利用客も懐具合を考えねばならない。

 商人としても販売商品が日持ちするものにならまだしも、そうでないものになるとこれ以上の遠回りしての輸送は売れるとしても莫大な赤字に繋がりかねない。


 大規模災害によって国内物資も被災地への救援物資として徴収されている。


 残っているのは徴収を免れる程度のモノか、それでも買いたいという客向けにかなり割高の金額を提示されていて幾ら予算に余裕があると言えど早々に手が出せるものではない。

 土木工事などに心得のある冒険者はさっさと被災地域での仕事依頼を確保して出払っている状態で、街に残っているのもか、観光客としてきた者達か一帯の治安維持の為の依頼を引き受けて待機している臨時の衛兵隊モドキ位だ。


 放浪者はそういった仕事を受ける気はない、といよりも既に受ける気力は残っていない。


 もうウォッカに対する購入欲よりも何日も歩き通してやっとの思いで辿り着いたところにやってきたこの知らせによって、気付かないようにしていた疲労による購入欲の低下と王都に行きたくないという気持ちの増大を抑えられなくなったのだ。

 それに放浪者としても今のドワーフの国から離れたい気持ちが芽生えだしていた、同じような考えを持っている商人達や冒険者達も多い。


 理由はまことしやかに囁かれるこの崩落騒動の原因だ。



 何者かが王都に対する嫌がらせとして人為的に各地で自然災害や崩落事故を起しているというもの。



 そもそも炭鉱の民族であるドワーフがちょっとした豪雨程度で崩落するようなトンネルや山道を作るとは思えない、ましてや崩落したのがどれも王都へと通ずる道程であり一度に崩落するなどそれこそ有り得ない。

 そうなってくると可能性として残るのは人為的に崩落させたか何らかの魔物が入り込んで悪さをしているのではないかと言った話しか残らず、広がりだした噂は尾ひれなどをドンドン大きくしていきもはや真相が重要ではなくなっていく。

 荒唐無稽なものの中には、他国からの観光客の中に厄介な客が紛れ込んでおりそれに対する炙り出しとしてここまでの騒動を起こしている。


 つまり無関係な存在に迷惑を掛けることでその客を引きずり出そうとしている、というものだ。


 そうなれば待っているのはドワーフの国との戦争だ。


 戦争はその影であろうと放浪者にとっては心の奥底から勘弁して欲しいものなのだ。


 冒険者達の中にも人間との戦いは専門外としてさっさと他国に移動する事を決めた者達も多い。

 傭兵として戦って何処かの国や貴族に家臣として取り立てられるのも一種の成功ではあるが、冒険者の中にはそうした貴族などにトラブルや苦手意識を持っている者も多い、好き好んでそうなりたいなら傭兵として渡り歩けば良いのだから。

 放浪者にとって特に貴族という輩ははっきり言って過去の体験から憎悪の対象であり、今回のこの騒動に貴族の影があるのでは、などと語る現状からさっさと逃げだす事を決めて悔しいがウォッカの事を諦めることにする。



 そうなると行き先を考える事になる。



 予算と物資には余裕はあれど、精神的な余裕はない、何をするにも精神的な余裕がないと人間というものは物事を楽しめないものだ。

 だから放浪者にとっていま重要なのは美味しい料理などではなく徒労にならない旅路であることが確信出来る事と精神を充実させる場所でなければならない。

 しかしエルフの国に行くにはこのきな臭くなり出しているドワーフの国をもう一度きびすを返すように横断する必要があり、情勢としても都市で充分な物資の補給を出来ると限らないという不安が大きい為に今回は除外しなければならない。

 安酒をチビチビとつまみながら考え、同じようにどうするか考えている冒険者に安い酒を振舞いながら軽く話を振ってみると放浪者にとって中々に良い情報が手に入った。



 東の国ではこれから海での漁業が盛んになるので到着する頃合いによっては、新鮮な鮮魚の刺身を食べたり出来る。


 また東の国と同盟関係にある諸島連合国では各都市で様々な季節祭が行われる為にちょっとした仕事時になるので、警備や用心棒などで小銭稼ぎには悪くない。


 特に諸島群には彼等が生活の物資を確保する為に今も攻略されていない無数のダンジョンから、様々な物資となりうる物を持ち帰る仕事などもあるので腕に自信があるならば未攻略ダンジョンに挑むのも悪くはない。



 ちょっとした情報交換会となった冒険者組合でこれからの旅路の予定やこれからお勧めしたい国や祭りについての話で盛り上がる。

 安酒と安い料理ではあるがこうした話の肴があると以外にも盛り上がるものだ、盛り上がりがあれば値段以上の味がするのも人間の精神の不思議だ。

 冒険者組合の受付嬢や食堂の職員から叱られながらではあるが組合の依頼受注掲示板に大きな地図を広げてそこに各々の紹介したい行事や都市について書き込んでいく。



 お前さんそこの出身か、実は私もだよ。


 この街には美味いパン屋があるって本当か?あっそれ僕の兄のお店です。


 ここで魔物が確認されたので依頼受けませんか?じゃあ俺達のチームが行き掛けの駄賃でするぞ。



 大きな地図を前に色んな冒険者達が話に話を咲かせ、仕事での臨時チームを組む話で盛り上がる。


 あるいは目的地に縁のある者同士で一緒に旅をする約束をしたりと思ったより話は白熱し盛り上がる。


 放浪者は一人東の国への道筋を考えながら安酒を飲み干す。


 その眼は地図を見ているが周囲の者達とはうってかわって鋭い、まるで何かを見定めるように。

 その耳は酒盛りへと変わり始めている集まりの中でも聞き耳を立てている、聞き逃さないように。

 喧騒の中に隠れた不穏な騒動の姿を探して放浪者は、周囲に気を配りながら準備を終えた数日後に東の国への旅路につく。


 旅路は楽しくあるべきだが、不穏の影に自ら飛び込まねばならない時もある。

旅のスピードが速いのは勘弁してください

事件がないってことになるとその道中がなくなって速くなるんです

問題ない旅路じゃないといけないのにどうしてこうなるのか

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