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年上王子が呑気過ぎる。  作者: 四季
4章 同室の件

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47話 貴方に出会うのを

 若干面倒臭い女性イレーネと別れ、私とリンツは再び歩き出す。


 行き先は知らぬまま、彼の後を追うように歩き続ける。

 どこへたどり着くのか分からないので少し不安はあるが、極力何も考えないようにしつつ、私は歩いた。


 前を行くのがリンツなので、少々不安もある。ちゃんと目的地にたどり着けるのだろうか、という不安だ。ただ、彼の足取りに迷いはない。だからきっと大丈夫だろう。私は、良い方向に考えるようにしておいた。



 歩くことしばらく。

 リンツが立ち止まったのは、木製の扉の前だった。


「着いたよ、キャシィさん!」


 目の前にある扉は、木製ながら艶があり、かさついていない。綺麗に加工されている。しかも、ところどころに細やかな模様が刻み込まれており、かなり豪華な仕上がりだ。


 だが、わざわざ紹介するほどのものとは思えない。


 リンツが私に見せようとしてくれていたのは、この扉だったのだろうか……?


 少々変わり者のリンツのことだ、意外な展開が起こらないとは言えない。だから「この扉を見せたかったんだ!」なんて言い出しそうな気もする。が、さすがにそれはないと思うのだが。


「この扉を見せるために、わざわざここまで?」


 恐る恐る尋ねてみる。

 すると彼は、笑顔で返してくれた。


「違うよ!」


 ほっ。

 やっぱり違ったのね、良かった。


「見せたいのは、ここの部屋!」


 ここの部屋。それはつまり、この扉の向こうに広がる部屋の中、という解釈で間違いないのだろうか。


「部屋?」

「そう! キャシィさんに似合う綺麗なものがたくさんあるのだよ!」


 綺麗なもの、か。

 悪くない。


 そんな風に考えていると、リンツが扉を開けてくれた。



 豪華なデザインの木製扉の向こうに広がっていたのは、いくつものガラス細工が飾られている部屋。


「うわぁ! 凄いっ……!」


 思わず、感嘆の声を漏らしてしまった。


 あまり広くない部屋だ。しかも、棚がたくさん置いてあるため、なおさら広くは感じられない。


 しかし、狭さなんて、ちっとも気にならない。

 そんなことは欠片も気にならないくらい、他が美しいからだ。


「ここは一体!?」

「ガラス細工の部屋だよ!」


 ……おぉ。


 驚きの当たり前な答え。


 いや、それは見れば分かるだろう。

 そんな風に突っ込みたくなるような答えだ。


 何となく残念な気分になる答えを返してくれる辺り、リンツらしいと言えるだろう。それが良いのか悪いのかはともかく。


「もしかして……リンツさんのコレクションなの?」

「それに近いね」

「やっぱり! そういうこと!」


 部屋に入って一番に目に留まったのは、鹿の形をした作品。片手の手のひらに乗る程度の大きさの、四本足で立っている透明な鹿だ。


 透明なガラスで作られているため、色はほぼない。しかし、それでも鹿に見える。十人に聞けば、少なくとも九人は「鹿」と分かるだろう。そのくらい、鹿らしい造形だ。

 やや丸みを帯びた角も、可愛らしい。


「これ、鹿よね!?」


 透明感があって綺麗、しかも知っている動物がモチーフだったので、ついテンションが上がってしまう。


「そうだよ」

「凄く素敵ね!」

「おぉ! 気に入ってくれたかね! それは嬉しい」


 鹿の形のガラス細工に心を奪われている私を眺め、リンツは微笑んでいた。その柔らかな表情は、包容力を感じさせる。


「これもリンツさんのものなの?」

「その鹿はだね、僕がまだ二十歳にもなっていなかった頃に貰った贈り物なのだよ」

「誰かに貰ったものなのね」


 透明な鹿。

 それはとても非現実的。それは凄く幻想的。


 こんな鹿を見られるなんて、まるで、不思議の国に迷い込んだかのよう。


「あれは確かー……北の国からお客さんが来た時だったかな? そのお客さんが持ってきてくれた贈り物の中に、これが一つだけ混ざっていてね」


 ガラス細工が、その北の国の名産品か何かだったのかと、一瞬思ってしまった。だが、一つだけだったということは、べつに名産品というわけでもないのだろう。


「あら。一つだけだったのね」

「そう! なぜか一つだけだったのだよ!」

「不思議ね」

「やはりそう思うかね! 僕もそう思った。きっと、運命の出会いだったに違いない!」


 勢いのある声で話すリンツは、生気に満ちている。

 お世辞にも若いとは言い難い年のリンツだが、今は、青年のような若々しさだ。


「ふふ。そうね。きっとそうよ」

「キャシィさんもそう思うかね!?」

「えぇ。この鹿はきっと、貴方に出会うのを待っていたのだわ」

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