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年上王子が呑気過ぎる。  作者: 四季
3章 いろんな娯楽
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30話 奇妙な感情

 体に残る、リンツの手の感触。

 それが妙に頭から離れなくて、私は悶々としていた。


 昼食を終えた私が本来考えるべきなのは、彼と同室にするのかという件。けれど、今この頭の中は、彼が近くにいたことや彼の手が私の身に触れたことなんかで、埋め尽くされてしまっている。


 私は少しおかしいのかもしれない。

 異性の手がほんの少し体に触れた——そんなことだけで頭がいっぱいになるなんて、どうかしている。


 いや、もちろん、十四や十五の娘であるならば、そうなっても仕方ないだろう。子どもから大人へと変わりゆくその狭間では、異性への関心も高まるというものだからだ。


 けれど、私は違う。十四や十五の娘ではない。

 もう二十歳になっているうえ、自分の意思でなかったとはいえ、結婚もしているのだ。


 そんな女が、少し触れられた程度で頭がいっぱいになるなんて、妙な話だろう。


「……はぁ」


 ベッドに仰向けに倒れ込み、両の手のひらで顔全体を覆う。


「何なのよ、これ……」


 今私は、これまで経験したことのない、極めて不思議な世界にいた。

 温かいのに悩ましく、重苦しいのに宙に浮くよう。そんな、既存の言葉では表現のしようがない感覚に、私はただ、戸惑うことしかできなかった。


 リンツと同室にするのかどうか、ということについて考えなくてはならない。なのに、目を閉じた瞬間脳内に浮かんでくるのは、リンツの穏やかな微笑みだけ。しかも奇妙な胸の痛み付きだから、本題について考えるどころではなくなってしまう。


 何よこれ! 何なのよ!


 そう言ってやりたい気分。

 でも、言う相手はいないから、なお辛い。


「……はぁ」


 溜め息をつくのは良くない。そんなことは分かっている。でも、今は溜め息を漏らさずにはいられない。心の内のもやもやを定期的に吐き出していないと、胸が破裂してしまいそうだから。


 このままではどうにもならないだろう、と思い、顔に当てていた手を離してみる。そして、天井へと視線を移す。


 白地にベージュの薄い線が描かれた、地味めの天井。


 あぁ、これはリラックスさせてくれそうだ。


 ——そう思ったのだけれど。


 意外と簡単にはいかなかった。

 微笑みを浮かべるリンツの顔は、天井を眺めたくらいで消えてくれるものではなかったのだ。


 なぜ?


 昨日まではこんなことにはなっていなかったのに。昨日までだって、傍にいて話すことはあったのに、何も起こらなかった。こんな奇妙な感情に襲われることはなかった。でも、今日はこんな気持ちになっている。


 それは一体、なぜなの?


 誰か、説明してほしい。すべてを明かして、この胸をすっきりさせてほしい。


 ……でも叶わないわね、そんな願い。


 きっと、自分でどうにかする外ないのだろう。

 一人きりの午後。私はベッドに寝転がりながら、リンツのことばかり思い出して、悶々としていた。



 コンコン。


 ベッドの上で考え込んでいると、誰かが扉をノックする音が聞こえた。


「ローザです」


 ノック音に続けて、聞き慣れてきた声。

 彼女なら問題ないだろう。そう思い、「はい」と返事をした。


 すると、扉が開く。


「こんにちは。いかがお過ごしですか? キャシィ様」


 部屋へ入ってきたローザは小振りのお盆を持っていた。そこに乗っているのは、既に液体が入ったティーカップと、透明なガラス製カップ。そして、小さなスプーン。


 ガラス製カップには、白い物体が入っているように見える。

 スイーツか何かを持ってきてくれたのだろう。


 私は速やかにベッドから起き上がった。


「ローザさん、何か持ってきて下さったのですか」

「はい。甘いものをお持ちしました」


 言いながらローザは、ソファの近くに置いてある低いテーブルの方へと歩いてきた。そして、低いテーブルの手前ですっとしゃがみ込み、お盆の上の物三つをテーブルへと移動させる。


「こちらへ置かせていただきますね」

「ありがとう」


 ベッドから立ち、ソファへ移る。

 そして、低いテーブルに置かれた三つの物をじっと見る。


 ティーカップに入っているのは、紅茶のようだった。赤茶色をした、よくある紅茶だ。それはさすがに、ローザに聞かずとも分かる。


 しかし、問題はカップ。

 透明なガラス製のカップには、白い物体が入っている。ヨーグルトのような液体ではなく、角砂糖のように硬そうでもない。


「ローザさん、これは何ですか?」


 スプーンがあるところから察するに、すくって食べるものなのだろう。だとしたら、それなりに柔らかいと思われる。


 そんな風にして自分なりに考えてみていたのだが、途中で「ローザに聞いた方が早いのでは」と気づいてしまったため、取り敢えず質問してみた。


 するとローザは、私の問いにあっさりと答えてくれる。


「それは、この国の名物スイーツです」

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