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年上王子が呑気過ぎる。  作者: 四季
3章 いろんな娯楽
35/53

35話 星空を見上げながら

 サンドイッチを食べながら見上げた空は、美しかった。


 暗い空に散らされた、宝石のような星たち。それは、これまで見たことがないくらい輝きに満ちていて。あのままアックス王国にいたら、こんな景色を見ることはなかっただろうな——そんな風に思うと、ここに来た意味も少しはあったのかもしれないと、現状を前向きに捉えることができた。


「綺麗……ですね」


 溜め息混じりに漏らす。


「気に入っていただけたかな?」

「……はい」


 小さく答え、空に手を伸ばす。


 あの星を一つでも掴み取ってしまえたらいいのに。いつの間にかそんなことを考えている自分に気がついて、私は内心苦笑する。子どもじゃないのだから、と。


「凄く綺麗」

「僕もそう思うよ」


 私たちは感性が近いのかもしれない。そう思えることは、私にとっては嬉しいことだった。


「だがね——」

「え?」


 リンツがいきなり、私の手を握ってきた。

 唐突なことに、きょとんとしてしまう。


「キャシィさんも、この空と同じくらい綺麗だよ」


 リンツの口から飛び出した言葉があまりに非現実的だったため、思わず「はい?」なんて返しをしてしまった。


「君がここへ来てくれて良かった」

「え、あの」

「キャシィさんには辛い思いをさせてしまったかもしれない……それは分かっているんだ。でも、僕は君が来てくれて嬉しいよ」


 温かな言葉をかけてもらえたことは嬉しい。だが、素直に喜ぶことは難しかった。


 だって恥ずかしいんだもの。


「だから、僕は今ここで誓うよ」

「……リンツさん」

「キャシィさんがピシアに来たことを良かったと思えるように、これからもずっと頑張るって」


 そう言って、リンツは柔らかく微笑む。


「……ありがとうございます、リンツさん」


 私は恥ずかしくて仕方がなかった。けれども、恥ずかしいからといってずさんな対応をするのは問題だ。だから、勇気を出してお礼を言った。


 顔が赤くなっていたりしたら、どうしよう。


 ……いや。


 この暗がりでは、相手の顔の色なんて見えないか。


「そんな風に言っていただけて、光栄です」

「光栄? それはこちらのセリフだよ! 僕と結婚してくれてありがとう」

「あ、いえ……それは両親が勝手に決めたことです」

「ガーン!」


 リンツは大袈裟にショックを受けたような振る舞いをしていた。

 もしかしたら笑うべきところだったのかもしれないが、笑って良いのかどうか私には分からず、そのため私は笑わないでおいた。

 この選択が間違いであったなら、少しばかり申し訳ないが。


 高い空に瞬く星々より降り注ぐ、眩い光。それを浴びながら、私たちは、特に何でもないことを話す。


 そこに深い意味なんてなくて。

 でも、楽しいのだ。


 だから、今はもう少し、こんな風にしていたい。


 誰の目も気にすることなく、穏やかに、二人でいる時間を楽しめたなら……それはきっと、素敵な思い出になるだろう。


 時が流れても、ずっと、今日この瞬間を忘れずにいられるはずだ。


「今日は素敵な場所へ連れてきて下さって、ありがとうございました」

「いえいえ。いきなり無理を言ってすまなかったね」

「最初はびっくりしましたけど……でも、案外楽しかったです」


 地面に座ることにはまだ慣れないけど、ね。


「また誘って下さい」

「いいのかね?」

「もちろんです。私としても、ピシアのことをもっと知りたいですし」


 彼となら、もっと色々なところへ行ってみたい。


「それはいい! では、また気軽に誘わせてもらうこととするよ!」


 リンツは笑う。

 屈託のない、子どものような笑みだ。


「さて!」


 明るい笑みを浮かべた後、リンツは、ゆっくりと立ち上がった。


「ではそろそろ、城へ帰るとするかな!」

「そうですね」

「ん? テンションが低くないかね?」

「いえ、そんなことはありませんよ」


 こうして、私とリンツは城へと帰った。


 素晴らしい星空を見られた。それだけでも満足だ。でも、それだけではない。リンツと二人で見られた、というところにも、意味があるのだ。

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