49話 もちろん買ったものもあり
「それにしてもリンツさん、こんな綺麗なものをよくここまで集めたわね」
部屋中に飾られているガラス細工。凄く美しく、心に訴えかけてくるものがある。しかし、これだけの数を集めようとしたら、結構な金額がかかるのではないだろうか。
リンツはこの国の王子。それゆえ、お金は自由に使えるのかもしれない。
しかし、それでも、際限なく使えるということはないはずだ。そんなことをしていては、国が潰れてしまう。
「どうやって集めたの?」
「おぉ! それは、なかなか面白い質問だね」
「そう? 普通気になるところだと思うわよ」
これほどのものを見せられれば、誰だって、一度は気にするところだろう。
「そういうものかね? ……僕にはよく分からないが、キャシィさんが言うなら、そうなのかもしれんね」
リンツはこれだけのガラス細工を見ても、お金のことなんて気にしないようだ。よほど恵まれた環境で育ってきたのだろう。
それに比べて私ったら。
これでも一応王女なのに、お金のことばかり気にして、少々情けないわね。
でも……気になってしまうのは当然だわ。こんないかにもお金がかかりそうなコレクションを見せられたら、「集めるのにどのくらいかかったのだろう」と考えてしまうに決まっているじゃない。
「けど、べつにそんな大金を使ったわけではないのだよ」
「そうなの」
「うむ。世にはお金では買えないものもあるからね」
さりげなく名言が飛び出した。
「他の国からやって来たお客さんがお土産としてくれたり、親切な国民が家にある要らなくなったものをくれたり、そういうことが多かったように思うよ」
そんな馬鹿な。ほぼ完全に運任せではないか。
買うでもなく、他人からの好意がメインで、これだけたくさんの素晴らしい作品を集められるなんて。リンツは恐るべき強運の持ち主なのか。
「そうだったんですね」
「安いのは、街で買ったりもしたけどね」
言いながらリンツは、棚の隅に置かれている小さなガラス細工を手に取った。
「たとえば、これ」
「魚?」
「そう。特に何でもない魚の形をしたものだよ」
アーモンドのような体に、尾とひれのついた、シンプルな形の魚だ。
手のひらに乗せていても小さく見えるほどにコンパクト。大きさ的には、リンツが「安い」と言うのも理解できる。
ただ、いかにも安物臭いということはない。
瞳はコバルトブルー。鱗の中にはところどころ煌めくビーズが埋め込まれている。尾の部分はシルバーのような色味で、先端に向かうにつれ、その色は強まっていっていた。
小さくも繊細な作りだ。
それゆえ、適当に作ったという感じは漂っていない。
「それは安かったの?」
「うむ。もう少し高いかと思っていたのだけどね、案外、リンゴ十個分くらいの値段だったんだ」
「へぇ、それはお得ね」
大きくなくとも、迫力では劣っていても、その細部に宿る輝きは他に負けていない。
色やビーズを使うことによって、この作品固有の魅力が高まっている——個人的にはそんな風に感じた。
「いいわね、ガラス細工」
私は思わず漏らす。
ずっと前からガラス細工の魅力に気づいていたリンツにしてみれば、今私が言った言葉は当たり前のこと。何を今さら改めて、という感じだろう。
だから、そんなことを言うつもりはなかったのだ。
そんな当たり前のことを、敢えて今言うつもりではなかった。
けれど、自然と漏らしてしまっていた。言うつもりではないにもかかわらず、半ば無意識のうちに呟いてしまっていたのである。
「……って、変よね。当たり前のことなのに、何を今さらって感じよね。そんなことを言ってしまうなんて、私、ちょっとどうかしているわ」
ごまかすように述べる。
しかし、リンツはそれに頷かなかった。
「いいや。変などではない」
肯定することの多いリンツが否定したのは、意外だった。
いや、もちろん、ここは否定してもらえる方がありがたい状況ではあるわけだが。
「当たり前なんかじゃない。世の中には、この美しさを理解してくれない人もいるわけだからね」
「そうなの? 誰だって美しいと思うはずよ」
私はそう言った。けれど、リンツは頷かなかった。
「そうであってくれれば僕も嬉しいんだけどね。意外とそういうものではないんだよ」
「これを『汚い』と思う人がいるの?」
「いや……『汚い』というよりかは、『ガラス細工を集めている男なんておかしい』という感じだね」
そう話すリンツは、少し暗い顔つきをしていた。
確かに、美しいものが好きといえば女性のイメージなのかもしれない。だがしかし、ガラス細工に関して言えば、別段女性的ということもないように感じるのだが。




