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年上王子が呑気過ぎる。  作者: 四季
1章 突然の結婚
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6話 初めて食べる夕食

 待つことしばらく、ローザが料理を運んで来てくれた。

 下に駒のついた台に料理を乗せて、私の部屋まで持ってきてくれたのである。


「お持ちしました」


 台の上には、いくつかの皿が乗せられている。

 やや深さのある器に、レタスを始めとした葉野菜を森林のごとく詰め込んだ、サラダ。卵色の汁の上に琥珀のような煮凝(にこご)りを乗せたスープ。白身魚を薄く切ったものを、咲き誇る華麗な花のように皿に盛りつけた刺身。

 いくつもの料理があるが、そのすべてが、まるで芸術品のよう。


「うわぁ……!」

「どうぞ召し上がって下さい」

「凄く豪華ですね!」


 こんな華やかな料理を見せられたら、興奮を隠せない。凄まじい勢いで食いつきたくなる衝動を抑えることで、精一杯だ。


「早速いただいても構いませんか!?」


 そう問うと、ローザはふふっと笑う。


「とても嬉しそうですね」


 嬉しいに決まっている。

 こんな素敵な料理を目の前に並べられているのだ、嬉しくないわけがない。


 さぁ、どれから食べよう?


 私の頭には、もはやそれしかない。


「このままでお食べになります? それとも、テーブルへ移しましょうか?」

「このままで大丈夫です」


 早く食べたくて仕方がない。


「では、しばらく失礼致します。お食事終わられましたら、気軽に声をお掛け下さい」


 ローザは軽く頭を下げると、台に乗った料理はそのままで、部屋から出ていった。


 こうして、また一人になる。


 一人になるとまたしても退屈さが込み上げてきた。が、今は先ほどまでと違って、食べるべき料理がある。だから、目の前に並んだ料理に集中しておくことに決めた。


 美味しいものを食べれば、気分も変わるはず。


 台の上に皿と一緒に置かれたフォークを手に取る。そして、サラダを一番手前へ持ってくる。


「いただきます」


 やや深さのある器に入ったレタスにフォークを豪快に突き刺し、そのまま口へ運ぶ。口に含み、一度噛むと、爽やかな音と共に水が溢れた。噴水のようなレタスだ。


「……美味しい!」


 朝日を浴びたように、目が覚めた。


 私は、次から次へと、サラダを口へ運ぶ。なんて美味しいのだろう、と思いながら。


 これは、一人で食べることにしておいて良かった。

 他人のいるところでだと、こんな勢いでは食べられないから。


 私は次に、スープへと視線を移す。


「これは絶対美味しいはず……」


 サラダを食べ終え、一旦フォークを置くと、先端が正円になっているスプーンと、スープの入ったグラスを手に取る。


 意外にも、グラスはひんやりしていた。どうやら冷たいスープが入っているようだ。

 地味な卵色の上で、琥珀のような煮凝りが輝いている。その輝きといったら、まるで、「まだ食べてくれないのか」と言っているかのよう。


 無意識のうちに、喉が上下する。


 王女ならば、本来は、品良く少しずつ飲むべきなのだろう。

 しかし、今の私は、早く食べたくて仕方ない気分。周りには誰もおらず、気にすることは何もないので、躊躇わずどんどん飲むことにした。


 もっとも、さすがにグラスごと傾けることはしなかったが。


「琥珀……!」


 煮凝りが喉をつるんと滑り降りた直後、私は、思わずそんなことを言ってしまった。


 一人で話しているというだけでも厳しいものがあるのに、よく分からないことを発してしまうなんて、正直かなり恥ずかしいことだ。


 周囲に誰もいない時で、本当に良かった。


 続けて私は、刺身へと手を伸ばす。


 花のように盛りつけられた生の白身魚の切り身は、まるで絵画のよう。戸惑うほどに美しく、食べて良いのか疑問に思ってしまうくらいのものだ。


 フォークを刺して、一枚身を取る。

 そして、口に放り込む。


「……っ!」


 思わず言葉を失った。

 あまりに美味しすぎたから。


 弾力はあるのに、ほどよいタイミングで身がほぐれていく。だから、ぐにぐに噛み続けなくて済む。


「ピシアの料理って……凄い」


 私は思わず、そんなことを呟いてしまった。


 だって、そうではないか。

 出された料理のすべてが美味しく、しかも見た目も華やかで。とにかく、信じられないくらいのハイクオリティなのだ。


「信じられない……」


 なぜここまで素晴らしい料理がたくさんなのか、私には理解できなかった。

 これを毎日食べられるかもしれないと思うと、胸が高鳴る。

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