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年上王子が呑気過ぎる。  作者: 四季
3章 いろんな娯楽

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31話 もっちりで止まらない

「名物スイーツ、ですか?」


 こんな名物があったなんて、知らなかった。

 ピシアに来てからしばらく経つけれど、やはり、まだまだ知らないことが多そうだ。


「はい。生クリームに牛乳、そしてズクッコ粉を混ぜてお作りした、もっちりするスイーツです」

「へぇ」


 何だか聞き慣れない言葉が出てきたけど……それはともかく、もっちりしているというのは気になるところだわ。早く食べてみたい。


「もっちりだなんて、素敵ですね」

「どうぞお召し上がりください」

「ありがとう! 早速食べてみます」


 スプーンを手に取り、ガラス製カップに入っている白い物体をすくいあげてみる。

 ブロック型の白い物体は、持ち上げた瞬間、ブルンと揺れ動いた。食べ物ではあまり見かけないような揺れ方だった。


 でも、悪くない。美味しそう。

 すくいあげた白い物体を、口へ運ぶ。


「……ん!」


 意外にも滑らかな、つるんとした感触が、舌に衝撃を与える。


 恐る恐る噛んでみると、案外柔らかかった。舌だけで押すとかなりの弾力を感じるが、歯を使えば楽に噛める。硬さを感じることはない。


 口内でもしっかりとした形を保っていたが、噛み始めると一変。急激にペーストのようになってゆく。そして、みるみるうちに、液体にかなり近い状態になった。


 その頃になって、口内を甘みが包み込む。


 しかし不快ではない。


 というのも、甘みと言ってもいかにも甘いというわけではなく、ほんのりとした甘さなのだ。柔らかい甘さ、という表現が相応しいだろうか。


 砂糖を大量に入れました、と訴えてくるような味でないところが、好印象。


「美味しいです!」

「気に入っていただけましたか?」

「はい! とっても!」


 ローザの言葉に返事をしながらも、どんどん食べていく。

 止まらない。止められない。


「ふふ。キャシィ様、凄く早くお食べになりますね」

「美味しいものは止まりません!」

「喉に詰まっては大変ですよ。どうか、ちゃんとお噛みになって下さい」

「はい! 気をつけます」


 そう返しつつも、勢いを緩めることはなく、どんどん食べ進んでいく。


 仕方ないじゃない。美味しいんだもの。


 こうして私は、次々、白い物体を食べていった。


 自制心がないわけではないが、人間は、食べ物の美味しさには勝てないものだ。美味なものを一度食べてしまうと、「この辺りで止めておこう」なんて考えることはできない。


 そして、あっという間になくなってしまった。


「ふぅ!」


 あぁ、美味しかった。


 ガラス製カップはすっかり空になってしまったが、私の心は満たされている。これが食べ物の力。素晴らしいことである。


「もう食べきってしまわれたのですか? キャシィ様」

「あ……」


 ローザにそう言われてから、私は急激に恥ずかしくなった。

 だって、紅茶には目もくれずスイーツを食べ続けていたんだもの。


 そんなの、まるで子どもじゃない。


「キャシィ様がこんなに短時間ですべて食べられるとは思っていなかったので、少々驚きました」


 でしょうね。

 私だって驚いたわ。こんな一気に食べられるなんて、思ってもみなかった。


「自分でも……驚いています」

「そうなのですか?」


 首を傾げるローザ。


 彼女は私を、早食い王女とでも思っているのだろうか?

 そんなわけないじゃないっ!


「はい。こんなに早く食べ終わるとは思っていなかったので」

「そうだったのですね。そこもまた、意外です」

「さすがに、いつもこんな早食いではないですよ。ただ……このスイーツはとても美味しかったので、あっという間に食べてしまいました」


 嘘ではない。これが真実だ。


「気に入っていただけたなら、何よりです」

「本当に美味しくて、幸せな気分になりました。ありがとう、ローザさん」


 すると、ローザは少し黙る。

 何だろう? と思って様子を見ていたところ、彼女は、数秒経ってから口を開いた。


「……少しはすっきりなさいましたか?」


 かけられた言葉に、私は戸惑う。

 私が悶々としていたことに、ローザは気づいていたのか? と。


「はい。でも……ローザさんはどうして、私が悶々としていたことに気づいたのですか? 特に何も相談してはいませんよね?」


 気になったので、直接尋ねてみた。

 それに対し、彼女はあっさりと返してくる。


「リンツ王子が『キャシィさんを悩ませてしまったかもしれない!』と相談してこられまして。少しばかりお話をし、結果、スイーツを持っていくということに決まったのです」


 そっか。そうだったのね。


 リンツが私を心配してくれていた——それを知った瞬間、心が温かくなった。


 冬が突然終わって春が来た、みたいな気分だ。

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