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年上王子が呑気過ぎる。  作者: 四季
4章 同室の件
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41話 お気に入りなのは色なのね

 リンツは、私のターコイズのワンピースを、非常に気に入っているらしい。そのせいか、腰を曲げたり背を丸めたりして、ありとあらゆる角度から私の体を見てくる。素晴らしい彫刻を鑑賞するかのように。


 他人(ひと)の体をそんなに見るなんて、失礼よ!


 そう言ってやりたい気分ではあるのだが、相手が下心のないリンツであるだけに、そんなにきついことを言う気にはなれなくて。


「おぉ……。素晴らしいよ、このワンピース」

「気に入ったみたいね」

「もちろん! それは、もちろんだとも!」


 リンツは目を大きく開いて、勢いよく述べる。


「こんな美しい色は見たことがない!」


 ……気に入っているのは、色なのね。


 なぜだろう、少し切ない気分になった。


 彼が気に入っているのは「私」ではなくて「ワンピース」で。しかも、ワンピースそのものではなくて、ワンピースの「色」である。


 私が切なくなったのは、多分、それが原因なのだろう。


「そう……綺麗な色よね。私も気に入っているわ」

「ん? キャシィさん、少し元気がないことはないかね?」


 貴方のせいよ。貴方が、私よりワンピースの色に夢中になるからよ。

 内心そんなことを思ってしまったが、その思いを口から出すことはしないでおいた。


 言っても意味のないことだと、分かっているから。


「いいえ。そんなことはないわ」


 私はそう返す。

 しかし、リンツは納得できないような顔。怪しむような表情で、首を軽く傾げる。


「……本当かね?」

「本当よ」

「しかし、何だか顔色が悪く見えるよ?」

「それは元々。気にしないでちょうだい」


 くだらないことで少し憂鬱になっているなんて、言えない。

 それに、そんなことを打ち明けたって、リンツが不快な思いをするだけだ。


「そうかね……僕の気のせいならいいのだがね。ま、とにかく、体調に異変があったら言ってくれたまえ」


 リンツは、しわの刻まれた顔に柔らかな笑みを浮かべながら、そっと言葉をかけてくれた。


「お気遣いありがとう」

「いやいや。お礼を言われるようなことは、何もしていないよ」


 そこで彼は話題を変える。


「そうだ! 今、外へ行けるかね?」

「え」


 急に話題が変わり、私は一瞬動揺した。


「今日は半日工事だろう? ここにはいられない。だから、その間……もしよかったら僕の部屋へ来ないかね?」


 そうだった。部屋を拡張するための工事があるのだったわね。


 リンツに言われたことで、今日工事があるということを思い出した。


 彼に言われなかったら、すっかり忘れていて、いざその時になって思い出すことになるところだった。そんなことになったら、きっと大慌てすることになったことだろう。こればかりは感謝。


「リンツさんの部屋に?」

「そう。前は何度か来てもらった覚えがある! しかし、ここしばらくは来てもらえていない! ……だから少し寂しくてね」


 後半、突然、哀愁漂う顔つきになるリンツ。


 いつも陽気でよく笑うリンツだが、年を感じさせるその面には、今のような表情の方が似合っている。哀愁漂う表情が似合う顔なのだと、さりげなく気がついてしまった。


「そうね、じゃあ行かせてもらうわ。今からでいい?」

「もちろん!」


 リンツはまた笑顔に戻っていた。


「あ、でも……部屋の片付けはまだできていないわ」


 母国から持ってきた荷物はそんなに多くない。しかし、日頃使っている日用品は、部屋中に散らばっている。散乱させているというわけではないけれど、まだ片付けられてはいない。特に洗面所なんかは、色々と物が残っている。


「それは大丈夫! 侍女に任せておけばいい!」

「ローザさんに?」

「そう! それで何の問題もないよ」


 親切なローザのことだ、頼めば引き受けてはくれるだろう。だが、彼女に任せてしまったりして、良いのだろうか。片付けを他人に任せて自分は遊びにいくなんて、無責任に思えて仕方ない。


 そんな不安を読んでいてそれを掻き消すかのように、リンツは言ってくる。


「もし何かあったら、ということは、既に僕から頼んであるから」

「え!」

「だから、キャシィさんが心配することはないよ」

「えぇっ!」

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