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放浪者と彼方の文通  作者: トモナ
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ある異世界の旅路と文通(雪山)

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 放浪者が雪山を歩いている。

 風は穏やかで太陽も程好く雲に隠れている落ち着いた空模様だ。

 街と街を繋ぐ立派な道筋ではあるが幾らか空模様が落ち着いているとは言うものの、危険にはかわりなく放浪者は何度も呼び止められた。



「おいこの時期は下の道を通りな、今の雪山には地元の奴だって好き好んで入りゃしないぞ?」



 それでも放浪者はその街道の合間にあると言う石造りの砦を目指して雪山を歩いていた。



 寒い、でも何処か心地好い。



 放浪者が一歩進む度に凛と錫杖の鈴飾りが澄んだ音を鳴らす。


 背中には大きなバックパックを背負っているが、その足並みは深い雪道に負けることなく大地を踏みしめていく。

 だがそんな歩みを止める障害は雪山の天気ではなく、ここを縄張りにする魔物達だ。


 放浪者が錫杖を鳴らして威嚇するが、目の前の四つ目の熊は引き下がらない。


 この熊は放浪者の肩に担がれた立派な鹿の肉を横取りしようと現れた。

 その身体には大小様々な傷跡が残っているように、この熊は雪山に入り込んだ人間も返り討ちにしてきた古強者なのだ。


 人間の強さは理解しているうえに、自分の強さも良く理解しているからこそ放浪者から獲物を横取りできると踏んでいたのだが甘かった。


 放浪者が錫杖を更に鳴らす。


 すると放浪者を護るかのように十体の狼の群れが素早く現れ、半包囲しながら熊に対して牙を剥き出しにしながら威嚇する。

 二メートル半の巨体を誇る番と二メートルの若い狼の唸り声に熊は流石に不利を悟り、万が一勝てたとしても深手を負うだろうと踏んだ。


 人間や自分より強い魔物に狩られずに生きていく為には逃げる強さが必要と学んだからこそ、この熊は古強者足り得たのだから。


 熊は背中を見せずゆっくりと下がる。


 放浪者も狼の群れを盾にしながら距離を開ける。


 ある程度離れると熊は一目散に逃げ出すが狼の群れは追撃はしない。

 群れは砦を目指して歩き出す放浪者から距離を開けながらゆっくりとついていく。


 更にしばらく歩いた末に目的地の砦に放浪者は無事にたどり着く。


 放浪者は誰もいない砦の調理場を目指す。


 担いだ鹿を埃を払い飛ばし、異空間収納能力であるアイテムボックスからテーブルクロスがわりの布を取り出して広げてから机に置く。


 バックパックを下ろし、下げていた装備の中から解体にも使える短剣の類いを使って鹿の毛皮と肉を切り離す。


 肉はこの鹿の魔物の部位において内臓の次に美味とされる脚を四本あるうちの二本を切り離し、狼の群れに投げ渡す。


 そう、狼の群れは人間の強さを知っている。


 弱い人間は少し優しくしてやると様々な食べ物を自分達に貢ぐ従順な生き物であり、そのくせ狩りが中々に上手い連中だとも知っている。


 放浪者が鹿を仕留めているのは知っていた、だが横取りしようにも、この人間が敵わない強さの持ち主だと理解出来た。


 そんな時に熊とは違う魔物に襲われそうになったから群れに命じて護ってやったら、やはり人間は自分達に従順に一番旨い内臓を差し出した。


 そうして狼の群れは、鹿の脚を二本丸々労せず手にいれたのだ。


 雪山で得た奇妙な温かさには知恵ある魔物なりの生存競争への勝ち筋だ。


 放浪者もそれを理解しているからこそ鹿の内臓を差し出し、脚を二本差し出した。


 風の魔法で煙突内部のススを引きずり落とし、釜戸内部の灰を取り出し、代わりにアイテムボックスから火種を入れる。


 誰もいなかった砦に細やかな暖かさが生まれた。


 放浪者の旅の細やかな楽しみはここから始まる。

一話辺り凄く短いです

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