一緒に歩いて欲しい
仕事がキツイのに打ちたい、書きたいという欲求が止まらない、でも腰が死にそう
救援部隊に救助されから二人は大変であった。
かたや毒液を浴びたことで目を覚まず、かたや数日間不眠不休の見張りでゴブリンを警戒し続けて疲労困憊という有様ですぐに事情聴取するという余裕などなかったのだから。
毒の種類を判別したうえで投与された解毒薬のおかげで容体こそ安定したが今だ病院のベットで安静でなければならず、一晩ぐっすりと眠れた放浪者も起き抜けに事件について根掘り葉掘りの事情聴取ですぐにぐったりしてしまう羽目に。
現在行われている調査で掃討作戦はほぼ完了したが、巣穴には人間の骨が転がっていた。
アルラウネの死体はゴブリンに食い漁られたのか破損だらけで詳しい事は調べようのない状態。
人間の死体に関しては身元に繋がる物もなく、良くある密猟者ではないかとして処理を行った。
ダンジョンは一時的に安全が確立されるまで閉鎖となり、アルラウネ出現についてこれからもギルドで調査を続けていくという。
放浪者一人の証言ではあるがアルラウネは何者か達がどうやってか連れていたという点と女剣士がその仲間に狙われている危険についても報告したがこれに関しては、やはり上位クラスの魔物を使役するような何者か達に関する情報は集まっていない。
二人に関しては復帰依頼の報酬に加えてアルラウネ討伐の功績として更に追加を支払う事と大手柄として復帰依頼の終了を宣言され、横になっている女剣士に関してはギルドが責任を持って回復までしっかりと面倒を見るという。
放浪者は悩んだ。
はっきり言えば女剣士の身の上などについては別にどうでも良い。
だがウォッカの件での借りを何者か達に命じた存在には相応の報いを与えたい。
犯人に近づく簡単な方法はやはり女剣士と共に行動して敵を誘き寄せて何人か始末するなり、ほんの少し話し合って白状させれば良いのだ。
一緒にいるという問題にどう向き合えば良いのか、ずっと一人で旅してきた放浪者には判らないのだ。
女剣士に合わせて滞在するなりの答えについては旅を辞めるつもりはない、しかし女剣士を自分の都合に合わせて旅をさせ続けるという事が残酷であるという自覚はある。
ましてや女剣士はおそらく冒険者をするような身分ではないのだろう、放浪者は貴族に対して嫌な思い出があり過ぎるのでどうしても辛く当たってしまうのではないかという心配もあった。
そんな心配を胸に、ここ数日ろくに動けない女剣士の見舞いに通いこの街に足を止めていた。
「……ご迷惑をお掛けしまったようですね」
「本当に、おかげでウォッカを呑み損ねた」
放浪者にとって迷惑なのはアルラウネとの戦いなどではなく、ウォッカを呑み損ねたという一点だけだ。
「何も聞かないのですか?知りたいとは思わないのですか?」
「……心底どうでも良い」
放浪者の吐き捨てるような言葉に対して申し訳ない気持ちがあるのか女剣士は視線を逃がしてしまう。
外の喧騒とは裏腹に病室はとても静かで、窓から入り込む太陽の光は優しいものだ。
ただ今の二人の間に流れるなんと言えない重苦しい空気にとって静かな病室の現状はなんとも居心地の悪い空間であろう。
「貴方はただ巻き込まれただけです、報酬を受け取ったのならば私達の繋がりはもうありません」
「じゃあそちらはどうするんだ?」
「……私はこれからも冒険者として各地を転々として、お嬢様についての情報を守り続ける責務がありますから」
その言葉で、放浪者は震える手で一枚の紙切れを女剣士に差し出す。
【冒険者パーティー結成に関する申請書】
それが何を意味するのか、放浪者も判っている。
受け取ってしまう事がどうなってしまうのか、女剣士も判っている。
「命を狙われるんですよ!あんな奇跡は何度も起きたりしません!」
「少なくともウォッカを呑み損ねた借りを返してない、酒の借りはキッチリ返す主義だ」
放浪者の言葉は強気だが、その手は震え、視線は女剣士から逃がしてしまっている。
精一杯の強がりというのは誰が見ても明らかだ、だとしても差し出された申請書には既に放浪者などについての項目は記載されており、後は女剣士が残った項目に書き込むだけだ。
女剣士が震える手でそっと申請書を手に取ると放浪者がそっと鉛筆を手渡す、さっきまで震えていたその手は震えてはおらずジッと女剣士の瞳を覗き込んでいた。
「……一緒に旅をして欲しい、自分でも不思議なくらい見捨てておけないと思うんだ」
言葉にならない思いが女剣士の胸から込み上げて、それは涙となって流れ出すがその声に嗚咽は混じってはいない。
「あのパーティーの人達は私について何も知らなかったんです、ただ私の剣術を褒めてくれて居場所を作ってくれた大切な仲間でした」
「そうか」
「色んな国を巡って、色んな魔物を討伐して、色んなダンジョンに挑んで、成功も失敗も経験してランクを上げました」
「……そうか」
「でもそんな人達は私の過去が原因であんな死に方をしてしまったんです、それにあの仕事を一緒に受けた他のパーティーも巻き込んで私だけがのうのうと生きています」
「…………そうか」
「それでも私は生きていたいんです、まだ死にたくない、お嬢様が幸せになった事とあの御方が国を無事に安定させるのを見届けるまで生きていたいんです」
「………………そうか」
「お願いです……私を生かしてください、私が死んでも良いと言っていただけるまで」
女剣士は震える手で結成に関する項目に記入を済ませる。
申請書を受け取った放浪者はそっと一振りの剣を代わりに手に差し出す。
「どうせなら一緒に旅をして欲しい」
それは愛剣程ではないが紛れもなく業物と呼べる放浪者のもう一つのお気に入りの剣だ。
今までの旅路を支えてきた大切な宝物の一つと呼べる代物を放浪者は女剣士に託す。
放浪者も人には言えない理由でずっと旅をしなければならない身の上だ。
傷の舐め合いだとしても、不思議と見捨てられない気持ちから差し出したこの思いを形にする為に剣を差し出したのだ。
放浪者と女剣士の二人の新米パーティーは後日船に乗って諸島連合から旅立つ。
目的地は幾つかの港を経由して辿り着く大陸南方の獣人の国。
そしてそこから陸路を使って放浪者の知人がいるエルフの国。
この問題に対処できるであろうエルフの知人を頼りに旅は続く。
『魔導士です
見捨てておけないとなれば理由なんて決まってますよ
それは恋とか愛とか、そういうものと相場が決まってますよ
旅人さんとの文通もそれなりの長さとは自覚していますがそれでもこうして他人の話題が出てきたのは最初ではないでしょうか?
旅の中でそういった変化があるというのは僕としては善いものと考えます、だっていつまでも一人だと寂しいじゃないですか?
いつか僕達のパーティーのように大所帯になるというのも良いと思います、こう見えて僕達のパーティーも長い付き合いで少しずつ増えたくちですから
もしかしたら旅人さんのパーティーも大所帯になるかも知れませんよ?
追伸、もし良かったら新しい仲間の方ともお話したいのでお手紙を送ってくださるように言ってください』
やっとプロット女剣士編が終わった
いやしかし書けちゃうものだね
ポイントとか伸びないけどモチベーション持つもんだなと
この調子でドンドン書けていけたら良いなぁ
では恒例にしていくつもりの文でも一つ
ポイント・感想下さい!モチベーションに繋がります!