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年上王子が呑気過ぎる。  作者: 四季
4章 同室の件
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43話 いい物を見せたくて

 好きなところに座っていいと言われたので、ソファに座らせてもらうことにした。


 というのも、いきなり他人のベッドに座るということには、少々抵抗があったからである。それに加え、他人が寝ているところへ勝手に座るなんて失礼だろう、という思いもあったのである。


 それゆえ、私はソファを選んだのだ。


「ここに失礼するわね」

「どうぞどうぞ。好きなところへ座ってくれたまえ。何なら、ベッドでもいいんだよ?」

「いいえ。ここで構わないわ」


 リンツはというと、机の方へ行っていた。

 机と一体になっている棚から何かを取り出そうとしているらしく、豪快に腰を屈めている。


 何を出そうとしているのかしら?


 食べ物を出してくるような棚ではないから、食べ物以外の物だと思うのだけど。


「リンツさんは何をしているの?」


 思いきって尋ねてみた。

 すると彼は、机と一体化した棚のすぐ近くで腰を屈めたまま、穏やかに答えてくれる。


「ちょっと待っていてもらえるかね? いい物があるのだよ」

「いい物?」

「そう。キャシィさんに見せたい物なんだ」


 見せたい物、ね。

 べつにそんなに気を遣ってくれなくていいのに。


 リンツは子どものように自由奔放なタイプで、他人(たにん)に気を遣ったりなんてしそうにないのに、妙なところで意外と気を遣ってくれたりするから、不思議な人だ。


「もう少し待っていてくれたまえ。確かこの辺りにしまってあるんだ」

「分かったわ。急がないから、ゆっくりでいいわよ」

「おお……! 優しいね、君は。まるでエンジェルのようだ……!」


 エンジェルなんて言葉を唐突に使われ、私は思わず苦笑してしまった。


 だってほら、普通はあまり使わないじゃない?


「変ね、エンジェルだなんて」

「キャシィさんに相応しい言葉だと思うよ」

「まさか。リンツさんは、意外と冗談が好きなのね」

「冗談ではないよ! 本音だとも!」


 はっきりと言われてしまった。

 こうも躊躇なく言われてしまうと、もはや、何も返す言葉がない。



 リンツが何かを探し出してから、あっという間に三十分が過ぎた。

 もういいわ、と何度か言おう思ったが、一生懸命な彼を見ていると、そんなことはとても言い出せず。ただ時間だけが過ぎてゆくという結果になってしまったのだ。


「——あった!」


 もうそろそろ本当に言おう、と決意した頃になって、リンツは声をあげた。

 どうやら、探していた物が見つかったらしい。彼に手には、小さな茶色の箱が握られている。恐らく、その箱の中身こそが、彼の探していた物なのだろう。


「見つかった!」


 嬉しそうに言いながら、リンツはソファの方へと歩み寄ってくる。


「あったの?」

「そう! ついに見つかった!」


 リンツはドラマチックな言い方をする。その顔はとても嬉しそう。


「それは良かった」


 見つかった小さな茶色の箱を大事そうに持ちながら、リンツは、何も言わずソファに腰掛けてきた。


 自分の部屋とはいえ、何の断りもなく隣に座ってくるなんて。

 私は内心、そんな風に思った。


 だが、リンツのことは嫌いではない。だから、隣に座られること自体は、それほど嫌ではなかった。なので、特に何も言わないでおいた。


「これを見せたかったのだよ!」


 リンツは箱の蓋を取る。

 するとそこには、四つの丸い物体が入っていた。


「これは何?」


 布で作られた、手のひらに収まるくらいの大きさの、丸い物体。

 こんな物体は見たことがない。


「お手玉という物だそうだよ」

「へぇ。お手玉って名前なのね」


 不思議な物体だ。ただ、嫌な感じはしない。手作り感満載の布で作られているところや、まるまるした可愛らしいシルエットは、好印象だ。


「触ってみてくれたまえ」


 リンツがそう促すので、箱の中にある四つのお手玉のうち一つを、恐る恐る手に取ってみた。

 肌に優しそうな、柔らかな布の手触り。少し揉んでみると、じゃりじゃり、という妙な音が鳴る。日頃滅多に聞くことのない奇妙な音が、なぜかとても心地よい。


「いい音がするわね」

「これはだね、東の国から来たお客さんがくれた贈り物なのだよ」

「東の国の?」

「そう。なかなか面白い物だとは思わないかね」

「えぇ! 実に興味深いわ」


 東の国、なんて、壮大すぎてイメージが湧かないけれどね。


「その国では、これを投げて遊ぶらしいよ。僕にはできないがね」


 紹介しておきながら自分はできないとはっきり述べる辺り、素直だ。

 普通男性なら見栄(みえ)を張ってできないこともできると言ったりしそうなものだが。


「投げるの?」

「まずは手に持つ。そして、上に向かって投げて、それをキャッチする。そういう動作が基本で、徐々にお手玉の数を増やしていくそうだよ」


 ……よく分からないわ。


「数が増えるほど難しくなるのね」

「そうそう! キャシィさんは凄く詳しいね!」


 いや、詳しいわけではない。

 数が増えるほど難しくなることくらい、誰にでも想像がつくだろう。

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