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年上王子が呑気過ぎる。  作者: 四季
2章 遊園地
24/53

24話 夕暮れ時

 リンツが飲み物を買いにいってくれている間、私は一人ベンチに腰掛けていた。


 茜色に染まっていた世界が、紫へ、青へ、少しずつ色を変えてゆく。それはまるで、水彩絵の具が紙の上で混じりあうかのよう。


 見上げた空は、言葉でぱっと表すのは難しい色をしていた。


 今日は楽しかった。

 色々な初めてをリンツと二人で経験できたことは、きっと、ずっと忘れないだろう。


 この時間がいつまでも続けばいいのに。今は、そんな思いで胸がいっぱいだ。



 そんな風に、一人幸せに浸っていた時。

 私の目の前に、突然、見たことのない男性の群れが現れた。わらわらと。


「こんばんはー」

「どーもー」

「こんばんわがしー」


 寄ってきた男性らは、いきなり挨拶してきた。


 しかし、彼らの顔を私は知らない。話した記憶どころか、会った記憶や見かけた記憶さえない。


 これは挨拶を返すべきなのか否か。

 迷うところである。


 挨拶を交わすのは、人として当然のこと。だが、時には無視して関わらない方がいいという場合もあろう。相手が厄介な輩の場合は、特に。


 しばらく考え、私は言葉を返さないことに決めた。


「あれーん? お姉ちゃん、耳遠いのー?」

「もっしもーしー」

「聞こえてないみたいるかー」


 馬鹿らしい。


 そう思い、ベンチから立ち上がった——その瞬間。


 突然手首を強く掴まれた。

 冷たいものが背筋を駆け抜ける。


「無視すんなよー、お姉ちゃん」


 手首を掴まれてしまっては、もはや逃れられまい。そう悟った私は、無言でやり過ごすことを諦めた。


「……何でしょうか」


 下手に刺激しないよう、小さめの声を発する。


「あ、やーっと反応してくれた」


 不気味な猫撫で声を放つのは、私の手首を掴んでいる男性。


「何かご用でしょうか」

「お姉ちゃん、一人? もしよかったら、俺らと遊ばないー?」


 なんてベタな絡み方。

 思わず笑いそうになってしまうのをこらえ、淡々とした調子で返す。


「一人ではありません。なので、これで失礼します」

「えー? 一人じゃーん」

「一緒に来ている者がいますので」

「なにそれ冷たくなーい? ちょこっとでいいからさ、俺らとも遊んでいってほしいなー」


 丁重にお断りするものの、男性はとことん粘ってくる。この調子では、いつまで経っても諦めてはくれなさそうだ。なかなか厄介な人たちに絡まれてしまったものである。


「あの、もう行くので……」

「えー? なんてー?」

「きゃっ!」


 急に体を引き寄せられ、私は思わず情けない声を漏らしてしまった。


「離して下さい!」


 鼻と鼻が触れそうな距離まで接近したことに危機感を抱いた私は、つい、調子を強めてしまう。

 なるべく刺激しないように、と心掛けてはいたのだが。


「離せって? えー、それは無理だなー」

「止めて下さい! いきなりこんなこと!」


 腕力で負けようとも、精神まで負けてはならぬ。その一心で、強気に振る舞う。


 けれど、本当は不安しかない。


 こちら女で相手は男。それだけでも、圧倒的にこちらが不利なのだ。にもかかわらず、相手は一人でないときている。男女の差に加え人数差まであるとなると、向こうが有利であることは一目瞭然だ。


 道を歩いている他の客たちは、揉めている私たちへ視線を向けはするものの、助けようとはしてくれない。見て見ぬふりというやつである。


 だが、それも仕方ない。


 ただ一人の見知らぬ女を助けるために数人の男に喧嘩を売るなんて、誰だって嫌だろう。


「お姉ちゃん、ワンピース可愛いね。一緒に来てよー」

「一緒に遊びーましょー」

「人生で一度くらいは女の子と喋ってみたいわしー」


 本当に鬱陶しい。不愉快極まりない。

 けど、どうすればいいのだろう。

 不利な条件が揃っている私が、この状況から脱出する方法——駄目だ、思いつかない。


「離していただけませんか」

「離す? なにそれ、ないわー。せっかくのお姉ちゃんを逃がすとか、ないわー」


 男性の調子に乗った口調が非常に不快である。


「俺らと一緒に来てくれよな。その方が絶対楽しいってー」

「嫌です」

「はぁ⁉︎ 今、嫌とか言ったな! それは許せねぇ!」

「絡むのは止めて下さい!」


 ——刹那。


「ティートルネードッ!!」


 場に、謎の叫びが響いた。

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