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年上王子が呑気過ぎる。  作者: 四季
5章 分かり合おうと
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50話 広がりゆく世界

 ガラス細工を集めていることを変な目で見る者も、世の中にはいるようだ。

 私は特に何も思わないけれど。

 ただ、ガラス細工集めを否定する者を躊躇いなく否定するというのも、それはそれで問題なのかもしれない。世は広い。それゆえ、いろんな考えの者がいるのは仕方ないことだ。


「心ない人もいるものね」

「そうなのだよ……」

「でも、多くの人は美しいと感じるはずよ」


 十人中十人が「美しい」と言いはしないかもしれない。しかし、半数以上は「美しい」だとか「綺麗」だとか思うだろう。私がそうだったように。


「リンツさん、素敵なものを見せてくれてありがとう」


 私は改めて礼を言う。

 すると彼は、ほんの少し視線を下げて頭を掻くような仕草をした。


「い、いや。いいんだ。これはただ……僕の趣味だからね。むしろ、趣味の押し付けになって申し訳ないくらいだよ」


 リンツの頬は、ほんのりと赤みを帯びていた。

 人生経験も私なんかよりずっと豊富であろう彼が、こんな風に初々しく赤面している。その光景といったら、非常に不思議なものだ。


「いいえ、押し付けなんかじゃないわよ。誰が何と言おうと、ここは素晴らしい場所だわ」

「ガラス細工、気に入ってもらえたようで安心したよ」

「えぇ。私、こんなものは見たことがなかった。だから、勉強にもなったわ」


 するとリンツは、ははは、と軽やかに笑う。


「そう言っていただければ光栄だ」


 リンツはいつも、私に、色々なことを教えてくれる。お手玉も然り、ガラス細工も然り。先生が生徒に教えるみたいな堅苦しい形ではないけれど、素敵なことや興味深いことを、楽しく教えてくれるのだ。


 だから、彼といるだけで勉強になる。


 知らないこと。見たことのないもの。行ったことのないところ。

 リンツと過ごせば、そういった物事に自然と触れることができる。そして、世界がどんどん広がってゆく。


 それって凄いことだと思うの。


「……ねぇリンツさん」


 今晩からは同じ部屋で繰らすことになる。良い節目だ。だから私は、今、感謝の気持ちを伝えることにした。


「ん? 何だね」

「リンツさんはいつも、私に優しくしてくれるわよね」

「それはまぁ……可愛い妻だからね」


 戸惑いの色を微かに滲ませつつも、リンツは笑う。しわの多い顔に浮かぶのは、柔和な笑み。

 二人きりの時に近くでこんな顔をされたら、胸を撃ち抜かれてしまいそうだ。


「それに、キャシィさんには寂しい思いをさせたくないしね」

「寂しい思い?」


 言い方が気になったので、聞いてみる。


「僕の父は忙しくて、妻——つまり僕の母に、あまり声をかけていなかったんだ。で、母はいつも寂しそうな顔をしていた。だから、僕はキャシィさんを大切にしたいのだよ」


 私とリンツが言葉を交わしている間も、飾られているガラス細工たちは曇りなく煌めいている。


「……へぇ。そうだったのね」

「理想と違ったかね!?」

「いいえ。今の話を聞いたら、リンツさんが優しい人だと、ますますよく分かったわ」


 そう、彼は善い人なのだ。


「本当に……いつもありがとう」


 ストレートに感謝の気持ちを述べるのは、少々恥ずかしさがある。理由はよく分からないけれど、照れてしまう。


 でも言わなくちゃ。

 言わなくては伝わらないのだから。


「色々ややこしいことを言って、迷惑をかけてごめんなさい。親に決められた結婚だからって、関係ないリンツさんにまで冷たく接して、申し訳なかったと思っているわ」


 もっと早く、素直になっていれば良かったのかもしれない。


「こんな私に……めげずに何度も関わろうとしてくれて、ありがとう。感謝しているわ」

「ん? 僕は特別なことは何もしていないよ」

「何度もきっかけを作ろうとしてくれたじゃない」


 するとリンツは、またしても、軽やかな笑い声をあげる。


「ははは。それはただ、僕がキャシィさんと仲良くなりたかっただけだとも!」


 リンツは楽しげだ。すぐ近くでこんな楽しそうな顔をされると、自然と、こちらまで楽しい気分になってくる。もっとも、楽しい気分になれるのは悪いことではないのだが。


「楽しくないから帰る! なんて言われてしまっては大惨事。ははは」

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