幼馴染み(美少女)が異世界から魔王倒して帰ってきたんだけど、やばばばばばばばい
僕には幼馴染みがいる。小さな頃から家族付き合いもあり、本当の兄妹のように育ったとても仲の良い女の子だ。
もっと、本当の兄妹じゃないし、小さな頃からとても可愛くて僕の初恋も今の恋も彼女であるのは仕方ないことだろう。
そんな彼女、『橘 聖奈たちばなせいな』がある日突然行方不明になった。
中三の授業中だ。クラスメイトと先生、約40人が見ている前で光に包まれ忽然と姿を消したのだ。
その時の騒ぎはニュースにもなり一時の話題にもなった。
中三の、十五才の聖奈は学校でも一番可愛く性格も天然が入っていたが明るく前向きで、とても優しく、学校の全男子の憧れだったからこそ、みんな悲しんだ。
僕も人一倍悲しみ、1ヶ月ほど僕はほとんど家にも帰らず彼女を探し歩いた。ただ、彼女はどこにもいなかった。
そんな彼女が、一年後、何食わぬ顔で帰ってきた。少し高くなった背に、長くなった髪、少し大人な顔つきだけど幼さを残した顔。
僕の知ってる彼女で少しだけ僕の知らない彼女。
そのときは嬉しくて泣いた。
生きていると信じていたが、それでもやっぱり不安だったから。
彼女も泣いた。わんわん泣いてお互いひどい顔だった。
うん。ここまでなら感動の再会の物語ってことで閉められる。
ただ、ね。
少し落ち着いて、いなくなった一年聖奈が何をしていたのか聞いた。聞いた、難しい顔で、でも、話してくれたわけだ。
異世界に召喚されて、勇者になって、魔王を倒してきたと。
いや、頭が沸いてるのかと思った。思ったけど、聖奈のいなくなった状況や、証拠と言って魔法を使われたら信じるほかない。
・・・・でね、ここからが問題だった。
それは休日、聖奈と二人で買い物に出掛けた時のことだ。
「引ったくりだっ!?捕まえてぇーー!!」
そんな声が響いた。僕は正直驚いてオロオロしていた。そんな場面に出くわすことはほとんどないから、どうしていいか分からなかった。
目の前に走ってくる引たくり。
どうしようと思いながらも、辛うじて聖奈を守らなきゃと思い、彼女の手を掴んで引き寄せた。
「あ」
うん。僕はこのときのこの行動を起こしてよかったと生涯思い続けるだろう。
彼女のポケッとした声にどうしたのかと振り替えれば、何故か立派な剣を振り抜いてる聖奈。
そして、走ってきた引たくりがストンッと地面に腰を落とした。
僕はね、もう、何て言っていいか分からなかった。
その引ったくり、野球帽を被ってたんだけど、その野球帽と長かった髪の毛がバッサリ地面に落ちてた。髪の毛は地面に落ちると風に飛ばされその場には残らなかったが、引ったくりの頭にも髪の毛は残っていなかった。
落武者ヘヤーと言うほどではないが、頭部中央の髪の毛が程よく剥げていた。
うん。流石勇者。凄い剣技。
でも、「あ」っていう声と、僕が引いて上に逸れた斬撃、その後「はずしちゃった」という声。しかも、「はぁ、次はちゃんと」なんて剣を構え直そうとする姿勢。
僕は彼女の手を強く引いてその場を本気で走り去った。
うん。ほんとうに、何て言うか。
その後、人気のない公園まで逃げて彼女に聞いたよ。
そしたら、さ。言うんだよ。普通に。
「え?うん。そうだね。殺す気だったけど、どうかした?」
って。普通の声で、なんの気もせずに。
僕の方が唖然としちゃったよ。
僕の知る彼女は虫も殺さず外に逃がすような女の子だったのに、
それが、人を殺すという言葉になんの抵抗も持たなかった。まるで、鼻をかんだティッシュを捨てるのが当たり前とでもいうように。
混乱しながら話を聞いたら、異世界ではそれが普通だったと。むしろ、そうしなければ自分の身が危ないのだと。
価値観や世界観が違いすぎた。それ以上に、彼女が15年過ごしてきたこの世界での価値観がたった一年でこれほどまでに壊れる世界というのが恐ろしすぎた。
そんな世界に一年もいた彼女が可哀想だった。
僕は彼女に必死で訴えかけた。人は殺しちゃいけない。この世界じゃダメだと。
はは、彼女は首を傾げながらも頷いてくれたよ。でもね、僕はもっと強く言っておくべきだった。それはね、殺さなきゃどうしたっていいっていう意味じゃないんだと。
ニュースで、近くの銀行に銀行強盗が立てこもったというものが流れた。びっくりした、銀行強盗だ。フィクションでは良く見るが実際に起こった話はあまり聞かない。
でも、それ以上にびっくりしたのは一緒にテレビを見ていた聖奈が姿を消していたことだ。
初めはトイレかなって思ったの。思ったんだよ?
テレビに白い閃光が映るまでは。
生放送だったから、か。
それは酷く鮮明に映った。
白い閃光が輝くと同時に、銀行強盗の手足が吹き飛んだ。
身体から綺麗さっぱり吹き飛んだ。
お昼過ぎの生放送で、スプラッタ。
そして僕は血の気が引いたよ。
混乱するテレビカメラ。そのカメラが倒れて回りにいる野次馬を映したとき、その中の聖奈がいた。つい数分ほど前に僕の隣にいた聖奈が。
この銀行、近所とは言ったが、20分から30分はかかる。
もうね、僕の想像は当たっていた。
銀行強盗の手足を斬り飛ばしたのは聖奈だった。
何食わぬ顔で帰ってきた聖奈に聞いたら平然と教えてくれた。
それでね、言うんだよ。なんでそんなことしたのっ!?って言ったら、言うんだよ。
「だって、悪いやつらだよ?この国の平和のためには殺さなきゃ・・・・あ、えっと、殺すのはダメって言ってたからちゃんと殺してないよ?」
殺してはない。でも、強盗犯はみんな達磨になっている。血も流しすぎて死んでいるかもしれない。
そもそも、国の平和って、普通の女の子が考えることじゃないから!?
「えっと、私普通の女子じゃないし、勇者だから」
恥ずかしげに、「えへへ」と笑うんだ。
僕は思わず顔をひきつらせながら「は、はは、」と笑っちゃったよ。
え、ドウスレバイイノ?
それからも、彼女は行動を起こした。
テレビのニュースで犯罪者が出れば斬って回り、しまいには盗みまで働いてくるようになった。
強盗の根城に踏み込み、全員滅多斬りにし、そして強盗が盗んだ金を全部奪ってきた。
数百万くらい。
「えへへ、これだけあれば美味しいものたくさん食べられるね」って。
勇者いわく、盗賊の宝は討伐した人の物になるらしい。
ごめん。盗賊じゃないし、そんなルールないんだ。僕は泣きながら聖奈を説得して、コンビニのデザートを三つ奢るという格安の条件で奪った金の返却をさせることができだ。
そうして聖奈の行動は止まることなくエスカレートしていった。
特に、この間見た映画に悪い意味で感化された。
海外映画。ヒーローものだ。
凄い力を持った人が正体を隠して人助け。
「私これになるっ!」って目をキラキラさせて言うんだ。16才の女の子が。
それで、不器用な裁縫でなんか不気味なスーツ作って、それを着て行動を起こして始めた。
そして、直ぐに都市伝説となった。悪い意味で。
不気味な布を被った化物が悪い人を斬り殺す、そこには容赦も情けもない。
そんな事実な都市伝説。
もう、どうしたらいいわからず僕は不眠症になりかけている。
最近ではヨーチ●ーブやツイ●ターに動画が乗るようになり、噂は格段に広まった。
いつ、警察に感ずかれるか、僕は恐怖で震えていた。警察に捕まるのが怖いんじゃない。いや、それも怖いけど。でも、一番怖いのは、捕まえにきた警察を皆殺しにしかねない聖奈が一番怖い。
それに最近はそれだけでなく、悪徳企業やブラック企業まで敵に認定し始めた。
さらに、学校のいじめや子供の仲間はずれも。流石に斬ったりはしないけど、容赦なく吹き飛ばす。
もう、聖奈は完全に化物として世間に認定されていた。不気味なブギーマン。現代のブギーマン。リアルブギーマンと、世間で本気で恐れられ始めている。
ブギーマン討伐隊とかなんとか、高校生や大学生の間でそんなモノまで組まれ始めた。
それを聞いた聖奈は
「そんな悪いやつがいるなんて・・・っ、私がそのブギーマンを倒す」って拳を握りしめてたよ。
お前だよ。ブギーマン。
でも、よかった。そこでその討伐体を皆殺しにするとか言い出さなくて。
・・・・全然良くなかった。
後日、その討伐隊が全員遺体で見付かった。
聖奈いわく、殺気を向けられたから、と。
もう、僕はどうしていいかわからなくなった。
いや、最初から分からなかったけど。
聖奈は完全に人から逸脱し始めていた。もう、している。それは強さとかじゃなく、在り方が、だ。
このままじゃ聖奈は・・・・。
この世界に、この日本に、勇者としての在り方は、合わない。それも致命的に。
でも、聖奈は、強迫観念にでも取りつかれたかのように勇者と勇者と繰り返す。
まるで勇者ではない自分は必要ないかのように。
僕はずっと考えていた。
彼女を止めるにはどうすればいいだろうか?
彼女をもとに戻すにはどうすればいいだろうか?
僕がどんなに頼んでも彼女は勇者をやめない。
僕がどんなに頼んでも、彼女は元には戻らない。
だから、僕は・・・・最後の手段に出た。
そして、それからーーーーー
あれから、2ヶ月。世間でのブギーマンの噂は段々と薄れ始めた。
もちろんそれは聖奈が起こす騒ぎがなくなったからだ。
ビニール袋を手に店から出ながら、僕は空を見上げた。
少しだけ、後悔しているかもしれない。
でも、仕方がなかった。
あのまま聖奈に勇者をさせていたら、
彼女はこの世界の魔王になっていただろう。
だから、こうするしかなかった。
ーーーーー僕は、彼女が待つ部屋へ向かった。
あれから、2ヶ月。彼女はずっと、そこにいる。
僕は彼女に、彼女を・・・・
オタクにした。
・・・・いや、うん。
うん。
オタクにした。取り敢えず、彼女をテレビの前にハウスさせ、コントローラーを握らせた。
で、言ってやった。
「まずはこの世界を救いなさい」と。
最初は渋々だった聖奈だが、直ぐにのめり込んだ。
ゲームの世界なら救うべき人がいて悪い人がいて、力を再現なく振るっても問題ない。
リアルな力はあっても頭がそこまで良くない聖奈はゲーム一本クリアするのに1ヶ月はかかる。
僕が今日買ってきたゲームも三本目だ。
1ヶ月一万円ほどで聖奈をこの部屋に封印した。
聖奈は結局、世界を救いたかった。だけど、それは召喚され無理やり持たされた思いで、“世界を救う”のであれば、それはどこでも良かったのだ。
異世界でも、この世界でも、たとえ、ゲームの世界でも。
今日も聖奈を聖奈を救っている。
たぶん、明日も、明後日も。これから、ずっと。