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年上王子が呑気過ぎる。  作者: 四季
4章 同室の件

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38/53

38話 満足感

「いいね、それ! アリだよ!」


 うっかり丁寧さを欠いてしまい焦る私に、リンツは明るくそんなことを言ってきた。非常に嬉しげな声色なのが、私にはよく分からない。


 失礼な言葉遣いをされて喜ぶ人なんているわけない。なのに彼は、失礼な言葉遣いをされたことを喜んでいるかのような表情。


 ……謎ね。


 秘宝の在り処と同じくらい謎だわ。


「そうだ、キャシィさん!」

「はい?」

「これからは、先ほどのように話すようにしてくれないかね?」


 え。何それ。どういうことなの。

 そんな風に言いたい気分だ。


「先ほどのように、とは?」

「ついさっき、一瞬、友好的な話し方をしてくれただろう? これからはいつもそんな風に話してもらえたらいいな、と思ってね」


 なるほど。彼が言いたいのは「丁寧でない話し方にしてほしい」ということか。


 彼の言いたいことは、おおよそ分かった。

 だがしかし、なぜ丁寧でない方を求めるのかが理解できない。


 彼はピシアの王子。その身分もあり厳しい教育を受けているだろうから、礼儀正しさを求めているというのなら分かる。


 しかし、彼が求めたのは、逆のことだった。

 不思議としか言いようがない。


「はぁ」

「頼めないかな?」

「リンツさんが望まれるのなら、そうしても構いませんけど……少し失礼ではないでしょうか」


 ソファに腰掛け寛いでいるリンツは、私の言葉に笑顔で返してくる。


「失礼なんてことはないよ!」


 リンツの言葉ははっきりしていた。


「僕が望んでいるのだから、失礼なわけがないとも」

「……そうですか?」

「そうだよ」


 どうやら、リンツはリラックスしているようだ。ソファに腰掛けたまま両手を合わせ、その手をぐーんと上へ伸ばす。それから大きなあくびをして、彼は続ける。


「僕と君は夫婦なのだよ? それも、正式な順路をたどっての夫婦。だから、敬語でないから失礼、なんてことはないよ」

「言われてみれば。確かにそうですね」

「分かってくれたかね?」


 リンツは少し不安げな顔。


「はい、分かりました」

「それは良かった! 理解してくれてありがとう!」

「いえいえ。丁寧に説明して下さってありがとうございます。では……普通に話すよう心がけるわ」


 わざと丁寧語を止めるというのは、さりげなく、かなり勇気がいる行為だ。これまで意識したことはなかったけれど、今、それを強く感じた。


「……こんな感じですかね?」

「そう! そんな感じだよ!」

「分かりました。では……心がけるようにするわ」


 慣れない! 慣れない! 全然慣れない!


 とにかく違和感しかない。


 だが、リンツが望むのだ。彼の希望に応えるのは私の役目でもあろう。


「やっぱり、変な感じで……あ。変な感じがするわ」

「いい!」

「これ、違和感が凄まじいわ」

「いいね!」

「おかしくはない?」

「素晴らしいよ!」


 リンツは興奮気味に言った。


 何だろう。よく分からないけれど、気に入ってもらえているみたいだ。しかし、何がこんなに気に入ってもらえているのかは、いまいち理解できない。


 一人何とも言えない気分になっていると、リンツは急に立ち上がった。


「よし! では早速頼みに行ってくるとしようかね!」

「部屋の件?」

「そう。この部屋を何とか上手く使えないかどうか、というところを、聞いてみるんだ」


 私はベッドに座ったまま、軽く頭を下げる。


「お願いしま……じゃなかった。お願いね、リンツさん」


 ついうっかりミス。


 ……すぐに言い直したもの、セーフよね?


「もちろん! では失礼」


 リンツはそそくさと歩き出す。彼が扉へ到着するのに、時間はそんなにかからなかった。


「またね!」


 片手を軽く掲げつつ、リンツは部屋から出ていった。


「ふぅ……」


 私は一人溜め息をつく。

 きちんと話すことができたため、満足感がかなりある。

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