雨と雨宿りの止まり木
酷い雨。
土砂降りの雨。
バケツ返しの雨。
ひたすらに雨が降り注ぎ放浪者の足取りを妨害している。
放浪者の実力でも雨という要素は旅路を止めるにたる。
王都を目指して徒歩での移動を余儀なくされ、道中の街などで馬車の座席を確認してもどれも今回の崩落騒動で埋まっており座り込む余裕はなかった。
それならばと近道を選択して森を突っ切る道を選択したのが裏に出た。
危険な魔物はいない森でこそあるが木々の根が隆起し、鬱蒼と生い茂る葉によって光が遮られる森の地面には落ち葉に隠れた苔も多い。
強烈な雨が地面を抉り溜まった水がより低い位置へと流れ出すとそれがある種の溝になって更に足取りに負担をかけてくる。
雨脚が強すぎて視界も効かない。
一寸先は闇ではなく、一寸先も雨粒の壁である。
こうなってしまうといつ魔物の奇襲を受けるか判らない、足音なども強すぎる雨音に掻き消されて拾いようがない。
雨脚に追いつかれないように空模様を見ながら徒歩での移動経路も選択してきたが、それでも天空を流れていく大自然の前では人間などちっぽけである事を痛感させられる。
足を止める決心をした放浪者は雨宿りを出来る場所を探す、狙いは鬱蒼と生い茂る森の木々の中から取り分け幹が太く、枝もしっかりしている木が密集している場所を探していく。
そうして程なく複数の木が程よく密集している木の、並みの魔物では届かない高さに無数の枝が密集してまるで皿のように奇形変異している場所を突き止める。
風の魔法を使ってそっと飛び上がり、枝の床がしっかりとしている事を確認してから降り立って野営の準備に取り掛かる。
これこそは剣と魔法の世界において、この世界の冒険者達が洞窟などが存在しない森などで安全確保の為に作り上げた止まり木。
複数の木を絡ませた状態で魔力を送り込み、木々を成長させて繋ぎ合わせて作り出す人為的に作り出された安全地帯。
元々はエルフ族が地面の状態が良くない森や地面を傷つけたくない立地において生活する為の地盤作りとして開発された魔法建築の一種だ。
熟練のエルフの魔術師になれば木々の道すらも作り出し、太く堅牢でありながら森の息吹を損なわない土台を創り出すとされ、エルフの生活集落は文字通り見上げる高さに存在する。
幸運な事に見つけた止まり木は天井もいじられており横殴りの風でなければ、土台の更には水はあまり溜まっておらず、その水も枝の隙間から流れ出している。
バックパックに載せて固定してある水をはじく布を広げ、天井代わりに設置していく。
アイテムボックスから重し代わりの鉱石を取り出して縄に括り付け、布が風に飛ばされないようにし更に程よい枝に括り付けていく。
上からの雨が完全に防げるようになったらアイテムボックスから床代わりの布を取り出して広げ、最後に横風を防ぐ布の金具を天井の布に付いている部分の金具と組み合わせてしっかりと横殴りの雨が入らないようにする。
その段階でやっとバックパックなどの荷物を下ろし、夜歩く際の灯りとして使っている錫杖に付けておいた大きめのカンテラを取り外す。
バックパックを背もたれに、カンテラを水平になるように布の床において、そして顔にべったりとついた雨粒を拭き取って一息つく。
光を遮っているのでカンテラの頭を取り外して魔力を込めた石の燃料を追加して火の勢いと明るさを強くし、手袋などの装備を外して少し早い夜食に取り掛かる。
バックパックに下げている小鍋やお玉を取り外し、アイテムボックスから小分けしているスープの味の元になる魔物の肉や干し野菜や水などを入れてカンテラの火で煮ていく。
元々調理済みのものを投げ込んで調味料で整えるだけなので手間もなく完成する。
細いスティックパンをスープに浸して柔らかくしながら、お玉でスープを掬って飲む。
さっさと食事を終わらせ調理器具を強すぎる雨で簡単に洗い流し、小鍋に雨水を貯めたらカンテラの火で温めた水の中に茶葉を入れておく。
『今日は弓使いのアタイだよ
いやぁ美味かった、そして上手かった、何よりも巧かった
アタシだって仲間達の武器を点検したり、冒険で色んな街や国に行っては凄腕の技ってのを見てきたけどこれ程の加工技量の持ち主ってのはそういなかったよ
はっきり言って燻製肉の向こう側からでも、味わいの先にある積み重なった技ってのを舌で感じる事が出来ちまったよ
どこの大陸の職人かは知らないけどいつか生きている間に、こうした食い物越しじゃなくて直に御業を拝見したいってもんさ
これだけでも冒険者として各地を旅する楽しみがあるって改めて堪忍させられる、本当に嫌味の言いようのない美味しさだった
返信に皆からお礼の金貨を同封しておくからそっちの旅に役立ててくれるとアタシ達としても嬉しいからジャンジャン使っておくれよ
ウォッカの件は無理しないように、あの酒の取り合いになったらドワーフは間違いなく死力を尽くしてくるだろうし、生きていればまた飲む機会だったやってくる
絶対に死ぬんじゃないよ?他のメンバーは会えなくても良いって言ってるけどアタシはアンタに会ってみたいって思ってるんだ、直に一緒に酒盛りの一つでもしいってもんさ
追伸・魔導士の奴がアンタに送ってる小説の新作が出たから同封しておくらしいから、旅路に役立ててやんな』
バックパックからはずっしりと重い金貨の小袋と新作の小説が二冊同封されていた。
一冊は文字はもちろん別大陸の小説を描いた作者の母国語で、もう一冊は放浪者でも読めるように翻訳されたものだ。
放浪者の小説の楽しみ方は、最初に翻訳版を読み解く。
それから母国語版と一緒に翻訳版を読み進めて字の解読をする。
あらかじめ買ってある紙束に意訳した文章を書き連ねて自分流に解釈した小説を一冊書き上げる。
全ての作業が終わってからもう一度向こうの魔導士が翻訳してくれた文章と読み比べる。
そこには思考の差異がある、場面に対して感じる考えの差異がある。
同じ場面でも登場人物の声の抑揚や顔の差があるというのが楽しいのだ。
カンテラの灯りと雨の音と小鍋で煮立つお茶の音を楽しみながら一ページ一ページを楽しみながら読み解いていく。
裏目に出たと感じた森を突破するという選択肢も、どうやら結果としては悪くない方向に転んでいくというのも旅のちょっとしたスパイスとなっていった。
少し早めに野営に取り掛かった事を喜び、放浪者は程よく味が出たお茶をすすりながら読書を楽しむことにした
気付いたらポイント入ってて物凄く嬉しい
これから感想も一緒に増えていったら嬉しい
いや本当に指が動くって楽しい、会話文削るってのも悪くないな