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放浪者と彼方の文通  作者: トモナ
18/31

殺す理由など些細な事で充分

この世界のゴブリンは人間程度あっさりと殺します

 二人はなんとかアルラウネは討伐出来た、心臓に解体包丁を叩き込み大量の体液が噴出した事によって女剣士が毒液の体液を浴びてしまった。

 毒の種類などが判らない以上は持っている解毒薬を飲ませて、とりあえず状態は良くなったがそれでも油断出来ない。

 いまこのダンジョンにはゴブリンが残っている可能性があるのだ、もし弱っている女剣士が狙われればゴブリンは数を利用した包囲攻撃を行って放浪者から女剣士を奪い取って自分達の晩飯にしてしまうだろう。

 夜の闇は恐ろしい、僅かな音ですらそこに敵がいるのではないかと思わせて精神を削り取っていく、見えないという事がたまらなく恐ろしくなるのだ。

 焚き火を絶やさず燃やし、即席のテントの中に女剣士を寝かせてその入り口に陣取るように座り込み、ダンジョンの小部屋の入り口を警戒し続けている。

 ダンジョンの歪な空間のによるものか小部屋には存在している扉のようなものからの方向しか侵入デキナイになっているので、入り口が一つだけ部屋ならば侵入方向を限定させられるのだ。


 この小部屋に逃げ込む際には下層に張り巡らされていた根の壁がなくなっているのは確認済みだ。


 時間が経てば逃げ延びた熟練パーティーが救援を呼んで駆けつけてくれる事を信じるしかない。

 だが相手はアルラウネであればたった二人の為に救援を寄越さない事も考えられれば、準備をしているとしてもおそらく早くとも二日は掛かると予想してうえでこれからの行動を放浪者は選ばねばならない。

 キチンと適合する解毒薬でない以上はいつ容体が悪化してもおかしくはない、数日間ろくに眠らず不眠不休の警戒をし続けるというのは想像する以上に精神をすり減らすものなのだ。

 疲労が溜まった所に空腹を紛らわす為に食事をすればそのまま眠ってしまう危険もあるので食事も最低限に済ませばならないという問題もある。


 空腹と疲労と戦わねばならない。


 だがそれでも戦う事を選んだのは放浪者自身なのだ。


 もしこんな状況が嫌なら女剣士の言う事を聞いて自分だけ逃げれば良かったのだから。

 アルラウネとの直接対決に比べれば一人旅をしていた放浪者にすれば数日間不眠不休の行動など、そう苦労にはならないと自分に言い聞かせて焚き火に薪を加えて周囲に気を配る。

 そうやって寝ずの番をし続けて二日目の夜は月が雲に隠れた薄暗い日となり、焚き火の火も普段以上に薪を加えて大きな火を起こし飲むものも最低限のスープを飲むだけに済ませ今だ目を覚まさない女剣士の心臓に手を当てる。

 今だ脈打つ心臓に安堵しながら吹く風が作り出す音に怯えながら気を張り詰め、夜明けになれば、明日になれば救援が来る事を信じて大きく深呼吸をして身構える。



 そんな夜に彼等は現れた。



 小部屋と通路を繋ぐ扉から放浪者達を除く瞳と安否を確認する声に放浪者は救援が来たと思い一度は安堵して答える。

 しかしその扉の向こうからやって来たのはクロスボウに装填された矢が風に煽られて強く光った焚き火に照らされた事で見えた矢じりの鈍い光だ。

 張りつめていた気が飛来する矢を弾き飛ばす、続けて二発放たれる矢は鈍い色ではなく何かを滴らせているのが見えた放浪者は風の魔法で無理矢理軌道を逸らしてかわす。

 矢が防がれると今度は投擲武器として加工されたナイフの数々でそれらの狙いは自分ではなく後ろにいる女剣士を狙っているものを土の壁で防ぐ。


 放浪者が飛び出したのは反射的であった。


 愛剣を携えて最大限の風の魔法で突風を起こし一気に前へと飛び出し、矢を放った何者か達は油断したのか風に押し飛ばされて扉から通路へと押し出されてしまう。

 扉を背にすると躊躇いなく扉を閉じて入り込めないようにし、腰に付けてあるカンテラの僅かな灯りと闇夜を覗く自分の眼だけを頼りに闇夜に紛れる黒い外套を纏う何者か達を睨みつける。


 闇夜から声が聞こえる。


 自分達の目的は女剣士の身柄で放浪者は見逃しても良いという。


 その為にアルラウネをけしかけた、女剣士と関わり続ければ更に強力な魔物をけしかける事が出来る。


 アルラウネを倒せたのは自分達が女剣士を確保する為に殺害に関して制限を掛けていたおかげで、そうでなければ以前行動していた冒険者達と同じように殺すことが出来た。

 放浪者が偶然あのタイミングで通りかからねば始末出来ていたのに、放浪者がいなければ手下のアルラウネを失う事もなかったのに、自分達がこうしてわざわざ手を下す労力も必要かったのに。

 放浪者の頬を掠めるようにクロスボウの矢が扉に突き刺さる、焚き火の光がない事もあるが何者か達も矢じりが見えづらい色合いのものを装填しているのか放浪者の眼には見えていない。


 闇夜から延々と放浪者に対して文句の言葉が放たれる。


 愛剣を構えて放浪者は延々と続く文句を黙って聞いている、時間が経つほどに眼が闇夜に慣れていき何処に何人いるかが少し気付けるようになっていた。

 そして闇夜の向こう側にいる魔物達がいる事に気付くが何者か達は文句を言う事に夢中なのか、あるいは無視しても問題ないと思っているのか魔物達に対して何かするような姿勢をとらない。


 あの女剣士はさる貴族を国外逃亡へ逃亡させた大罪人だ。


 その貴族には必ず逃げ出した報いを受けさせる大義が我々にはある。


 貴様のような卑しい冒険者風情には我々の大義を遮る事は許されない。



 放浪者からすれば心底どうでも良い理由だ、貴族が絡むというだけで殺意が湧いてくる。



 ドワーフの国に逃げ延びたという足取りを追って土砂崩れなどを起こしたのに、さる貴族は眼を背けて逃げ出した。



 その一言で放浪者は殺す事を決意した。

 そんなくだらない理由で自分はウォッカを呑み損ねたのだから。

 何者か達にとっては大義ある行動なのだとしても、放浪者にすれば大迷惑でしかない。

 むしろ飲兵衛達にとって酒の恨みを晴らすという大義には充分過ぎる理由を背負った。


 放浪者は自分の足元に臭い爆竹を一発叩きつけると、その煙と臭いに驚いた何者か達は距離を置く。


 放浪者の行動を抵抗と見なして攻撃する姿勢に入った何者か達は頭蓋を砕く何かの痛みと共に地面に叩きつけられた。


 それは腹を空かせ、人間に同胞を殺されたゴブリン達の棍棒による一撃だ。


 放浪者は鼻がへ曲がるような臭いを纏っているうえ自分達に気付いていて隙が無いので、ゴブリン達は自分達に気付いていない何者か達を獲物としてチャンスを伺っていたのだ。

 何者か達も放浪者に自分達の行動理由や大義など語る暇があるならさっさと殺せば良かったのだ。

 しかし自分達の行いを大義としている、あるいは本当は大義などない行動に大義を持たせたいが為に下らない言葉を選ぶことに熱中しすぎた。


 頭蓋が一撃で砕けた者は幸せだろう、そうでなかった者はゴブリン達の鋭い牙に生きたまま急所を噛み千切られる痛みを感じながら死ぬのだから。


 仕留めた者の特権として内臓が食い漁られ、残った部位をブチブチと無理矢理引きちぎってゴブリン達は持ち帰られるだけの肉を持ち帰っていく。


 放浪者はただその様子を見届けると吐き捨てるように小さなため息を吐き出して小部屋に戻った。





 熟練冒険者でも、ゴブリンに殺される。




 珍しくもない光景が目の前で起こっただけなのだから感慨の一つも湧かない。

 焚き火に薪を投げて入れてスープを一口飲み見張りを続ける。

 救援部隊が駆けつけたのはそのから更に二日後の真昼間の事だった。


感想やポイントが欲しいと思うのは上に行きたいからなのか

それとも下に居たくないからなのか

話数が増える度に肥大化する欲望に対する答えが見つからないのがもどかしい

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