3話 祝福の先に
その後、私とリンツは式を挙げた。
彼の生まれ育った国ピシアにある教会で式を挙げたため、見に来ている人も、大体がピシアの人。中にはわざわざアックス王国から見に来てくれていた人もいたみたいだが、その数といったらほんの少しでしかない。ほぼ気づかないくらいの数である。
ただ、そんな状態ではあったものの、両親と姉は参加しに来てくれた。
純白のウエディングドレスを身にまとうと、不安は消え去って。そこに残ったのは、この先への期待。
両親が勝手に決めてきた相手との結婚なんて嫌——そんな思いは、徐々に薄れていっていた。
「結婚おめでとう! キャシィ!」
リンツと並んで立っているところへ、姉がやって来た。
その手元には、金の花束。
「あ、姉さん」
「見てこれ、金ぴかの花束! 特別に注文したものよ。あたしからのお祝い!」
黄金に輝く花が束ねられている、金の花束。
姉はそれを、私へ差し出してきた。
「え、いいの?」
「作り物のお花だから、いつまでも飾れるわよ!」
「ありがとう!」
私は姉から、金の花束を受け取った。
本当のことを言うならば、私は、姉に嫉妬しているところがあった。第一王女である姉の方が、いつも大切にされているように見えていたからである。
けれども、この贈り物は心から喜べた。
「良かったね、キャシィさん」
心から喜んでいることが顔に滲み出てしまっていたのか、すぐ隣に立っていたリンツが、そんなことを言ってくる。
「はい。とても嬉しい贈り物です」
「キャシィさんが嬉しそうだと、僕も嬉しいよ」
リンツは笑顔だった。
私たちは親子に見えるくらい年が離れているのだけれど、付き合っていくうえで年の差は関係ない。親しくなれない、ということもなさそうだ。なぜなら、彼が子どものような面を持っているからである。
「幸せになるのよ、キャシィ」
「ありがとう姉さん。これからも……色々頑張っていくわ」
姉と話し終えた頃になって、両親が現れた。
「父さん、母さん。私、その、何とかやっていけそうな気がするわ」
今は自信があるから、私はそう言う。
すると二人は、まるで練習していたかのように揃って、気まずそうな顔をした。表情が曇ったのは、同じ人間が二人いるのかと思ったほど同時だった。
「おめでとう、キャシィ」
「気が合うようで良かったな、キャシィ」
先に母親が、続けて父親が。二人は順に、お祝いのような言葉をのべてくれた。けれども、その表情は曇り空で。姉は純粋にお祝いしてくれている感じだったのとは逆に、両親は、何やら思うところがあるような様子だった。
その後、私とリンツは残りの予定も無事にこなし、ピシアの城へと帰った。
「こちらが、キャシィ様のお部屋でございます」
ピシアの城には、既に、私のための部屋が用意されていた。
どんな内装だろう? とわくわくしつつ、中へ入る。
——そして、驚いた。
床には赤いカーペットが敷かれており、歩くたびに足の裏へふかふかとした感触が伝わる。豪華な雰囲気だ。一方、壁と天井は、豪華とは逆のシンプルなデザイン。全体的には白で、うっすらとベージュの縦線が描かれている。
「素敵ですね!」
「お気に召したのなら、何よりです」
豪華すぎず、地味すぎることもない。バランスのとれたデザインの部屋に仕上がっていて、私は密かに感動した。
広さはほどほどだが、過ごしやすそうなところだ。
部屋の中に置かれている家具は、ベッドや低めのテーブルとソファ、洋服から小物まで収納できそうなタンス、のような、最低限のものだけ。余計なもののない、整理整頓された部屋となっている。
「私はこれから、ここで暮らしていいんですよね?」
「もちろんです」
「こんな素敵な部屋、お借りして大丈夫なのですか?」
「はい。当面お国へは帰られぬ契約とお聞きしましたので、長時間でも過ごしやすいお部屋を考えてみました」
——国へ帰られない契約?
さらりと放たれた言葉だけに聞き逃しそうになったが、明らかに不自然だ。結婚したばかりの女に対して言うこととは、とても思えない。
何を言っているのか気になるので、私は、尋ねてみることにした。
「あ、あの……!」
「はい。どうかなさいましたか」
「国へ帰られない契約とは、何ですか? どういう意味ですか?」