食事ついでの支度とダンジョン依頼
諸島連合は名前の通り大小様々な島々が政府機能を持たせた島を中心に観光や農耕などの産業目的の島などを点在させている事で存続している。
この諸島連合は無数の島々が作り出す独特の潮流と軍事目的の島に設置された監視砦などによって容易に攻められるような立地をしておらず、何処かの政府施設を叩いても別の施設が生きていれば抵抗が続くので攻めること自体が利益になり辛い。
そんな戦争と遠い諸島連合の特産品は多彩な魚介類とこの諸島連合結成の祖とされる異界人によって作られた料理の数々とトイレットペーパーと呼ばれるしりふき紙にダンジョンという異質な空間から回収される宝物である。
諸島連合で作られる醤油やポン酢と呼ばれる調味料で食べる魚介類に舌鼓を打つ。
この料理の材料を仕入れる漁師は複雑な潮流を読み海中の魚介類や可食部を持つ魔物を仕留める事で生計を立て、一晩で一年分の生活費用を稼ぐ者もいるほどだ
白米や麦飯に魚介類の切り身を乗せて調味料をかけて食べる丼ものも、料理屋や島々によって特色が幅広く生涯を費やしても全てを網羅する事は出来ないとまで豪語される。
また他国からの多彩な食材を使ったものや他国の料理を再現した料理を専門としている店もあり、わざわざ本家との違いを楽しむためだけに来訪する料理人もいるという食の充実ぶりだ。
放浪者と女剣士は仕事前の食事として様々な料理を楽しむ。
ウォッカの一件などで沈み気味だった気持ちも腹に美味い食べ物を入れて一息つく事で大分回復し、女剣士も放浪者のおごりで食べているが食欲が落ちている様子もなく幾分か顔色も良くなっていた。
気分が上向きになった所で放浪者はこれからの旅に必要なモノとして、とにかく臭いのキツイ野菜や干物などを買い込んで庭付きの大きな宿屋に事前に申請しておいた一角を使って道具作りに取り掛かる。
使うのは、クサヤと呼ばれる臭いのキツイ干物・ニラや納豆と呼ばれる野菜など・意図的にカビを繁殖させて独特の味を楽しむチーズの一種などを練り合わせて臭いを閉じ込めたもの。
この鼻がへし折れるばかりの臭いを放つ練り物を爆竹の一種に詰め込んでいく。
この爆竹はスティックのようになっているもので、内部に爆発するように加工された魔石を仕込まれていて魔力の通し具合で起爆時間などを操作できるようにしてあるもの。
元々は爆竹の爆発や鼓膜を貫く爆音で魔物や人間を足止めしたり大きな隙を作り出す小細工の一種だが、今回はこれにとにかく臭いを詰め込むことであの異様な臭いを打ち消す事を意図して改造を施したものだ。
臭いというものは魔物を怯ませるだけでなく、臭いに敏感な魔物はこの臭いを嗅いだだけでこれを攻撃と勘違いして追い払う事も可能で、オークのような敏感な魔物などは群れであろうと一目散に逃げだすほどである。
知性がある事や嗅覚によって日々を生き抜いているからこそ、未知の臭いというものを毒性が含まれているのではないかと不信感や恐怖心をついてやれば逃げ出すという寸法というものを思いつくのも人間らしさだ。
女剣士も臭いに顔をしかめながら練り物作りを手伝い、お互いに流石に酷い臭いが身体からするので冒険者ギルドで仕事を受ける前に一度臭いを落としに風呂に入ってから仕事の受注に向かう。
『女性問題という事で今日は僧侶である私が代わりに返信いたしましょう
はっきり言ってしまえばお手洗いや性別の違いで余りジロジロと見ないようにする鋼鉄の理性と生理に対する理解を持ってください
特に旅人様はどうやら異性との交流が少ないことが文面からも、とっても読めてしまいますので本当に心配です
あとは女性扱いされることを良しとするか、それとも女性であろうと冒険者として生きていく事を選んだのだからあえてそう扱わないかをしっかりとしてください
戦い方に関しては剣士と共に戦うなら間合いの管理は徹底するのは当然ですが、女性なら相手の一撃を受け止めるというのは種族問わず魔物相手では厳しいものがある筈です
無論体格や筋力に優れているならその限りではありませんが、それでも無茶をさせないように殿方である旅人様が落ち着いて立ち回る必要があるでしょう
うちの男共は私がエルフで自己強化が得意だからと容赦なく立て代わりにするような事はしないでくださいね?
ちょっと間合いが詰められても自己強化と自慢のメイスを振り回して粉砕しているだけというのに、ゴリラエルフだの見掛け騙しの僧侶だと本当に好き勝手言うので困ってしまいます
良いですか?絶対に殿方としてそういった女性の問題というものを軽んじないでください、私達からの助言はこれくらいです
追伸・魔物を寄せる臭いとなると花型の魔物の危険があります、花粉攻撃に注意してください』
受注待ちの間に届いた手紙を読んで、トイレットペーパーや臭い消しを多めに買った自分を放浪者は内心捨てたものではないと褒める。
少なくとも初動の点では間違いなく間違っていないのだから自分の直観も捨てたものではないのだと、少しだけ自身もついた。
これから目的地のダンジョンに向かうまでの間に指摘された事をしなければならないが、女剣士ははっきり言ってしまえば下手な男性よりも整った顔立ちをしており、女性服よりも男性服の方が良く似合っているように思える。
スラリとした手足に鋭い目つきに傷のない顔立ちにピンと張った背筋が小柄さを忘れさせる、一番の原因は引き締まった身体ではなく張った背筋に対する平坦な胸なのだが流石にそれを指摘するような無神経さは放浪者にはない。
高ランクの放浪者と中堅上りの女剣士が受注させられる事になったのは、ダンジョン内の上層の見回りと表層と中層を繋ぐ位置とされるセーフハウスの確認という簡単なモノ。
特定の薬草の回収や魔物の討伐ではないのも、まずはダンジョンなどで難しい目標を設定せずに移動するだけを依頼目標とし、戦いはあくまでも無理にする必要はないというギルド側の配慮だ。
入り込むダンジョンも確認されている魔物は弱いものばかりで初心者向けとされているが、それでも縄張り争いに負けた中層下層の魔物が上がってきた所為で荒れる事もあるので定期的に腕利きが見回っておくようになっている。
諸島連合では異空間になっているダンジョン内の物資を利用して国土の小ささにも関わらず薬草や魔物素材による交易でも反映している一面があるので、その恩恵に預かっている東の国は優秀な冒険者が生まれやすく辞めないような制度がしっかりしている。
また初心者の冒険者を救うという行為で自信を取り戻させる意味合いも強い。
高ランク冒険者が見回りふとした事で指導をすると言った事例も多く、初心者冒険者としてもイロハというものを学べる機会でもある。
仕事は簡単だが、重要なのは再起出来るような切欠を与えるという事だ。
死亡率の高さに反して冒険者という仕事を選ぶ者は多い。
それは一獲千金や名声を得られる可能性が高いというのもあるが、世界で起こっている様々な事件によってこうした仕事でないと生きていないと感じてこの道を選ぶしかない者たちが多い。
だからこそ冒険者ギルドはそうした者達を救う様々な方法を作っている、それが使われるか救いとなるかは別としても。
放浪者はそんな救いと祈りと命を背負わされるのだ。
その心は実力と装備によって得た冒険者としての高ランクに反してとても臆病になっていた。
コロナが洒落にならないですね
作者の友人もついに感染防止で自宅待機を指示されてしまいました
皆様もお体ご自愛下さい