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放浪者と彼方の文通  作者: トモナ
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暫定パーティーと命を背負うという苦悩の文通

 近場の街へと向かう旅路で魔物に襲われる事があったが、垣間見る女剣士の実力は一言で言えば洗礼された剣技の持ち主である。

 放浪者から見ても自分の筋肉を理解して決して正面からの切り結ぶことはせず、機動力を武器に手傷を与えて僅かに生まれる隙を落ち着いて見つめたうえで仕留めていく堅実に堅実を重ねていく戦い方だ。

 巨大な芋虫のような魔物を武器の性能を容赦なく押し付けて切り裂き、傷口に錫杖を突き刺して内臓を炎で焼き払い、仲間の死も恐れず噛み殺そうとしてくる別の魔物の身体を背後から切り裂いて駆け抜けるように援護する。


 視野が広い、行動が速い、決断に迷いがない。


 緑色の体液を浴びるようなことになろうと放浪者が戦いやすいように動く事を心がけている。

 魔法の詠唱に頼らない弱い威力を好んで立ち回る放浪者の立ち回りが作る隙を見逃さず、仕留められるなら剣を急所に突き刺し仕留め、それが出来ない敵は手傷を与えて自分を意識させて放浪者が仕留められるように立ち回る。


 とてもじゃないが、中堅上りの実力ではない。


 単純な切り殺し合いなら恐らく放浪者以上に手慣れている。

 しかしそれがパーティーと共に戦って培って出来上がった戦い方なのか、それともパーティー結成前に出来上がっていたものなのかは判らないし放浪者もパーティーを失ったばかりの女剣士にそれを訪ねようと思いはしなかった。

 常にソロという単独行動しかしてこなかった放浪者にとって命を預けるにたる他人を失うという感覚は到底理解出来るようなものではない、少なくとも女剣士の優れた戦いが仲間の仇討ちの一環かも知れないのだからその気炎を消すのは避けたい。


 街につくまでも見張りに関する話し合い以外の話はしようとしなかった。


 毎日死んだ仲間達のギルドカードを大切に眺めているその横顔にどんな言葉を投げかければ良いのか判らなかった。


 放浪者にとってそんな横顔をしてもなお戦いでは切り替えられる相手に、どんな言葉を選べばいいか判らないという経験の無さが露呈している形だ。



 そうして旅をして身近な街に辿り着いて、二人は冒険者ギルドに事件の報告をした。



 事は依頼人はとある街でも大店の商人をしており、ここ最近の魔物の出現情報などからとある街に武器の在庫を大目に輸送することを決断し、複数の冒険者パーティーに護衛の依頼を出して女剣士のパーティーも参加することになった。

 道中の虫型の魔物に遭遇することはあっても複数のパーティーによる交代しながらの警戒と戦闘は疲労とは無縁なこともあって敵なしの行軍と言えた。

 頭数の多い状態なこともあって盗賊団に襲われる事もなく、旅路は本当に安定しておりパーティー同士での交流も盛んで意思疎通も完璧で依頼人の商人とも問題を起こすことなく、むしろ商人が目的地で宣伝する為に自分達に武器を貸してくれるほどだったという。


 しかしあの森で突然妙な臭いが充満した。


 異様さに危機感を抱いたパーティー達で厳重な注意しながらの行動をする為にスピードが落ちた瞬間に、何かが馬車の一台を横倒しにしその馬車に乗っていた女剣士は転倒する馬車内部の柱に身体を打ち付けて気絶してしまった。


 気絶するまでの朦朧とする意識で感じ取れたのは、何かの奇襲を受けて慌てているパーティーが懸命に立て直そうと指示をしている声や何かの攻撃が仲間の一人の魔導士が作った防壁を容易く貫きその身体を串刺しにしている様子だったという。


 放浪者も報告はするが遺体は酷く食い荒らされていた為に死亡要因を特定することは出来ず、異様な臭いが辺りに充満していて魔物に感づかれるのを恐れて生きている女剣士を救出するので手一杯だったという事くらいしか説明出来ない。

 冒険者ギルドの重役達も大店の商人達が皆殺しにされた事や十数人のパーティーが何も出来ずに壊滅したという現実に、大急ぎで国に対する連絡と騎士団や上級パーティーのような専門部隊の派遣を決定する事を告げる。

 ドワーフの国と繋がっている道程の一つでそんな被害が出て解決できなければどれだけの損害が国に発生するか判らない、ましてやドワーフの国はつい先日豪雨被害で王都と一部地域の回復の為にかなりの労力を割かれている状態で援軍は期待できない。


 大国として、かつての統一帝国の呼称である東の国の名を背負っている者として、今回の事件の解決に奔走すると気炎を上げている。


 話も終わり退席しようとする放浪者に冒険者ギルドの重役の一人が急に呼び止めて、とんでもない話を振る。



 東の国では依頼に失敗したり、パーティーが壊滅した冒険者が仕事を続ける気があるなら一定ランク以上の冒険者が暫定パーティーを組んで仕事を一緒に行い、失った信頼や自信を取り戻す相互支援制度が存在しているというのだ。



 事件の関係者である女剣士と放浪者で暫定パーティーを結成し、簡単な依頼をこなして実績を改めて積ませるという仕事で、二人が一緒に行動してくれるといざという時の招集指示がしやすいというのも理由なのだ。

 当然ながら放浪者はウォッカが買えなかった事や諸島連合で美味い飯を食ったりする予定やソロで活動している事や助けたのも偶然として露骨に嫌がる素振りを見せるが、重役から提示された特別報酬とダンジョンのある諸島連合への優先手形を提示されて心が動く。

 優先手形は諸島連合の島々を移動する渡し船での部屋を優先的に取得出来るだけでなく、ギルドからの紹介として費用の値引きなどだけでない、ダンジョンでの仕事もこの相互支援の依頼という口実でかなり自由が利くのだ。


 女剣士も居ずまいを正して、放浪者に頭を下げて頼み込む。


 結果として、放浪者は諸島連合でのダンジョン仕事と食い倒れの旅を容認する事を条件にこれを引き受ける事になる。

 手形の発行などで数日滞在することに、女剣士は事情聴取の為にその間は別行動となり放浪者は気の重い文通を行うことに歯噛みするがこれも旅路として受け入れる事にした。



「手紙が遅れてすみません、実はちょっとした騒動に巻き込まれてしまいました

 まぁ道中の道すがらで死体が三十人ほど転がっていてその後始末程度のものなので安心してください

 冒険者稼業では珍しい事ではないのですが、死んだのが大店の商人らしく始末しないとギルドとしてもメンツが潰れるという事なのでしょうね

 それとギルドからの依頼でしばらくの間ですが女性剣士とパーティーを組むことになりましたが……どうすればいいでしょうか

 実はソロ専門で行動してきてパーティーというものを私は知りません、正直に言えば僅かに共に戦った彼女の実力は剣で言えば私より上でしょうね

 そんな彼女の足を引っ張らないようにするにはどうすれば良いでしょうか、私の実力は言ってしまえば優れた装備頼りで自信がありません

 優れたパーティーである皆さんから助言を頂けませんか、特に女性とパーティーを組むうえで絶対に注意すべき事について特にお願いします」



 文章を書ききってから放浪者は思わず笑ってしまう。

 相手が女性というだけでどうしようもなく弱気になっている自分がおかしくて仕方ないのだから。

 こうした繋がりに感謝しながら賄賂代わりの酒を何本かバックパックに押し込んで送る。

 ダンジョンに赴くのだから愛用の剣だけでなく予備の武器類もアイテムボックスから取り出して確認作業などで不安を紛らわせるのだった。

移動しやすくするからって特別手形出し過ぎな作品になってる

あと問題ない旅路です、ただちょっと事故ってるだけです

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