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年上王子が呑気過ぎる。  作者: 四季
4章 同室の件

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46話 聞く耳を持たない彼女

 この嫌な女性は、一体何者なのだろう。リンツの何なのだろう。

 彼とは一体どのような関係性なのだろう?


 そんな疑問を抱いていると、女性が視線をこちらへ向けてきた。


「初めまして、地味な娘さん。わたくしの名はイレーネ・ニュクス。名誉あるニュクス家の人間で、リンツ様の友人の娘ですわ」


 人形のような女性——イレーネの発する言葉は、まるで、「貴女とは格が違うのよ」とでも言っているかのようなものだった。恐らく、自分を偉いと思っているのだろう。


 ……それにしても、友人の娘って。


 微妙に遠くない? その関係。


「よろしくお願いします、イレーネさん」


 突っ込みたいところは色々ある。ありすぎて困るぐらい、たくさんある。だが、嫌われてややこしい方向に絡まれたりしたら面倒だ。なので私は、今以上嫌われないように挨拶をしておいた。


「挨拶はなさるのね。最低限の教育は受けている、ということかしら」

「この国へ来てまだそれほど経っていないので、分からないこともたくさんありますが……」


 軽く会話しておく。


「あら、そうでしたの! ピシアの生まれではありませんのね」


 なぜ嬉しそうなのか……。


「はい」

「どちらからいらっしゃったのかしら?」

「アックスです」


 するとイレーネは、ふふっと笑った。

 馬鹿にしたような顔で。


「あらあら! ……では、田舎者ではありませんの?」


 驚きの展開。

 イレーネの発言は、私の想像の範囲の外だった。


 だが、この程度で動揺していては駄目だ。その程度の人間であっては、大きなことは何もできないだろう。


 私は、冷静さを失わないように努めつつ、言葉を返す。


「そうですね、えぇと……ピシアよりは発達していません」

「ふふっ。ですわよねー」

「リンツさんに連れていっていただいた遊園地などは、素晴らしい場所で、特に驚きました」


 刹那、イレーネはバッとリンツの方を向いた。


「このような侍女と遊園地へ!?」

「侍女ではなく、妻だよ」


 一応訂正するリンツだが、イレーネはまったく聞いていない。


「リンツ様! 見損ないましたわ!」

「なぜかね」

「侍女と外出など、王子らしくありませんわよ!?」

「いやだから、侍女じゃなくて……」


 もう一度訂正しようとするリンツ。

 しかし、その声がイレーネの耳に届くことはない。


「あぁ、なんてこと。このピシアの王子様が、王子の誇りを忘れるなんて——」

「違うのだよ!!」


 リンツはついに声を荒らげた。

 イレーネがあまりに話を聞かないので、腹が立ったのかもしれない。


「彼女はキャシィさんと言ってだね! 僕の正式な妻だよ!」


 リンツが出した大きな声に、イレーネは言葉を詰まらせる。


「アックス王国から嫁いできてくれた王女様こそが、キャシィさんなのだよ!」


 ……ま、第二王女だけれどね。


「王女? はっ、ご冗談を。本当に面白い方ですわね、リンツ様は」

「冗談じゃない!!」


 リンツは大人げなく叫んだ。

 それから、私へ手を差し出してくる。


「行こう、キャシィさん」


 広い心を持ち、基本常に穏やかな態度を崩さないリンツだが、今は少し不機嫌そうだ。

 否、どちらかというと、不愉快そう、という表現の方が相応しいかもしれない。

 とにかく、今のリンツはあまり心地よい気分ではなさそうだ。


「え。もういいの?」

「いい。キャシィさんと過ごせる、せっかくの楽しい時間なんだからね。余計な話をするなど、損としか言いようがないよ」

「わ、分かったわ……」


 差し出された手を、そっと掴む。すると、リンツはすたすたと歩き始めた。イレーネの方なんて、少しも見ない。


「リンツ様!? どうしてわたくしを置いていってしまわれますの!?」


 背後からは、イレーネの声。

 彼女はかなり動揺しているようで、品のない声で叫んでいた。


「リンツ様っ!!」


 私は、彼女を少し、可哀想だと思った。けれど、相手をし続け嫌みを言われるのも疲れるので、彼女の方へ戻ることはしなかった。

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