相談する文通と恐ろしい臭い
ゴブリン討伐の第二段階へと移行は、あえて数日ほど時間をおいて繁殖状態を見る事でメスがまだ残っているかを確認するというものだ。
徹底的に殲滅するような攻撃を行った所で物資の問題や金銭の換金などの作業を解決する為に一時的に撤退してゴブリン達を油断させる。
もしメスが同じダンジョンで繁殖する道を選ぶなら次は隅々まで調べて殺せば良い、決死の脱出を狙っているなら表層などの人間側に有利な地形で迎え撃って殺せば良い。
今も表層で準備している冒険者達がいれば放浪者と女剣士のように物資の補給のタイミングが被って表層の特設セーフハウスの一角でゆっくりと休んでいる者達もいる状態だ。
そんな休憩をしている放浪者は悩んでいた。
「私はゴブリン達を討伐する依頼の一員として参加しています、やはり自分より優れた冒険者達の戦い方というのは勉強になります
予期せずして参加する事になってしまった依頼ですがこうして何かしらの学ぶものがまだまだあると言う事実を知れたのは幸運な事なのでしょう
それで皆さんに尋ねたい事があります……パーティーというものは二人でもやっていけるものなのでしょうか?
私はずっとソロで活動してきました、それにはちょっとした事情があるのですがそれを考えると彼女を巻き込むのは忍びありません
自分でも正直戸惑っています、冒険者として、理由のある旅路を続けてきましたが他人と一緒に居たいと考えたのはこれが初めてで、でも出会って短い相手にどうしてこんな事を考えるのか自分では全く判らないんです」
文通の文章がそこで止まる。
放浪者が放浪者をしているのにはある理由がある。
それはその理由に出来る事なら他人も巻き込む様な事はしたくないから、今まで長く一人旅をしてきたが他人をこうして思うなど全くなかったのだ。
今までの旅路で出会ってパーティーを組もうと誘われても全て断ってきた、どれだけ親しくなっても一緒に居ようと考えるようなことはなかった。
仲良くなった相手が何かしらの理由で死んだりしても全然悲しくはない、旅をしているのだがらまた立ち寄ったときには死んでいる事なんてのもザラな生活をしているうちに何処かが壊れてしまっていたのだ。
そんな心が仲間を欲するなんて滑稽としか言いようのない。
でもそんな自分がいるからこうして文章を指が書き記している事に、遠くの友人に相談している放浪者は思わず微笑みをこぼしてしまう。
そんな放浪者の姿が気になったのか女剣士が言葉をかける。
文通しているという事実に対して女剣士は笑わず、何処か安心したように女性らしい柔らかい微笑みをしてしまう。
ただし女剣士はここで間違える。
放浪者が文通の為に書いている手紙は向こうの言葉で書いているにも関わらず、女剣士はその文章が何処の大陸の文字かをアッサリと気付いて答えてしまった。
放浪者はこの言葉がどの大陸の言葉か解読するのに時間が掛かったにも関わらず女剣士はまるで知っているのが当然であるように言ってみせたのだ。
立ち振る舞いや剣術だけでない、こうした教養というものは簡単に身に付く事はない、それこそしっかりとした教育を受けねばならないのがこの世界の教育の現状だというのに。
放浪者は貴族という者が嫌いだ。
女剣士が本当に貴族ならばこんな所で冒険者として生活をしているという事はないだろうが、貴族かも知れないというだけで放浪者の視線は底冷えするような鋭いものに変貌していた。
敵意すら宿っていただろう、言葉なく僅かに指先に怒りの力がこもる音だけでどれだけの怒りがフツフツと湧き上がっているのか女剣士は判ってしまう。
書き上げていた文章を乱暴にバックパックに投げ込んだ放浪者は装備を手にして待機している冒険者ギルドの役員に中層探索に加わる事を告げると一人先に階層を降り出し、女剣士は慌てて自分の装備を再確認して後をついていく。
中層では何組もの冒険者パーティーがしらみ潰しにゴブリン討伐を行い出していた。
木陰に潜むのを切り殺し、枝葉の影に隠れているのを射落とし、小さな洞穴のようなものに隠れているのを焼き殺す。
逃げ出すものの足を風の魔法で切り裂き、向かってくるものをメイスで頭蓋ごと粉砕し、小さなゴブリンを抱いているメスを刺し殺す。
そんな殺戮が行われている中を巡回しながら状況の確認や交代の必要があるかなどを確認しながら数匹のゴブリンを八つ当たり同然に容赦なく切り殺す。
ただの一言もなく、鈴飾りの音がする度にゴブリンが違う殺した方で惨たらしく殺されていく、死体も回収せずにただ単にぶつけたい何かをぶつける為だけに徘徊する姿はまさに放浪者だ。
女剣士には何もわからない。
だから何を言えば良いのか判らない。
そうして何も言わず徘徊を続けている時にメスを一匹仕留めるが、そのメスを狙っていたとして別のパーティーから言いがかりをつけられてしまう。
放浪者はどうでも良いので得られるであろう報酬の五分の一ほどの値段で手を打つとして話を出すと相手もぼろ儲けするので納得して金銭を渡そうとした時にそれはダンジョンに姿を現す。
むせかえるような甘ったるい臭い。
あの時の臭い。
振動と共に現れたのは女性の肉体と巨大な花の下半身を持つ上位クラスの魔物として恐れられるアルラウネが嘲笑う笑い声と共に地面を食い破って現れる。
アラウネとも呼ばれる植物系統の魔物の中でも上位の存在として熟練パーティーですらまともに戦うなら事前準備をしっかりとして、それでも殺される覚悟で戦いを挑まねばならないほどの敵だ。
そもそもこんなダンジョンに現れていいような魔物ではない、もしこんな魔物が現れるならこのダンジョンは初心者冒険者のダンジョンとして利用されるような状況には決してなり得ない。
アルラウネの姿に全員が固まる。
その隙を逃さないとばかりにアルラウネの根が地面を抉り貫き、それは大穴と化して放浪者達を下層へと叩き落す。
地面に激突する前に放浪者が錫杖をこれでもかとけたたましく鳴らし、風の魔法を地面に激突させた暴風をクッション代わりにして勢いを殺して着地するが追撃とばかりにアルラウネの巨体が上から落ちてくる。
踏みつぶされないように落下地点から全力で離れ勝てるような相手ではないので全員が全力で表層を目指して走り出そうとして、アルラウネの着地と同時にまき散らされる花粉を吸いこんでしまう。
アルラウネが植物系統上位として恐れられるのは様々な効果を持つ花粉をばら撒いて相手を一方的になぶる様に攻撃を加えて最後には、無数の触手で刺し貫いて体液を吸い干してしまう危険性を知性と共に併せ持っているからだ。
完全に動けなく前にあの臭い爆竹を地面に叩きつけて臭いの防壁を作る。
鼻がへ曲がるような臭いが花粉の臭いを殺し、鼻に付着した花粉の臭いを感じ取る機能を酷すぎる臭いを利用して一時的に麻痺させて効果を防ぐ。
もう一発をアルラウネ目掛けて投げる、防がれるのは判っているがアルラウネが臭いを嫌がって僅かでも時間が稼げるなら逃げるチャンスが増える。
熟練パーティーは走り出し、放浪者も続こうとして気付く。
女剣士が遅れ、アルラウネの触手が彼女を狙っている。
自分だけが遅れているという現実に女剣士の整った顔が涙で歪んでいく、なのに助けても叫ばない。
気付けば放浪者は出口とは逆に、女剣士を助けるように走り出していた。
錫杖を鳴らして地面を隆起させた壁で何本かを防ぎ、隙間を抜けてきた数本を錫杖でいなして防ぐ。
防ぎ損ねた一本が放浪者の頬肉を僅かに抉り飛ばす。
次の一本が左足の太ももを掠めるがそれでも行動は止まらない。
三本目の臭い爆竹を辛うじて投げれたものが二発目が作っていた煙幕越しにアルラウネの顔面に当たり臭いによってアルラウネがもだえ苦しむ。
その隙をついて血を流す足に鞭を打って二人は全力で逃げ出す、だが悶えるアルラウネの眼は女剣士の背中を睨みつけていた。
仕事の所為で腰が、手首が滅茶苦茶痛い
湿布貼りながらの入力作業が痛い
でも指が動くのが楽しいのが困る