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年上王子が呑気過ぎる。  作者: 四季
5章 分かり合おうと
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51話 自室拡張

 私の伝えたかったことは、きちんと伝わったのだろうか。この胸の内にある感謝を、リンツにちゃんと伝えられたのだろうか。


 本当のところは分からない。

 だって、その答えは、リンツに聞かなくては分からないことだから。


 ただ、私にしてはきちんと言えたつもりだ。もちろん、完璧ではないかもしれないけれど。でも、私にしては頑張った方。


 だからこそ——少しでも伝わっていてほしいと願う。



 その日の夕方。

 私はリンツと、拡張作業が終わった部屋を見に行くことにした。


「どんな感じかしらね」

「広くなっていることは確かだろうね」

「えぇ。……少し緊張するわ」


 ただ広がった部屋を見に行くだけだというのに、妙に緊張してしまう。


 偉い人に会うわけではない。

 誰かを説得しなくてはならないわけでもない。


 だから、緊張なんて必要ないはずなのだ。


 なのに凄く緊張してしまっている私がいる。リンツの隣を歩いているだけなのに、部屋を見に行くだけなのに、額に汗が浮かぶほどの緊張。体も強張る。


 ……おかしな感じ。



 自室へ繋がる扉のノブに手をかける。そして、軽く回転させるようにしつつ扉を押し開けた。


「あっ……!」


 パッと見た感じ、私の自室。今朝までと、何一つ変わっていないように感じられた。しかし、視線を少し動かすと、大きな変化が視界に入る。


「繋がってる!」


 当然のことを叫んでしまった。

 少し恥ずかしい。


「おぉ、広々しているね」


 後ろから入ってきたリンツは、目を開き、感心したような声色で感想を述べた。

 とても彼らしい、純粋でシンプルな感想だ。


「うむ、悪くない。これなら自由に行き来できそうだ。それに……完全に繋がってしまっていないというのも、キャシィさん向きと言えるやもしれんね」


 隣の部屋と繋がってはいる。しかし、自室側は軽く壁に囲まれていて、「いかにも一部屋になっている」といった感じではない。


「えぇ! 面白い仕組みね」


 工夫が感じられるところが素晴らしい。


「これならキャシィさんも、一人の時間も謳歌できるのではないかね?」

「本当に。ありがたいわ」


 リンツのことは嫌いではない。それに、私たちは既に夫婦なので、同じ部屋で暮らすというのも問題はない。


 だが私は、自由に寛げなくなってしまうことを恐れていた。

 昼間からベッドの上で寝転んだり、好きな時に鏡を覗いたり。そういったことができなくなるのでは、と、不安を抱いていた。


 しかし、この状態なら、そんな心配は必要なさそうだ。自由に寛ぐことも、時にはできそうである。


「でもリンツさん」

「何かね?」

「リンツさんとしては、前の部屋の方が広かったんじゃない?」


 こちらへ移動してくると、狭く感じるのではなかろうか。


「うーむ……そうだろうか?」

「気のせいかしら」

「そう! それ! 気のせいだとも」


 リンツは急に明るい声を出す。


 何だか意味深だ。それまでは普通の声だったのに、急に明るい声に変わったことが、不思議で仕方ない。

 訝しんでいた私に対し、リンツは呑気に尋ねてくる。


「キャシィさんは今まで通り、ここを使うよね?」

「そのつもりよ」


 別段こだわりがあるわけではない。が、この部屋を使うとなれば、私は今まで私が使っていたところを使うのが普通だろう。それに、その方が気が楽だし、寛げる。


 私が答えると、リンツはにっこり笑う。そして、元々隣の部屋であった方を指差す。


「では、僕の荷物はあちらに運び込むことにしようかね」


 リンツは肩を回しながら張りきった顔。


「こっちがいい? それなら、変わってもいいわよ」

「いやいや。いいよ。気にしないでくれたまえ」


 広くなった部屋での暮らし。リンツと二人の生活。それがどのようなものになるかは、まだ分からない。だが、彼とならやっていけるだろう。きっと、何とかなるはずだ。



 それからはバタバタだった。


 清掃員がやって来て、部屋の最終確認。幾人もの侍女が、リンツの部屋から物を運んでくる。大きい家具だけは男性使用人が。


 非常に慌ただしい時間が続き、寛ぐなんて夢のまた夢だった。


 これが自国でのことならば、働いている者たちがいる中でごろごろしていたとしても、叱られはしないだろう。第二であるとはいえ、王女だからだ。王女という身分ゆえ、ある程度自由に振る舞える。


 しかし、ここは自国ではない。この国——ピシアにおいて、私は、王子のもとに嫁いだ一人の女に過ぎないのだ。


 だから、話は大きく変わってくる。


 いくら王女でも、ここでの私は他国から嫁いできた女に過ぎない。

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