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年上王子が呑気過ぎる。  作者: 四季
3章 いろんな娯楽
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29話 変わり者は無自覚なもの

「だらけているところを見たいだなんて、リンツさんは変わっていますね」


 ベッドに腰掛け、堂々とソファに座っているリンツに向かって言葉を発した。


「変わっていると思うかね?」

「はい。少し」

「そうか……まぁ、君が言うならそうなのだろうね」


 いつものことながら、リンツは穏やかだ。私が失礼なことを言っても、少々のことで怒ったりはしない。怒るどころか、微笑みながら言葉を返してくれる。


「だがしかし、君も多少変わっていると思うよ」

「えっ」


 私が、変わっている?

 そんなことはないはずだ。


 極めて不細工ということはないが、美人でもない目鼻立ち。まったくないわけではないがさほど目立たない胸。寸胴気味で足もあまり長くなく、いまいちかっこよくない体型。


 私はこれといった特徴のない平凡な女。そのはずである。


 なのに「変わっている」だなんて。

 そんなことを言われたのは初めてだ。


 もし相手がリンツでなかったら、「変わっているですって? 失礼ね!」と言ってしまっていたかもしれない。変わっている、なんて言われたことを、不快に思わずにはいられなかっただろう。そういう意味では、言ってきたのがリンツで良かった。


「自室でだらけていることを自ら告白する女性が、変わっていないわけがないと思うのだが?」

「た、確かに……」


 言われてみれば、と、妙に納得してしまった。


「ま、変わっている者同士だと気を使わなくてよくていいね」

「はい」


 変わっている者同士、とまとめられてしまうのは少々悔しい。複雑な心境だ。


 しかし、ある意味それは事実なのかもしれない……。


「というわけで、キャシィさん。これからは、毎日一緒に過ごさないかね?」


 え、話がまたそこに!?


「一緒に過ごすのは……あの、考えさせて下さい」


 すると、リンツはバッと立ち上がる。


 突然のことだったため、驚いた。が、特に怒っているということはなさそうだ。機嫌が悪くなるどころか、彼は余裕のある表情で私の方へと歩いてくる。


「……リンツさん?」


 わざわざこちらへ来るなんて、一体どうしたのだろう。

 そんな風に思っていると、彼は私のすぐ横に座った。


「あの、リンツさ……」

「何か考えることがあるのかね?」


 二人並んでベッドに腰掛けているという体勢。なかなか不思議なものがある。


「迷うことは何もないと思うのだがね」


 言いながら、リンツは私の体を抱き寄せた。

 服と服が触れ合う。


「ちょ、ちょっと! 何ですか!?」


 私は思わず声をあげた。

 だって、急に触られるとは思っていなかったんだもの。


「君は実に謹み深い女性だね。そういうところも嫌いではないが……」

「リンツさんっ!?」

「もう少し積極的になってみてはどうかな?」


 リンツの手が私のウエストに回される。

 でも、その手は、極めて健全なものだった。淫らさなどは欠片もなく、父親が幼い子を抱き上げるかのような包容力を持った手だ。


「……ずっとこうしていたいものだ」


 ふぅ、と息を吐き出すリンツ。

 その表情は、どこか哀愁を帯びていて、秋の夕暮れのようだった。


「……気に入っていただけたことは、光栄に思います」

「おぉ。そうかね」

「けど……」

「何かね?」

「ベタベタ触るのは、止めてほしいです」


 はっきりと述べておく。

 するとリンツは、私の体から腕を離してくれた。


「嫌なのかね!?」

「はい。嫌いではなくても、触られるのはあまり嬉しくありません」

「おぉ……」


 何とも言えない空気になってしまった。


 私のせいだろうか……。


「ということはつまり、一緒の部屋で過ごすのは嫌という意味かね?」

「それはまだ分かりません。ただ、少し考える時間が欲しいのです」


 いきなり言われて即座に答えるというのは、私には難しいことだ。

 せめて、少し考える時間が欲しい。


「そうかね。……分かった。では、一日二日待つことにするよ。それでいいかな?」

「はい。お願いします」

「ありがとう」

「いえいえ。こちらこそ、ありがとうございます」

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