36話 気がつけば次の朝
意外と疲れていたのか、その夜はすぐに眠りに落ちてしまった。
そして、気がつけば次の朝。
窓の外は明るく、よく晴れている。小鳥のさえずりでも聞こえてきそうな、良い天気だ。こうも天気がいいと、起きた時の気分も爽やか。朝に強い方ではない私でさえ、心地よく目覚めることができた。
「おはようございます、キャシィ様」
「おはよう!」
朝、部屋にやって来てくれたローザに、私は元気よく挨拶をする。
いつもなら「もう少し」と言って二度寝することもあるくらいなのだが、今日に限ってはそんなことはない。体は軽いし、頭もすっきりしている。
「今日はお元気なのですね」
「はい。目が妙にすっきり覚めました」
「それは良かった」
ローザは穏やかに笑いかけてくれた。
「ところで、リンツ王子と同室になるかどうかという件の答えはでましたか?」
……あ、忘れてた。
そうだった! それを考えなくてはならないのだった!
「忘れていました」
「あら……そうですか」
「すっ、すみません! すぐに考えますから!」
するとローザは、口を隠すように口もとへ片手を添え、ふふ、とさりげなく笑う。
「急がなくて構いませんので、どうか、ゆっくりとお考え下さい」
「すみません、私……そんな大切なことを忘れてしまうなんて、大問題ですね」
「いいえ。昨夜はまたリンツ王子と出掛けていらっしゃったのでしょう? 時間がないと考えるのも難しいですよね」
あぁ、もう! 何をやらかしているのよ!
そんな風に自分を叱りつけたい気分だ。
何か大事件があったわけでもないにもかかわらず大切な件について忘れてしまうなんて、普通は許されないミス。今回は相手がリンツやローザだったからまだ良かったものの、他の人に対してこんなことをやらかしてしまったら救いようがない。
「では、朝食をお持ちしましょうか?」
「はい。お願いして構いませんか」
「もちろんです。すぐに持って参ります、少々お待ち下さい」
ローザが部屋から出ていった。そして、私はまた一人になる。
……どうしよう。
一体、どうすればいいのだろう。
同室になれば、いちいち会いに来てもらう手間が省ける。それに、リンツとずっと一緒にいられて楽しさもあるだろう。
だが、良いことばかりではない。
二人で同室、となるとこの部屋は狭いだろうから、別の部屋へと移らなければならないかもしれない。それはつまり、過ごし慣れたこの部屋とお別れということで、少しばかり寂しい。
それに、一人きりになって何も気にせず寛ぐことはできなくなってしまうだろう。いつだってリンツの目があるわけだから、あまり品のない振る舞いはできない。
どちらを選ぶべきなのだろう。
私も今はリンツのことが嫌いでないから、二人で過ごせるというところは同室を選んだ場合の魅力だ。ただ、一人で遠慮なく寛ぐことができなくなるというのは、痛いところである。
「そうだ、相談してみよう」
一応言っておくが、ダジャレではない。
そう思い立っただけである。
「リンツさんに直接話してみれば、少しは何か変わるはず……!」
私が一人で悩み続けたところで何も変わりはしない。胃が痛くなることはあったとしても、解決の方向へ動くことはほぼあり得ないだろう。
ならば、リンツに直接相談してみよう。
一人で解決できないことも二人なら……そうだ、それがいい。そうしよう。
そう決めたので、私はそれを、朝食を運んできてくれたローザに伝えた。
すると彼女は、リンツに伝えておくと言ってくれた。ありがたい。感謝だ。
——そして、夕方。
ローザが正確に伝えてくれたのだろう、リンツが部屋にやって来た。
「来たよ! キャシィさん」
「すみません、急に呼んでしまって」
「いいよ。で、話って?」
リンツの表情は明るい。
急に呼び出されたことを、不快に思ってはいないようだ。私は内心安堵した。
「実はその、同室の件に関してなのですが……」
「おお! 考えてくれたのかね?」
「いくつか相談したいことがあります」




