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放浪者と彼方の文通  作者: トモナ
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雪山の釜戸の文通

 放浪者は台所で作業に取りかかる。

 錫杖を立て掛け、防寒装備の外套を椅子に立て掛け、腰に提げている剣を邪魔にならないように腰の後ろに回す。


 アイテムボックスから取り出したいらない紙に、火の魔法で着火して釜戸にそっと置く。


 乾いた小枝を更に小さく折ったり短剣で切り落としてから釜戸に入れて、火が強くなったのを確認してから大木を入れる。


 火が安定したら、台所に残っている組み立て式の橋を作り、バックパックに提げているフライパンに油を引いて肉を焼く。

 この肉は自分で食べるのではなく、これから作る魔法道具の材料であり、必要なのも肉からである命の油たる肉汁だ。


 ジュワジュワと肉の焼ける音が台所に響く。


 丹念に火を通しながら肉汁を搾り出し、肉汁や油が出尽くしたら肉は狼の群れに投げ渡してやると群れ長の番が嬉しそうに牙を突き立てる。


 鹿の角を腰の剣で切り落とし更にその一部を小さく小さく切り落とし、柄で叩いて砕き粉状にまで潰したモノを肉汁に混ぜる。

 出来るだけ棒状にしたモノを釜戸の火に入れて熱をこもらせると、それにススと灰を表面にまぶして更に焼く。

 角にススと灰が焼き入れ終わるとそれを最初にした部分のように小さく切り落としては砕き、粉状になったモノを更に混ぜる。


 火は不浄を浄める。


 肉汁は命の雫。


 骨の粉は命の終わり。


 角は力の証。


 ススと灰は魔を払い地へ還る。


 煙は魔を抱え天へと還る。


 丹念に火を通しながら祈りと魔力を込める。


 不浄を浄め、死者に終わりを告げ、還れぬ魂を導く魔力を宿した魔法の道具。

 グールやゴーストを討ち祓う力があり、武器にまぶせばそうした魔物に絶大な威力を纏わせる【祓い粉】の完成である。


 放浪者は完成した祓い粉をアイテムボックスから取り出した布に丁寧にくるみ、台所側の井戸から水を引き上げる。

 フライパンを洗い、今度は鍋を使って肉や硬い黒い麦のパンを水や調味料を入れて簡単な煮込み料理を作り出す。

 簡単な味付けの煮込みをさっと腹に流し込み、また水を引き上げ洗う。


 自分達に取り分はもうないと悟った狼の群れは何匹から固まって眠り、見張り役がじっと放浪者を見張っていた。


 夕陽が沈みだし外から冷気が台所の換気窓を通ってくるので放浪者も窓を閉める。

 明かりは釜戸から漏れ出す僅かな火の明かりだけ、部屋にはロウソクなども存在しない。


 そんなほのかで静かな世界で放浪者は燻製肉を作りながら紙と鉛筆を取り出して手紙を書き出す。



「冒険者の皆さんへ、私はドワーフの国に向けて雪山を通り、人のいない砦で狼の群れと夜を過ごしています」



 程好く燻製した肉は見張っている狼に投げ渡す。



「幸いにも冬の季節以外には使われているからか中は中々に綺麗で直ぐに使うことが出来たので、皆さんへ祓い粉を作りましたので同封します」



 見張り役は優しいのか、投げ渡された肉をわざわざ寝ている別の子を起こして分け与えている。

 火種を足して、火に焼いている鹿の角を釜戸から取り出して砕く。



「この鹿の角は毒にも効くそうなので別の袋に同封しておきます、旅に役立てくださると私もとても嬉しいです

  それと鹿の脚を一本丸々一緒に転送するので街で売るなり皆さんで何かに料理して食べてください、オススメは塩胡椒の味付けスープとエルフ印の果実酒の組み合わせです」



  手紙等を丁寧に別の布でくるんでバックパックに入れる。

  これは放浪者が旅路で手にいれた同じバックパック同士で遠くだろうとモノを送りあえる魔法の道具。

  中には転送する、される道具しか入れられず、ふとした時より顔も名前も知らない、知ろうともしない相手とのやり取りに使われている。



「ドワーフの国についたら浴びるように酒を飲むつもりですので、気に入った酒はボトルごと仕入れて送るつもりなので期待してください、どうか皆さんの旅路に幸運の風が有らんことを」



  釜戸に入れられるだけの火種を入れて放浪者は椅子に腰掛けたまま外套にくるまって、やがて静かな寝息をたてる。


  次に目が覚めたのは夜明けを告げる狼の遠吠え。


  あの群れは目覚めるともういなかった。


  ただ昇る朝日と別れを告げる遠吠えと美しい雪景色が放浪者を次の旅路へと歩ませていた。


  目指すのは国境を越えたドワーフ族の国とそこの名産品である美味と知られる酒の数々だ。


  ゴクリと喉を鳴らしながら放浪者は夜明けの雪道を歩き出す。

こんな感じで気が向いたら書いてみる

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