殺意を掲げて、決意を抱いて、全力で殺す
ゴブリンは殺せ
容赦なく殺せ
メスは特に殺せ
それは集会である。
多くの冒険者達がセーフハウス前の広場に集まっている。
これからゴブリンとの戦いに赴く戦士達の顔は戦意に満ちている。
下手な魔物よりも冒険者を死に追いやるゴブリンとの戦いは一瞬の油断が命取りになる。
それでもゴブリンとの戦いは人々を守る為に必要な事であり、弱き人々と国の土地を守る決戦である。
「ゴブリンとの戦いははっきり言って楽じゃない、それでも俺達冒険者はやらなくちゃならない」
表層セーフハウスに派遣された演説役の顔は暗い。
「ゴブリンを放っておけばこのダンジョンの資源も魔物も食い散らかされてしまうだろう」
実際にゴブリン討伐を軽んじたダンジョン枯渇が原因で滅んだ街だってある。
幾つもの街がゴブリンに食い散らかされ、成長したクイーンゴブリンが国を作り上げた歴史すらある。
魔物を天敵種として呼び恐れる宗教はそうした歴史がある事によって生まれたものだ。
「だから戦おう!戦わねばならない!報酬はしっかり用意する、だから命懸けで戦ってくれ!」
握りこぶしと共に放たれる言葉は力強い。
各々の獲物を握りしめる力が強くなる、これから赴く戦いがどれだけ過酷だとしても成し遂げねばならないからだ。
ここでゴブリンに敗北するような事態になれば、徹底的に殲滅出来なければこのダンジョンでの金稼ぎが出来ずに明日には飢えねばならない危険がある。
自分だけでなく、すぐ隣にいる別の冒険者の生活を守る為にこの戦いに勝利する以外に道は残っていないのだ。
「下層には優れた冒険者達が既に赴いて死闘を繰り広げているだろう、私達中層の仕事は逃げてきたゴブリンの殲滅や負傷したパーティーの救援や交代で戦線を維持する事が主になる
昼夜を問わずに徹底的に殲滅する!一匹たりとも逃がすな!特にメスを見つけたなら絶対に殺せ、それが一匹でも外に出れば大災害になる!
この中には気に入らない奴もいる、嫌いな同業者もいるだろうが、それでも今は団結して徹底的に殲滅しろ!」
冒険者達から返答として喝采が上がる。
ここでアレコレとするような冒険者はいない、全員がゴブリン殲滅に闘志を燃やしている証拠だ。
喝采と雄たけびを代表が一度沈め、少し深呼吸し改めて演説を続ける。
「男共!ゴブリンが出たぞ!?」
「殺せ!殺せ!殺せ!」
「女共!ゴブリンが出たぞ!?」
「潰せ!潰せ!潰せ!」
強い殺意の雄たけびが上がる。
「ゴブリンが出たぞ、用があるのは何処だ!」
「ハラワタ!内臓!」
「ゴブリンが出たぞ、用がないのは何処だ!」
「首から上だ!」
ゴブリンの内臓はこの世界ではある薬として利用されている。
討伐すればそれだけ冒険者ギルドや街の薬局ギルドから支払われる。
「気になるあの娼婦と長い一夜を過ごしたいか!」
「応!」
「大切な男との間に子供が欲しいか、混血だろうと授かりたいか!」
「応!」
ゴブリンの内臓それは精力剤になる。
授かりにくい混血であろうとも精力剤の力があれば授かる可能性が上がる。
ゴブリン討伐が大々的に行う口実として古来より続く内容だ。
「なら戦え!殺せ!俺達の最高の夜を手に入れる為にゴブリンは一匹残らずぶち殺せ!」
雄たけびがダンジョンにコダマする。
女剣士はゴブリン討伐がここまで人気な理由を知らなかったらしく顔を真っ赤にしながらそっと放浪者の横顔を覗く。
その眼に覇気はなかった。
放浪者がゴブリン討伐をしたくないのは、この理由と熱意にいささかついていけないから。
周囲が恐ろしいほど気炎を上げる中で放浪者は少しも気炎を上げず気まずそうに女剣士を横目に見る。
なんともぎこちなく二人のゴブリン討伐が始まる。
手柄を挙げんと我先にと表層のセーフハウスから中層に飛び込む他パーティーとは裏腹に二人はゆっくりと道を降りていく。
その距離は微妙に離れておりお互いに心配そうに相手を見るが顔を合わせるとつい顔を背けて恥ずかしがっていた。
ただでさえ話し合っていない二人の間には、ゴブリンという強敵が立ちふさがる。
だとしてもこの戦いは成し遂げねばならない、依頼を受けた以上はそれに対して結果を残してみせるのが高ランクの役目のだから。
戦いに赴く雄たけびが響くダンジョンの中で、凛と錫杖の鈴飾りの音だけが二人の間を取り持っていた。
初めて入ったキャラのセリフがこれって我がことながら良いんだろうか?
でねも書きたい内容なので書いてて満足してる自分がいる