放浪者が高ランクである事と獣人の国を選んだ理由
豪華武装客船の旅は本当に何もなかった。
穏やかな旅路に美味しい料理と酒を楽しみ、訓練で他の冒険者達と実力を高め合う事の繰り返しを行って、シャワーを浴びて一日を終える。
それを繰り返して辿り着くのは大陸南方にある獣人の国。
一言で獣人の国と言っても様々な部族が連合体を形成している諸島連合のような国で、様々な種族の代表による合議制によって運行されている国家だ。
港から降りて放浪者が真っ先に向かったのは冒険者ギルドの受付だ、幾ら懐に余裕があるからと言って仕事ををせずに収入なしの生活をするというのは流石に危険だから。
だがもう一つは放浪者が高ランクの冒険者である事によるもの。
ギルドで高ランク証明書を提示するとすぐに特別な応接間でギルドマスター自らが出迎えて放浪者に受けて欲しい依頼を何点も提示する。
女剣士もその仕事内容を確認すると内容は全て猛毒を持って危険度が高かったり、あるいは毒の種類によって討伐すること自体が嫌われている魔物達のものでその報酬は一つ済ませるだけで当分は余裕ある暮らしが出来るほどだ。
しかし幾ら高ランクと言えど個人に対してここまで同じような依頼が来ることは珍しいのかと尋ねれば、返ってくるのは放浪者が特別な高ランクとして冒険者界隈で活動している事に由来していると答えられる。
毒持ちの魔物はその性質から討伐仕事が嫌われがちだ。
解毒薬の備蓄の仕入れ代金だって種類によっては馬鹿にならない額になる。
アルラウネとの戦いでそうなったようにコーティングされていない武器では毒液に耐えられない。
そのコーティングだってしっかりとしたものを頼もうとすれば代金もそうだが仕事をさせるための賄賂染みた贈り物だって必要になってくる。
魔法で仕留めるとしても森では延焼の危険から火の系統は使えない、使えたとしても毒液が気化すれば周囲への被害はどれだけのものになるか判らない。
戦う場所によっては毒液の対処なども考えねばならず、守る為の戦いで毒液が森や田畑に染み込んで一帯の被害を抑えられなかったでは話にならないのだ。
そんな冒険者界隈での毒系統討伐で活躍しているのが放浪者。
しっかりとしたコーティング武器を多数保有し、しっかりとアイテムボックスに討伐時に必要な道具を保管し、しっかりと解毒薬の類を貯蓄しており、弱いが多彩な魔法を使い分けられる事による対応力の高さ。
特にエルフの国では対毒系統討伐における精鋭中の精鋭として最高位の冒険者として慕われ、他の国でも純粋な高ランク冒険者とは実力こそ一歩劣る、だが毒系統の魔物討伐を率先して受けてくれる冒険者として高ランクを与えられているのだ。
不人気な依頼を受けて貰う為にこの系統の依頼にはギルドが報酬を上乗せしていても中々片付かない依頼を的確に処理してくれるので、ギルドとしても多少どころではない融通を行ってでも仕事を受けて欲しいという思惑がある。
特に獣人の国はエルフの国と国境を接している事もあり、放浪者の仕事ぶりはやって来るエルフ達から聞き及んでおり実際に何度も毒系統の依頼を解決して貰ったことで様々な部族が恩義を感じている事も融通に拍車をかけている。
放浪者は急用でエルフの国へと行く必要と現在考えている順路を地図を広げて説明する。
ギルドマスターも素早く手元の解決して欲しい依頼と順路を照らし合わせて優先度を説明する。
どういった魔物が現れて、その魔物の影響によってどういった被害が出ているか、どれだけの冒険者が挑んで返り討ちにあったか。
報酬額に対する説明や金額などが不足していると感じる依頼に対するギルドからの補填についての説明に、依頼に対する被害地域の部族からの融通についての予定などを説明して地図に依頼書を置いて順路を決定していく。
無論放浪者が受けたい依頼とギルド側が受けさせたい依頼の差で揉めるが優位なのは受ける側の放浪者である以上はギルド側は無理は言えない。
放浪者側は最初に行ったようにエルフの国へと急ぎたいので行き掛けの駄賃として受けるのだ、ここで怒らせて依頼を拒否されるような事態は避けたいので無理は言えないのだから。
しかし放浪者がここで融通を引き出す為に譲渡するのが、冒険者として培った交渉術である。
一つは、女剣士という新しい仲間に経験を積ませる為に受ける依頼に適合する解毒薬の調達。
これはアルラウネとの戦いで解毒薬の備蓄を消耗したからだが、それはあえて言わず備蓄はあるが腕の良かったり信頼出来る製作者のものを仕入れる事による調合師や薬剤師の地位向上を建前にする。
仮にも高ランク冒険者がその必要性をギルドに求め、ギルドがエルフの国での最高位が自分達のお抱えの解毒薬を大量に仕入れたと宣伝すればそれだけで経済効果は馬鹿にならなくなるという一面があるのだ。
またこうした宣伝と実際に叩き出した売り上げを知れば不人気であったり馬鹿にされがちの素材回収の依頼に対する冒険者達の見方というものは百八十度反転する、なにせ限定的な最高位が必要性を訴える事でのし上がりたい低ランクとしてはその依頼を馬鹿に出来なくなるからだ。
むしろ最高位が必要とするような薬の原料を調達してみせる依頼をこなしてみせる冒険者というものを馬鹿にするような者達はいないのだから。
二つは、エルフの国へと向かう道筋まででの活動をしやすくする為だ。
冒険者というものは酷い話が訳あり人間達がのし上がりや食うに困って選んだドン突きのような一面があり、実際に品のない冒険者による被害というのは何処にでもあり場所によっては簡単な交通が出来ない地域が存在している。
こうした地域での行動を円滑にするのはギルドや依頼を出している側が一筆したためるなり、事前に連絡を飛ばしてすぐに依頼に取り掛かれるようにしたり、依頼が終わって次の目的地に辿り着けるように被害地域同士で連携する必要があるのだ。
放浪者は依頼報酬を一つ一つをある程度減額する代わりに活動をしやすくする事を条件に出す、普通なら解決しない所為で跳ね上がった金額を満額支払う必要のある地域や依頼主の負担を別の形で支払ってくれるならと譲渡してみせる事で良識人を演出する。
三つは単純に依頼抜きでも旅をしやすくする為だ。
旅というものは身分証明や立場というものが重くのしかかって来る。
毒系統の依頼が討伐されやすい傾向にあるドワーフの国ではこれによって放浪者は特別な高ランク扱いとして扱われず、被害地域への仕事として馬車などの移動手段に滑り込むことが出来なかった。
しかし今回のような依頼をこなして冒険者として毒系統の高ランク保持者という肩書がより浸透すれば他国でもより自分にとって稼ぎやすい依頼を回して貰え、またそれを受けるのを選べる側になれば移動との兼ね合いも自由度が増す。
潤沢な資金を使った豪勢な旅路という日常を維持する為に、そもそもの収入源を安定させる必要性を十分に理解しているからこそ培われた交渉術だ。
高ランクは総じて曲者や破綻者や別の意味での問題児が多いという認識もあるが。
放浪者はその名の通りに放浪する為の労力を惜しまない。
依頼の選別を済ませて、解毒薬の準備などで数日の時間をとられるものの、二人はエルフの国への道すがらの依頼をこなしていくことになる。
放浪者はテンプレ的に言うなら
実力自体はAランクの一流級だけど、毒系統の討伐の依頼実績がずば抜けててこれに関してはSランクの最高位という扱い
チート系主人公作品なら毒系統の依頼でお世話になる実力者的なランク帯に位置してるといった感じです




