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放浪者と彼方の文通  作者: トモナ
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旅に予定変更は付き物と文通

「皆さん、とりあえずリストの酒の一部と肴を送ります

 実は予定したリストで私も飲みたかったウォッカなのですが街で購入出来ませんでした

 元々量の少ない酒ではありましたが少しトラブルが起きて王都に直接赴く必要が出てしまいました

 あまりドワーフの国の王都には行きたくないのですが、手に入らなかったら余計に欲しくなるのは人の性分というもの

 どうせならオリジン・ウォッカでも仕入れるつもりで旅路につくのも悪くないと思って、これから徒歩で向かいます

 ……本当は物凄く王都には行きたくないのですが、ウォッカが飲みたいという欲求には勝てそうにないのがなんとも現金というべきか何と言うべきか

 どうか皆さんの旅路に幸運の風があらんことを、それと送った酒の類はともかく燻製肉は絶対に味わってくださいね?」


 事の起こりは少し遡る。

 宿屋の主人夫婦からお勧めの酒屋を聞き出し、まだ日が昇るには早い時間から街の喧騒に飲まれる事もいとわず買い出しに出た。

 リストに書かれている酒を買い、同じ酒でも酒類や僅かな味わいの差を聞きながら一口を楽しみ、酒屋ごとの肴をついでに購入する。

 放浪者自身はアルコール度数の高い酒よりも、アルコール度数の低く果物の味わいが強い酒を好んでいるので梅酒やリモンチェッロのような酒に果物を漬け込んだ種類を中心に買い込んでは、アイテムボックスに入れていく。

 衝撃に強い木製の箱の中に更に緩衝材代わりの厚紙を入れて割れないように念入りに梱包された酒の箱の種類は、コレクションを含めて既に何十種類に達している。


 アイテムボックスという能力自体は珍しくない。


 ただ特殊な空間に投げ入れるという行為は好まれない為に実は不人気な能力だ。


 放浪者自身もかつて今のように食べ物や酒瓶などを丁寧に梱包依頼せずにアレもコレもアイテムボックスに投げ入れた結果が、内部で諸々が壊れる・保存食を酒がふやかしてしまい取り出した時には腐っていたなんて事に。


 特に精神的に答えたのが旅で集めてきた人気小説などの暇つぶしの道具が全てぐちゃぐちゃの修正しようのない状態にまで駄目になっていた一件だ。


 折角手に入れた魔物の貴重な売却可能な部位を手に入れたのに、アイテムボックスに当時入れていた薬が染み込んで売り物にならなくなって金欠寸前の苦労を味わったのも苦い記憶だ。



 現在も文通の為に使っているバックパックがなければ、キチンとしたバックパックに道具をしまっているだろう。



 多少費用がかさむ様な事態だとしても、アイテムボックスに頼らないようにするのも優れた冒険者の素養の一つとする見方もあるほどだ。

 あくまでもアイテムボックスはあると便利ではあるが、便利に運用するように工夫を必要とする特別な能力なのだ。



 そうやって買い物をしている時にどの店でもウォッカが品切れを起こしていたのだ。



 かつて異世界より流れ着いた人間がこちらの世界で故郷をしのんで作り出したとされるウォッカは酒好きなドワーフの心を捉え、その人間は酒造りの才能から当時の王家の娘を娶り貴族としてウォッカの製造法を確立した英雄の故郷の味。

 王国の王都近郊の決められた地域限定かつ王家直属の酒造関係からの厳しい審査を突破した物だけが流通を許されるので流通量は少ないが、それでも観光都市で急な品切れを起こすような事態は国としても避けたいはず。

 何事かと気になって街の広場に足を運んで見ると、そこにはウォッカ流通が止まってしまっている理由が大きな看板に張り出されると共に衛兵隊が街頭演説で口頭で説明していた。



 要約すれば、王都からこの地方へと繋がるトンネルで崩落事故が発生してしまい物流に大きな支障が出てしまったのだ。



 放浪者は情報収集を怠った事を後悔した。

 しかし止まっている時間が惜しく人込みを上手く掻い潜りながら流通関係のとある組合に急いで赴くが、既に空輸などは国が接収しているうえに他の都市を経由して王都に向かう馬車は予約で埋め尽くされていたのだ。

 普段使っている流通経路が何らかの理由で寸断されるとワイバーンやペガサスのような飛行可能な魔物による空輸組合は普段の営業を大きく制限され、代わりに被災地への生活物資輸送や治安維持や修理作業の為の人員として接収される。


 もっと早くこの事を知っていればウォッカの一本でも買えただろう。


 あるいは空輸関係の組合に残っている特急便に依頼して、大空の旅も出来ただろう。


 冒険者組合の現地への何かしらの派遣依頼も既に枠が埋まっており、派遣馬車にも乗ることが出来なかった。


 こうなってしまうともう徒歩しかない。

 予定している経路には王都近郊を通って別の国へと向かうつもりだったが、こう言った理由で経路も目的も変化していくというのも旅路の楽しみというもの。


 生活必需品をアイテムボックスに押し込み、保存食などの食糧も普段より念入りにチェックしてから買い込み、宿屋を引き払う前に地図と睨み合いながら経路を記憶の中の経験と組み合わせ危険を予想しておく。


 王都での苦い記憶をつい思い出しながら文通の手紙を書きだす。


 頭痛で頭を押さえながら短い文章を書く間にも現実逃避するかのように、アイテムボックスからリストの酒を取り出してバックパックに詰め込む。

 そうして気が向いたらまだ短い文通の続きを書きだしては頭を押さえて、また逃げ出すように買い込んだ肴を詰め込んでいく。


 これからの旅路は迫りくる暗雲のように暗かった。


 だが旅路がいつも晴れ渡っている訳ではない。


 だからこそ越えた時に飲むであろうウォッカの味をせめてもの支えに放浪者の旅は王都に向かう。

大して欲しくないはずなのに手に入らなかったら凄く欲しくなるのは人のサガ

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